音楽配信に期待していいの? ──音楽とケータイは仲がいいのか悪いのか?(2)

音楽聞いて,携帯かけて……2つの生活を両立するにはいろいろな方法がありますが,果たして今のベストは? イヤホンマイク+ヘッドホンに続く2番めのチョイス。

【国内記事】 2001年6月19日更新

 外を歩くときは,音楽も聴きたい。でも電話も使いたい。両方を満たしてくれる製品はどれ? ということで,前回に引き続き次のテストターゲットには,「PicwalkSH712m」を選んでみた。NTTドコモのPHSを使用した音楽配信サービス,M-stage Music(用語)の端末である。

 この端末,買うところまでは行かなくても注目している人は多いと思う。これ1台で電話も,リスニングも,しかも曲の購入までOKだ。どこにも行かずに新しい曲を増やすなんて芸当は,CDやMDプレイヤーにはできっこない。この点ではAVメーカーに対してゼッタイに有利。

 PCの音楽配信と比べても「決済手続きの難しさ」という悩みがないのは有利だ。電話代と一緒に引き落とされるから,業者としても取りっぱぐれもないし手数料も必要ない。電話業者が手がける配信ビジネスは,ほかの配信業者から見てもうらやましいであろう,完成された仕組みを持っている。

 そんなM-stageはしばらく通話不可能な専用端末のみだったが(1月5日の記事参照),シャープ製のSH712mの登場によりようやく「通話と音楽を1台で!」が実現された。

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「PicwalkSH712m」。64MバイトのMagicGateメモリースティック付きで販売されている。価格は,都内の量販店で3万2000円前後(詳細は4月25日の記事参照

 同様のライバルにはDDIポケットのSoundMarketがあるが,ともかく「1台で全てを実現する」最初の世代の端末である。どんな楽しいことが起こるのか,期待大!

使い勝手の実情はお寒いばかり

 ワクワクしながら手にしたSH712mは,正面から観るとまったく普通のPHS。だが横にすると厚みが普通のPHSの倍はある。2年ぐらい前の携帯のイメージだ。21世紀にPHSでこの厚さはすごい。実は背後1台分はほぼメモリーオーディオ部分となっている。背面の電池ケースを開けようとすると,このオーディオ部分が外れるのでそれと分かる。ちなみに電池はその奥のスペースに埋め込む形を取っている。

 M-stageのサービスは,ちょうどiモードの「iMenu」のように,接続メニューから選んでアクセスする仕組みになっている。音源を提供しているのはエイベックス,SME,ポニーキャニオンなどのメジャーレーベル。ほかにも日本クラウン,バップ,徳間,GIZAなどが参加している。始まったばかりのサービスとしては充実しているといっていい。

 楽曲としては,浜崎あゆみや,ゆず,倉木麻衣といったJ-POPの有名アーティストがラインナップされているほか,「ふぉーく堂」のコーナーでは往年のフォークソングの名曲もラインナップされている。こうしたCDショップで販売枚数が見込めない音源をネットで売る,という試みは評価できる。フォークは筆者の世代ではないので品揃え感が今ひとつ分からなかったが……。

 で,ここまではいいのだが,ここからが現在の音楽配信の厳しいところだ。1つにはPHSの技術的な制約の点。そしてもう1つが,困ったことに使い勝手の作りこみの甘さ,なのである。

思いたった時にダウンロードできないもどかしさ

 PHSが非力という点はつまり「思ったときに思ったようにダウンロードできない」という1点に尽きる。携帯端末は移動中のヒマな時間がもっとも使いたくなるときだ。電車に乗っていて「ヒマだなぁ……」と思うと,新曲でも落として聴こうかという気になる。

 ところが電車ではダメなのだ。山の手線,京王線で実験したが接続が切れずに1曲落とせたことはゼロ。ダウンロードに失敗すると,エラーメッセージが出たままになるので,アンテナの様子を見て自分でつなぎ直すことになる。最初からダウンロードをやり直す必要はないのだが,自動再接続の機能がないのだ。

 そして64Kbpsで5Mバイトのファイルを落とすのだから当たり前なのだが,15分以上はこれを続けなければいけない。電波の状況によってはそれ以上。そのうち再接続の操作に飽きてやめてしまう。

 しかも,1分15円という通信費のことまで考えると,普通の人なら二度とやりたくなくなってしまうだろう。ならば自宅や職場,学校などにいるときにダウンロードすればいいのだが,そういうときは用事があってその場所にいるのだから,携帯電話のことなど忘れてしまっているのだ。思いついたときに,ヒマなときに有効な使い方ができるからこそ便利なのに。

複合端末としての作りこみに難あり

 そして,使い勝手の問題。第1回でも触れたように,音楽と携帯の両立のためには,「リスニング→着信→通話→リスニング」のスムーズな切り替えが不可欠である。ところが残念なことに,SH712mにはヘッドホン端子しかない。マイクが接続できないのである。

 音楽を聴いている最中に着信すると再生が止まる。ヘッドホンを外して自分で着信ボタンを押し,受話器で話をするのだ。これじゃCDプレイヤーと別々に持ち歩いている時と変わらない。電池が一体化していて「音楽を聴いたら電話の電池も減っちゃった」というデメリットがある分,悪いかもしれない。ヘッドホンマイクはぜひとも用意してほしかった。

 リモコンもないのでプレイヤー部の操作性も今ひとつである。まだ通話可能型端末の第1世代ということで,実験機の域を出ないということなのだろうか。

 「音楽配信サービスの実現=理想の携帯電話とオーディオの一体機の登場」と勝手に思い込んでいたので,SH712mを取り巻く環境における課題の多さにびっくりしてしまった。

夢から醒めて見えるものは?

 携帯キャリア,音楽事業者から熱い視線を浴びている音楽配信サービス。そのカギはコンテンツの確保にあると言われているが,今SH712mを目のあたりにすると,それはハードウェアが成熟しているという仮定に乗った議論だと思わずにはいられない。

 実際に触ってみると,いまさらながら「サービスとは,ハードとソフトの両方があって初めて実現するもの」ということを痛感させられる。この言葉はしばらくソフト重視の文脈で語られることが多かったが,今回は逆にハードに今までの生活を変えるパワーがなければ,コンテンツがよくてもサービスとして成り立たないということを思い知らされた。ひいき目にみても,これはよほどの好事家でないと使い続けるのは難しいだろう。

 そして,魅力的なハードがないとソフトを集められないということにも注目しておく必要がある。着メロが和音になり始めた頃,国内アーティストが競って新曲を着メロで発表するというムーブメントがあった。あれは着メロが世の中で注目されていることにアーティスト側が目をつけたからこそ実現した企画だった。着メロの表現力が上がった今,誰も同じことをするアーティストはいない。それは社会的に着メロが定着し,斬新さがなくなったからだ。

 音楽配信にしても,自分自身の旬を見極めて適切なハードウェアを投入しなければサービスとしての魅力は高まらない。逆にいえば,アーティストに対して「このサービスに曲を提供するとカッコイイですよ,注目されますよ」と言えればソフトは自然に集まるのだ。

 アーティストはイメージを大切にする。質が悪いと評判のサービスの顔となってしまうと,自らの価値を下げることになってしまう。サービスモデルを確立しさえすれば,ディティールは後で……というのはエンタテインメント業界に通用する理屈ではない,ということをぜひとも意識してもらいたいところだ。

 現在の音楽配信は発展途上であることはみんなが理解している。とはいえ技術的の制約とは関係ない「配慮不足」によってワクワク感が下がってしまうのは残念だ。使い勝手には設備投資はいらない。センスだけの問題だ。技術的な制約がなくなっても,サービス提供者のセンスが悪ければ,特に音楽配信などは普及しないだろう。せっかく電話,オーディオを1つにまとめた端末なのだから,1+1が3にも4にもなるところを見せてほしい。

 年月をかけさえすれば,理想の音楽&携帯ライフにもっとも近いと思われたこのサービスだが,意外に道のりは長いのだった。イメージと実感の違いにはびっくりである。

 データ通信で音源を取ってくるのが難しいと分かった今,既に音楽と携帯の融合を成し遂げたアレに,次はトライしてみよう。

[清瀬栄介,ITmedia]

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