ケータイのエコシステムをスマホ上に再現する「LINE」本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

» 2012年07月04日 10時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 さて、なぜ筆者がiモードを思い出したか。それは、ドコモがiモードサービスをインフラとして成長させる際に、表向き銀行決済などビジネスマン向けの固い機能を搭載し、ドコモ側でコントロールする範囲、箱庭のサイズを決めていたからだ。箱庭からはみ出てしまう、例えばアダルト系コンテンツなどは「勝手サイト」として運営者側のあずかり知らぬものとされた。

 しかし後日談で、iモードの立ち上げに関わった夏野剛氏や、その夏野氏に勝手サイトの原案を進言した人物に話を聞くと、勝手サイトが増えていくことを影でiモードチームが応援していたのだという(というと語弊があるが、公式サイト以外のコンテンツが生まれやすいよう道具を用意した)。これはアダルトサイトで普及初期の需要を引き上げたいという意図もあったのだろうが、本当の意図は別の所にあった。

 夏野氏にアイデアを提供した人物は、ダイヤルQ2(音声サービスに付加価値料金を設定し、課金代行をNTTに依頼するサービス)登録第一号で学生時代に起業。課金代行サービスが一般的ではなかったこの当時、ダイヤルQ2を用いた情報サービスで会社を一気に急拡大した。しかし、ダイヤルQ2を使ったアダルト関連ビジネスが大流行し、規制強化とともにイメージが悪化すると、あっという間に足場を失ってしまった。

 この時の教訓として得られたのが、プラットフォームの自由度は高くし、多様なサービスとコンテンツが生まれる自由な空気と土壌を作っておく一方で、公式の「箱庭」を用意して運用するということ。「外の世界との間に明確な線を引かなければ、ビジネスのインフラとして良いものでも潰されてしまう」というものだった。

 NHN Japanがどこまでこの話を意識しているかは分からないが、コミュニケーションインフラとしての可能性を生かす自由度の高さと、“日本のインフラ屋”に求められる公共性の高さ。これをバランスさせながら、成長していくことが今後の課題となろう。

 前述したように、LINEは他のソーシャルグラフとの接続を行わない方針のようだ。しかし、世の中にはさまざまなコミュニティ、ソーシャルグラフがあり、むしろ会社や学校の友人、グループなどではなく、特定の趣味を持った仲間との方が話の熱が入るものだ。

 例えば、筆者ならカメラや車の話が大好きだが、それをFacebookのようなリアルグラフのソーシャルネットワークで話題にしても、ごく一部の知人との一般的な会話にしかならない。しかし、カメラ好きのソーシャルグラフならば、思い切り熱の入ったコミュニケーションも可能になる。

 リアルグラフの中にバーチャルグラフを描けるようにするするのか。描けるようになるとしたら、匿名のバーチャルグラフなのかどうか。

 おそらくLINEはFacebookのように、リアルグラフにこだわり続けるのだろう。しかし、どこかで成長を継続するためには、リアルグラフの中のバーチャルグラフも描かなければならなくなるかもしれない。

テクノロジー企業としての本領が問われるとき

 さて、リリース後1年を大成功の祝いで綴ったNHN JapanのLINEだが、個人的には少しばかり引っかかる部分も感じている。ユーザー数の実績、次々に繰り出す新しいアイデア、それにプラットフォーム化に向けた方法論、ケータイビジネスを研究し尽くしたエコシステムの構築などは“お見事”というほかない。

 しかし、LINE関連のスマートフォン向けアプリ、Windows/MacOS X向けクライアントなどの実装を見ていると、特別に品質が良いとは感じない。むしろ、アプリケーションをインストールし直す(あるいは機種を変更する)際に、移行方法を間違えると、明確な警告もなくアカウントがリフレッシュされ、友だちの登録やグループ登録が失われたり、(徐々に改善しているとはいえ)通話品質など電話機能のイマイチ感、肝心なチャットも二重投稿になったり、URLを示したくとも貼り付けしにくい……など、アプリの質はまだ高くないと感じる。PC向けクライアントには通話機能も用意されていない。

 従来のLINEが提供してきた無料通話やチャット、グループチャット機能なども、同じ機能を持つ他システムに比べて秀でたところはない。アドレス帳との同期や電話番号とIDの紐付けなども、Viberなどの先駆者があった。

 無料通話+チャットを主とするアプリの中でも、ケータイ的なアプローチでの先駆者と言えば韓国発のカカオトークの方が、時期的には1年以上も先行していた。「カカオトーク」とLINEは兄弟のようにそっくりなサービスだが、違いがあるとすればLINEの方がプロモーションが上手で、マーケティング予算も大量に投入した、という違いだろうか。

 単なる無料通話だけならば、Skypeなど電話機能主体のアプリに比べて劣る部分があるLINEが使われる理由はない。思うにLINEの本質は(少なくともこれまでは)テクノロジーではなく、コンテンツとマーケティングにあったのだろう。だからこそ、たった1年で急成長できたとも言える。

 “シンプルコミュニケーションツール”としてのLINEならば、このアプローチで成長できたのも理解できる。しかし、今後はプラットフォーマーとして、パートナーが提供するさまざまな価値の器を作っていかなければならない。ここはテクノロジー企業の領域になってくる。

 注目が集まり、人が集まり、資金が集まれば、製品やサービスの質は高まるものだ。LINEの品質も、今後は素晴らしいプレゼンテーションや将来ビジョンと同様、どんどん高まっていくのだろう。

 急成長した彼らが、継続的な成長モデルを描けるかどうか。これからはテクノロジ企業としての本質が問われる番だと思う。これからのNHN Japan、LINEがどう変化していくかに注目したい。

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