モバイル音楽配信の明日はどっちだ?(3) ―明日のために―

PHSから始まった携帯端末向けの音楽配信だが,その成否は,実は技術でもビジネスでも決まらないかもしれない。最も重要なのはやはりコンテンツ。今後のコンテンツのあり方を考察してみたい。

【国内記事】 2001年6月6日更新

 ここしばらくの間に,私たちの通信環境は様変わりしている。そして,携帯電話ではNTTドコモのFOMAも秒読み態勢になり,384Kbpsという以前では考えられなかったダウンロード環境も目前だ。

 だが,さらに一歩進んで,回線の余りある高速化を実感するには,音楽配信を始めとするコンテンツの配信が最適である。そして,高速な通信環境を整備している事業者自身がそのビジネスを行い始めているのは偶然でもなんでもなく,思惑あってのことだろう。

 言葉だけでなく「ブロードバンド時代」は目前であり,その中ではこれまで無理をして長いダウンロード時間を気にしつつ受けていたサービスが普通のものになってゆく。もしかすると,CDショップにCDを買いに行かなくてもよい時代がくるのだろうか? 動画ですら配信される時代がくるのだろうか?

 それらは,通信環境の整備と共に技術的には可能になってくる。しかしそれは技術だけで実現できるものなのだろうか?

流す仕組み,流される中身

 印刷物による出版にたとえていうならば,既に印刷技術は非常に高度な世界に突入しており,品質の面でも量に対する速度の面でも十分な進化を遂げている。

 だが,出版においての技術的進歩は,あくまで「技術面」の進歩でしかない。当然のことながら出版物にはその記載内容である記事=コンテンツがなければ並んでいるのは単なる「紙」の束である。それは音楽でも同じだ。

 たとえば音楽では,いわゆる「メジャーレーベル」の楽曲がビジネスの中心である。ソニーミュージック,東芝EMI,エイベックス……。彼らは技術を開発する会社ではない。音楽配信の「仕組み」はどんどん進化していくが,それを開発しているのは彼らではなく,通信キャリアでありエレクトロニクスメーカーである。

 配信の仕組みが,洗練された素晴らしく快適なものになろうとも,その中に流れるコンテンツが人気のない,いわば市場的に価値の低いものならば,その仕組み自体の意義が問われることになる。

 しかし現状においては,トピックの大半は回線の高速化や複雑怪奇な配信システムの稼動というところにあり,本質としての「なにが流れるか」,ひいては「なにを買えるか」,そして,それにより私たちの日常の暮らしは「どう変わるか」には視点がなかなか向いていないのではないだろうか。

紙のように歴史は繰り返す

 かつて,グーテンベルグによる活版印刷の発明がなされたころも,おそらくは当初は同じような状態だったのではなかろうか。

 当時,それまでは一部特権階級の高価な知的装飾品であった印刷物が安価に大量生産できることは確かに革命であったに違いない。その発見や方式自体も素晴らしいものだが,徐々にそれは一般的なものになり,「それをもって何をするか」が本質であることに行きついたに違いない。

 音楽配信も,程なく同じ時代に突入するであろう。それは仕組みとして成熟してゆく当然の過程であり,それを越えない限り全ては実験の域を出ない。そうならなければならない。

 現在の「流す仕組み」の進化は非常にエキサイティングなものであるが,これも程なく普通に既に当たり前のものとなる。近い将来,「流す中身」が話題の中心になるに違いない。そのときこそ,まさに真の「コンテンツ配信時代」の到来といえるのだろう。

テクノロジー主導の終焉。そして今後の展望

 NTTドコモの「M-stage music」も,DDIポケットの「soundMarket」も,ユーザーからコンテンツ料金を徴収するという意味で間違いなく商用サービスではある。

 だが,これからも通信速度は通信方式自体の進化により向上していく。現状の専用端末では現在における最新の技術は味わえるものの,10年先も楽しめるかというと,そうではないだろう。

 しかし,進化してゆくのはあくまで通信速度であり,配信システムである。もしも技術を開発し維持する側の企業的思惑とコンテンツホルダー側の企業的思惑が食い違えば,進化してゆく“配信の仕組み”は「素晴らしいけれど意味のないもの」になる可能性すら秘めている。

 進化を続ける配信の仕組みが,真にユーザーにメリットのあるものになるためには,現在ばらばらの環境で提供されている音楽配信システムと,参加・不参加の違いのある音楽レーベルでの早期の調整が望まれる。それにより,そのサービスを受けることのできるユーザー数も増える。

 そして,それ以上にコンテンツの持つパワーがもっと活かされるべきではないかと考えられる。 現在のコンテンツ配信においては,人気アーティストによるヒットコンテンツをその配信に乗せ,また,それを消費者が支持することがもっとも健全であろう。ちょうど,聖書がグーテンベルグの印刷システムを大きく広めたように。

 コンテンツ=創作物という考え方をすれば,ここ数年のWebの一般化を始めとするネットワークの普及のなかで,いわゆる「ネット小説」「ネットアイドル」などの,既存の文化の存在が変質したことにも注目したい。携帯電話・PHSでの音楽配信により成立する新しい音楽の存在もありえるだろう。

 それがなんなのか,未だ誰にも分からず登場を待つしかない。しかし,それを作るのは通信キャリアでも,コンテンツホルダーでもない,現在はまだ一消費者でしかないかもしれない新時代のクリエイター予備軍であろうと筆者は予想する。それが生まれることにより,それを確保するコンテンツホルダー(レーベル)と,それを流す通信キャリア,そして,それをユーザーに提供する環境を作るハードメーカーはビジネスをまわしていく。

 新しいコンテンツ配信方式の進化が,新しいコンテンツによりなされることを心から期待しつつ,まずは現在から始まるコンテンツ配信ビジネスに期待したい。

[桜井里志,ITmedia]

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