子どものスマホ利用でネットは変わるのか(2)小寺信良「ケータイの力学」

» 2012年07月30日 10時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 前回からの続きで、今回もデジタルアーツが公表した調査資料を元に、子どもとスマホの関係を考えていく。

 資料5ページ「携帯電話やネットのルール・マナーの情報収集」では、中学生ぐらいまではルールやマナーに関して家族を頼りにしていることが分かる。家族とは親ということかもしれないが、一方で母親のほうでも子どもの学年にかかわらず、同じく家族を頼りにしている。これは結局誰に聞いているのだろうか。子どもは親に、親は子どもに聞いてたら、疑問が家庭内でグルグル回っているだけである。結局はお父さんに行き着くのだろうか。

photo 携帯電話やネットのルール・マナーの情報収集に関する調査結果

 そのお父さんは、「インターネットで検索する」「自分で何度も操作しながら覚える」という回答が最多となっており、問題に対して相談できる人が周りに誰もいないということが浮き彫りになっている。父親の場合、家族の悩みを外に相談するのではなく、内側に溜め込み、自分で解決しようとする傾向がある。それで正解にたどり着ければいいのだが、こういうときにもう少しSNSがうまく機能できないものだろうか。

 資料8ページ「スマートフォンに対して必要だと思う対策」では、子どもたちの間では「パソコン同様のウイルス対策」がかなり高い値を示しており、次いで「むやみにアプリをダウンロードしない」となっている。一方でフィルタリングへの導入意識は低い。

photophoto スマートフォンに対して必要だと思う対策(写真=左)と、スマホが主流になることについての意識(写真=右)

 これは、すでにPC教育が学校でかなり浸透しており、スマホはPCに近いものだという認識がされた結果だと考えられる。また自分の情報が勝手に持ち出されるなど、自分の意図しない動作に対して、利用上の懸念があるようで、同資料9ページでも「ネット上のセキュリティ面で不安を感じる」という項目が親子ともにトップとなっている。

 その一方でフィルタリングの導入意識が低いのは、自分の能動的な行為が制限されることに対しての不満もあるのではないかと想われる。一方スマホの世界では、Webサービスがアプリという形で個別に切り出される傾向が強い。Webアクセスのフィルタリングで解決だと安心することなく、アプリの起動制限が実用上不自由のない形で機能するバランスになっているか、あるいはアプリ内広告で年齢に対して不適切な広告や誘導が行なわれていないかという点も注目すべきである。

依存傾向が拡大する懸念

 子どものスマホ利用に関して、今後保護者の間で懸念が高まると予想されるのは、ネットのサービスに対して依存症的傾向を示すことだろう。これまでも、メール依存の問題が取り沙汰されてきたが、これは言うなれば対人コミュニケーションを自分がコントロールできなくなるというところが問題の根本である。

 ネットへの過剰な依存は、思春期の女子によく見られる女子にコミュニケーション依存が主な現象だったが、今後はソーシャルゲームのアプリ化によって、男子にもその傾向が現われるのではないかと思われる。自分一人で楽しむという要素だけでなく、ゲーム上でのランキングや対戦によって、他人との関係性が発生する。これにより、依存というよりは、やめるきっかけを失うという結果になる可能性がある。

 保護者が子どもをネット依存症ではないかと認知するのは、長時間やり続けているといった単純な事ではない。適切な場所と時間に、適切な行動が取れないという点にも着目している。

 例えば食事中にもスマホを脇に置いてちょろちょろ触りながらメシを食うとか、親と話している時にゲームの進行が気になって上の空になってしまうとか、そういうところに異常性を感じるものなのである。すなわち、ネットの世界と現実との境界が曖昧になってしまうことを嫌うと言える。

 ソーシャルゲームは長時間続けて行なうように設計されていないとする意見もあるが、それは一人の人間が同時に一つのゲームしかやらないと仮定した場合である。ソーシャルゲームにはまっている人なら、大人でも2つ3つのゲームを平行して行なっているケースは少なくない。子どもたちもいずれそのような傾向になるだろう。

 このような使い方をシステムとして規制すべきだとは、思わない。ソーシャルゲームだけ片付けても、別の事でまた同様の問題がどうせ起こるからである。それよりも、最初に問題に直面する保護者が、解決策を持っているのか、そもそも解決策とは何か、そういったところをまず業界としても、有識者を交えて考えていかなければならない。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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