先端技術が光る「らくらくスマホ」/3M戦略を体現する「Smart TV Box」/「KDDI∞Labo」がもたらす知見石野純也のMobile Eye(7月9日〜7月20日)(1/2 ページ)

» 2012年07月20日 19時17分 公開
[石野純也,ITmedia]

 海の日の3連休を挟んだ7月9日から20日の2週間は、営業日が1日少なかったこともあり、モバイルに関する大きなニュースは予想していたよりも多くなかった。とはいえ、「らくらくスマートフォン」や「Smart TV Box」など、注目すべき端末やサービスの話題に事欠いていないのは、動きの速いモバイル業界ならではだろう。今夏の連載では、富士通の発表した「らくらくスマートフォン」や、KDDIが夏モデルと同時にコンセプトを披露していた「Smart TV Box」、「KDDI ∞ Labo」の3つを取り上げ、これらの狙いや業界に与えるインパクトを解説していきたい。


実は新技術が目白押しの「らくらくスマートフォン」、ARROWSシリーズへの水平展開も

 富士通は、17日に「らくらくスマートフォン」に関する発表会を開催。同端末の特徴や、シニア向けケータイの市場動向、開発の狙いなどを解説した。らくらくホンシリーズは、ドコモのシニア向けケータイとして有名なブランドで、すでに累計2100万台を販売している。稼働中の端末も約1000万台と、その規模はドコモユーザーの約6分の1を占めるほどだ。一方で、昨今のスマートフォンブームの影響もあってか、「55歳以上のお客様のうち、約42%がスマートフォンを使ってみたいという結果が出ている」(NTTドコモ プロダクト部長 丸山誠二氏)。画面の大きさや、インターネットとの親和性の高さといった点が、シニア層の目にも魅力的に写っているようだ。大幅なカスタマイズを加えてまで、あえてOSにAndroidを採用した理由も、「OSをゼロから開発するよりいい。インターネットの使いやすさを重視した」(富士通 執行役員常務 大谷信雄氏)ためだ。

photophotophoto 左から、会見に登壇した富士通 代表取締役副社長 佐相秀幸氏、富士通 執行役員常務 大谷信雄氏、NTTドコモ プロダクト部長 丸山誠二氏
photophoto らくらくホンシリーズの累計販売数は2100万台を突破している。隠れたヒット商品だ(写真=左)。55歳以上のユーザーのうち、43.6%がスマートフォンを使ってみたいと感じてる(写真=右)

 こうした声を受け、富士通では開発に先立ち「3000人にライフスタイルの調査を要望をいただき、100人にプロトタイプのスマートフォンを渡して使い勝手をモニターした」(大谷氏)。調査の中では、画面の大きさやインターネットの使い勝手を評価する声が挙がる一方で、「課題も多かった」(大谷氏)という。例えば、タッチパネルの操作については「ボタンを押した感覚がない、知らないうちに触ってしまう、押しすぎて長押しになってしまう」(大谷氏)といった誤操作の問題が浮き彫りになった。また、「スマートフォンを使い始めて最初にやるミスが、ホームキーを押して電話を切ったと思っても切れていなかったこと。これは高齢者にも大変戸惑いがあった」(大谷氏)という。

photophoto 開発にあたって、まず3000人のライフスタイルを調査。スマートフォンに抱く不満点をあぶり出した

 らくらくスマートフォンの開発にあたっては、こうした数多くの問題をクリアしなければならなかった。大谷氏も「シニア向けのUIをかぶせてらくらくスマートフォンということはできたが、たくさんの課題を解決するには、それではとても無理」と語る。結果として、富士通はキーとなるデバイスの開発から、OSの大幅なカスタマイズまでを手掛けることになる。タッチパネルには新規に開発した「高反応アクチュエーター」を採用。圧力を感知し、細かなバイブのフィードバックを出すことで、実際に物理キーを押したような反応を得ることが可能になった。また、ソフト的に「うっかりタッチサポート」という機能を載せ、両手持ちしている際に、本体を支えている手の一部が画面の端にかかってしまっていても、マルチタッチと認識せず、スクロールやタップをできるようにした。ボタン操作については、Googleと交渉したうえで、Android標準の「戻るキー」と「メニューキー」を廃し、「ホームキー」だけを搭載。先に挙げた「電話が切れない」というトラブルを解決するため、ここに終話の機能も持たせている。

photophoto ボタンは物理キーのように押し込むと、タップと判定される(写真=左)。画面の端にうっかり触ってしまっても、スクロール動作は可能(写真=右)

 ARROWSシリーズに水平展開している「ヒューマンセントリックエンジン」にも対応した。端末の傾きや揺れを検知して画面のバックライトを点灯させたままにしておく「持っている間ON」などは、らくらくスマートフォンでも利用可能だ。この機能については、「実はらくらくスマートフォン開発の中で出てきた」(大谷氏)ものだという。代表取締役副社長の佐相秀幸氏が「音声技術やユニバーサル技術は、横展開してきた」と語るように、以前から富士通はらくらくホンに先端技術を投入し、それを後からフラッグシップ端末などに搭載してきた。例えば、現在ではARROWSシリーズも対応している「ゆっくりボイス」や「はっきりボイス」は、元々、らくらくホン向けのものだった。今回、らくらくスマートフォンのために開発されたハードやソフトも、「今後のARROWSに横展開されていく」(佐相氏)という。先に挙げた高反応アクチュエーター採用のタッチパネルや、うっかりタッチサポートはらくらくスマートフォンのみの機能だが、今後のARROWSでサポートされる可能性もありそうだ。

 また、大谷氏が「ハードからサービスまでトータルに作り直さないと、お客様の要望にお応えできない」と述べているように、らくらくスマートフォン用に専用のサービスやコンテンツも提供される。その1つがドコモの「dメニュー」で、通常版より文字が大きく見やすい仕様になっている。掲載されるコンテンツも、ユーザー層に合わせてカスタマイズされているそうだ。一方で、富士通側の取り組みとしては、シニア層に特化したSNS「らくらくコミュニティ」を提供する。ソーシャルメディアの利用に適したスマートフォンだが、TwitterやFacebookはハードルが高い――そう考えているシニア層に向けたSNSで、「専門スタッフが24時間監視し、間違って電話番号などの個人情報を投稿してしまうのは避ける。セールスや勧誘など、おかしなものもチェックし、いわゆる出会い系サイトなどへの誘導はブロックする」(大谷氏)と安心、安全を売りにする。「全国ドコモショップでのサポートや、有料講座のサポートもしていく」(大谷氏)とし、端末だけではなく、サービス、コンテンツ、サポートまで、全方位で取り組む構えだ。

photophoto dメニューはらくらくスマートフォン向けのものが表示される(写真=左)。らくらくスマートフォンにプリインストールされているアプリの一部(写真=右)
photophotophoto らくらくスマートフォン専用の「らくらくコミュニティ」も運営していく

 販売目標はドコモ次第としつつも、「100万台を目指す」(大谷氏)とし、らくらくホンからの移行を促す。既存ユーザーのために、従来のらくらくホンシリーズと同じ構成のUI(ユーザーインタフェース)も内蔵した。これも単なるホームアプリの切り替えではなく、メーラーやメニューなどの深い部分まで一括で変更できるように仕上げている。一方で、2980円の専用パケット定額プランが用意されたとはいえ、らくらくホンで音声を中心に利用してきたシニア層にとっては、月額使用料の値上げにつながってしまう。Google Playにも非対応となり、アプリの追加インストールもできない(インストール自体はできるようにしてあるが、ユーザー層を考えると実行するのは難しいだろう)。こうした点が、シニア層にどう受け取られるのかは気になるところだ。その意味でも、販売後の動向が楽しみな端末といえるだろう。

photophotophoto らくらくスマートフォンの開発コンセプト。UIだけでなく、OSレイヤーにも大幅に手が加えられている(写真=左)。既存のらくらくホンシリーズとほぼ同じメニューも内蔵される(写真=中)。ドコモは2980円のらくらくパケ・ホーダイを開始する(写真=右)

KDDIがAndroid 4.0搭載のSTB「Smart TV Box」を開発、ケーブルテレビ事業者に販売

 KDDIが18日、夏商戦の発表会時にコンセプトを披露していた、ケーブルテレビ向けのSTB「Smart TV Box」を発表した。開発はパナソニックが担当し、一般的なSTBと同様、地上デジタル放送、CS放送、ケーブルテレビを受信できるほか、外付けのハードディスクを接続すると、番組の録画も行える。一方で、Smart TV Box最大の特徴は、OSにAndroid 4.0を採用していること。テレビ用のPEAKSエンジン対応SoCに加え、Androidの制御を行うためにTIの「OMAP 4460」を搭載しており、UIもスムーズに動く。ご存じのように、OMAP 4460はドコモの「GALAXY NEXUS SC-04D」などのスマートフォンに採用されているSoCで、Android 4.0のリファレンスでもある。UIが滑らかに動くのは、こうしたハードウェアの構成によるところも大きいと考えてよさそうだ。

photophoto Android 4.0を採用したSTB「Smart TV Box」(写真=左)。ホーム画面を起点に、4方向に各コンテンツが用意されており、リモコンでも操作がしやすい(写真=右)
photophoto Smart TV Boxで使用するリモコン。メニューキーや戻るキー、ホームキーといった、Androidでおなじみのボタンも搭載されている(写真=左)。テレビは地上デジタル放送のほか、BSやケーブルテレビに対応(写真=右)
photo 「ビデオパス」や「うたパス」といった、auならではのコンテンツにアクセスできる

 Androidを採用したことで、コンテンツの幅も広がった。Smart TV Boxは、auの「ビデオパス」や「うたパス」「LISMO WAVE」などにアクセスでき、映画、音楽、ラジオなどを楽しめる。UIも専用に作りこまれる予定だ。さらに、アプリの追加も自由に行える。「auスマートパス」に対応しているほか、「Google Play」にもアクセス可能。天気予報やレシピなどに加え、ゲームなども楽しめる仕組みになっている。操作は基本的にリモコンで行うが、拡張性があるため、ゲームプレイ時などにはUSBポートにコントローラーを接続してもいい。プリインアプリとして、テレビ用に最適化した「カレンダー」や、ニコニコ動画視聴アプリの「niconico」なども用意される。ややレイアウトが間延びしてしまう感はあるが、スマートフォン用のアプリも表示可能だ。

photophoto アプリをインストールできるのは、Androidを採用しているからこその特徴といえる
photophoto 一部のアプリは、テレビの画面に最適化したUIを備える。写真はカレンダー(写真=左)。ウィジェットも、Android用のものが利用できる(写真=右)
photophoto ホーム画面から上方向(INFOMATION)に進んだ画面。レシピやネット通販のカタログなどに対応する(写真=左)。もちろん、ブラウザを起動すればWebサイトにもアクセス可能だ(写真=右)

 同社では、かねてから「3M戦略」で「マルチデバイス」の方針を掲げており、Smart TV Boxもその一翼を担う端末となる。Smart TV Box向けのauスマートパスやビデオパスも、スマートフォンやタブレット、PCと同じ「au ID」で認証を行うため、対応端末を持っていれば、コンテンツをシームレスに楽しめる。出先で映画をスマートフォンで見つつ、続きを家でじっくり鑑賞するといった使い方が可能になるわけだ。もちろん、Smart TV Box単体でも利用できるが、ケーブルテレビやFTTHの回線とスマートフォンをセットにすると「auスマートバリュー」で通信料が割り引かれるため、双方をそろえるメリットは高い。Smart TV Boxで、同社が目指していた3M戦略の姿が、より明確になってきたといえるだろう。

 Smart TV Boxは現在開発中で、8月にはKDDIグループのJCNと共同でトライアルを行っていく。「発売は秋になる予定」(KDDI広報部)だという。ただし、KDDIからケーブルテレビ事業者に販売される形となり、「一般的な量販店などで買うことはできない」(KDDI関係者)。確かにセット販売の武器にはなるが、ケーブルテレビ環境のないauユーザーのハードルが高くなってしまうのは、少々残念だ。auスマートパスやビデオパス、うたパスを大画面で楽しみたいユーザーのために、かつての「au Box」のような形でスマートフォンユーザーにレンタルするような仕組みも、ぜひ検討してほしい。

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