プリペイド方式のGSM携帯電話購入顛末──旅先携帯日記:フランス編

前回に引き続き,現地での「プリペイドケータイ」の買い方をリポート。機能の名前も売り方も違うが,共通のところもあるようだ。でも,なぜケータイは銀色の筒に入って出てくる? 今回はまるごとすべて,ケータイのお話です。

【フランス発】 2001年8月14日更新

12日 プリペイド方式のGSM携帯電話購入顛末

GSMとは? SIMとは? 欧州携帯電話予備知識コース

 日付としては昨日のことになるが,プリペイドGSM購入顛末とそれにまつわるレポートを続けよう。

 シャンゼリゼ通りはヴァージンメガストア内のケータイショップPhone storeにプリペイドGSMケータイを購入すべく入ったものの,どれがプリペイドケータイなのか分からない。厳密にいえば,どれが“プリペイドの電話番号が入ったSIMとセットで売られているハードか分からない”ということになる。

 たびたび出てくる言葉ながら,きちんと説明をしていなかった。ここで一度言葉の整理と,GSM携帯電話ならではの部分の解説を行いたい。そんなこと常識でしょう!という読者諸氏はここよりしばらくは読み飛ばしていただいていいと思う。

 携帯電話は,世界中のどんな地域でも各国ごとに「通信事業者」が存在し,それぞれの地域でサービスが行われている。しかし携帯電話を実現している技術的な「方式」はほんの数種類であり,それを色分けすることで「携帯電話の各方式による勢力地図」を作ることができる。

 もっとも,日本でNTTドコモやJ-フォンが使用している方式「PDC」は日本オリジナルでほかの地域では使用されていないが,KDDI(au)が提供しているcdmaOneは,米国を中心に韓国などでも使用されている。そのため端末によっては国際的に1つの電話番号で使用できる。

 そんな中で,ヨーロッパから始まり世界中を最も広くカバーしているのが「GSM」と呼ばれる方式だ。厳密には使用する周波数帯で3種類の方式にさらに分かれている。端末機自身がデュアルバンド,あるいはトライバンド対応と呼ばれ,複数の周波数に対応しているものも多い。また,もともとヨーロッパという国境をまたぐことが多い地域で運用されていることもあり,GSM方式にとっては国際間ローミングは日常的なスペックの1つだ。

 そのGSMのもう1つの特徴は,小指の先ほどの大きさのICカード「SIMカード」。GSM携帯電話では,これを端末にはめ込んで使用する。この小型のICカードには電話番号をはじめ,通信キャリアへの登録などさまざまな情報が書き込まれている。言い換えれば端末を買い換えたときにも,ユーザー自身でそのSIMカードを差し替えることで簡単に機種交換できる。

Photo
この四角くて白いのがSIMカード。これに電話番号などの権利情報が入っている。いわば電話機自体は「SIMがなければゴミ」同然である

 SIMカード自体も,まさに「加入権」というような形でパッケージ販売されている。また,プリペイド携帯電話として電話機を使用するためのSIMカードと,通常の加入契約を行って電話を使用する際のSIMカードは記入されている情報が違う。

 そのためパッケージも色分けされて販売している。ならば……と,たとえば単品で売られているSIMカードと端末機を好きな組み合わせで買うことができるのか? そのほうが自由にケータイを使えるではないか? という疑問がわくが,もちろん答えは「Yes」だ。

 だが,ここから先は日本でも馴染み深い“1円ケータイ”の世界がGSMでも登場する。各キャリア間での競争の末に生まれた「加入促進奨励金」(コミッションとも呼ぶ)によるマジックである(7月11日の記事参照)。

 ユーザーが通信事業者にお金を落としてくれるきっかけとなるSIMカード自体は高いものではない。端末機のほうがよっぽど高価だ。特に端末を,キャリアへの加入とは別に販売しているGSM圏では,高機能な端末は日本円で7,8万円もする。ある意味,分かりやすく健全な状態で販売されているともいえる。

 だが,SIMカードをいっしょに買う(特定のキャリアのSIMカード付きケータイを買う=特定のキャリアに加入する)ことで値段は下がる。特に,プリペイド型のSIMカードは端末機とセットで販売されていることもあり,数千円程度から購入することができる。

 ただしプリペイドSIMの付いた端末機は比較的低価格な機種でセットが組まれており,ピカピカの高機能機というよりは,スタンダードな機能を持つ電話がセットになっている場合が多いようだ。

展示の5分の1程度も占める「プリペイドケータイ」

 Phone storeの中でも,愛想よくてきぱきと接客している店員に,観光客丸出しで「プリペイド携帯はどこですか?」と聞いてみた。指し示されたのは売り場の一角。プリペイド携帯だけで仕切られた売り場が存在している。しかも,店内の展示総面積のうち5分の1程度の場所がまるまるプリペイド携帯に占められている。まずは,日本よりもプリペイド携帯が大きな位置を占めていることに驚かされる。

Photo
この左右が赤い仕切りで囲まれている間に置かれているのが,すべてプリペイドSIMを使う携帯電話。機種も豊富だが,さらにそれぞれが複数の通信事業者によるパッケージになっている

 さらに,各プリペイド携帯電話の値札には,その携帯電話がどの通信事業者のプリペイドSIMとセットになっているかが,ロゴに○×を付けて表示してある。フランスでは,日本でいうNTTに当たるFrance Telecomが「Orange」というブランドで携帯電話事業を展開し,さらにJ-フォンやau,ツーカーという位置付けにはSRF,およびBouygues telecomという通信事業者が存在している。この3社でシェアを争っているという状態のようだ。

 さて,機種選定に当たって筆者が重要視したのは

  • SMSが使えること(ショートメッセージ機能)
  • WAPを搭載していること(auのEZwebと同じ形式のコンテンツブラウザ機能)
  • 使用できるエリアが広いこと
  • 国際ローミングに対応していること
  • データ通信に使用できること

そして当然「価格が安いこと」である。このことを先ほど質問をした女性店員氏に 聞いてみた。

元気な店員さんに聞くと……

 たどたどしく聞く筆者に店員が笑顔で元気に教えてくれた内容は,まず「SMSにはすべて対応している」「WAPはあるものとないものがある。対応しているものには「WAP」と値札に書いてある」(およそ3分の1程度の機種にしか入っていないようだ)とのこと。

 この段階で選べる機種は決まってくる。まず,WAPに対応している中で最も安いのは,Trium(三菱電機)の「Mars」という電話機だ。「これはいいものですか?」と聞くと破顔一笑と共に「最高よ!」との返答。

 ローミングに関しては通信事業者ごとの設定だろうから,「どの通信事業者がいいですか?」と聞くと,聞き終わらないうちに質問の意味を理解したのか,「Orangeです。FranceTelecomが一番!」と,ほぼ,それしかないような調子で勧められる。一応「SRFやboygerはどうですか?」と聞いても,頑として「OrangeのMobi carte(Orangeのプリペイドサービスの名称)にしときなさいよ!」と勧められる。

 いろいろ勘ぐってしまいたくもなるが,聞けばエリアが広いことと,また,なによりプリペイドSIMでの国際ローミングはmobi carteしかしていない(!)とのこと。筆者がどう見ても異邦人であることを見ての選定なのだろう。

 データ通信に関しては値札の案内を見る限り,すべての機種が対応していない。だが,端子は電話機に付いているし,おそらくプリペイドSIMのサービス制限かPCカードなどが必要ということなのだろう。

 何より,価格的にWAPの付いているもので最も安いのがTriumのMarsらしい。お値段,349フラン。日本円で7000円程度だ。近い値段のものとしてはNokiaの3310というモデルもあるが,日本国民としては日本メーカーに敬意を表するべきだろう。「これください」と,彼女にお願いした。もちろん,セットにする通信事業者はOrangeのmobi carteである。

Photo
彼女が今回お世話になった店員。元気よく,また筆者の貧しい英語にも根気よく対応してくれた

 おそらく「毎度ありがとうございます!」的なことを言ったのだろう(分からなかったが)。彼女はにっこり笑って倉庫らしき店の奥に飛び込み……。しばらくすると,銀色の小ぶりの筒を持ってきた。どうも,これが携帯電話のパッケージらしい。

 おのぼりさんとしては「うわー,ふらんすってなんでもかっこいいなー」などと感心してしまう。彼女はレジのところにいくとものすごいスピードでパッケージを開け,中から携帯電話本体と電源コンセントを取り出し,さらに緑色の薄っぺらい箱を取り出した。その薄っぺらい箱こそ,mobi carteのSIMパッケージらしい。

Photo
緑色の箱がSIMが入っていたケース。携帯電話はこのケースと共に売られており,店頭でSIMを差し込んでもらう

 これもすごい速さで開封し,中からクレジットカード大のプラスチックの板を取り出した。その一部を切り取る形でSIMカードが付いている。ていねいにそれをもぎ取り,また,すばらしい速さで電話機に挿入し……。

 筆者は,身分証明書であるパスポートとホテルの住所を書いた紙をポケットの上からおさえ,これはいつだしたらいいのかな? などとぼんやりとその手順を見ていた。

結局出番なしの身運証明書。これは,どういうことだろう……

 「追加のプリペイドカードもお求めになりますか?」と聞かれたが,とりあえずパッケージには70フラン分(1400円程度)が同梱されているとのことなので「いらない」と答えた。

 すると,いきなり今度は「お会計」だ。日本では,少なくとも加入手続きの後に会計があるはずだが……と思いつつ,クレジットカードで一括払い。何の問題もなくサインをし会計も済み,そして彼女はそのまま筆者のクレジットカードを見て回線の開通手続き用の端末らしいものに打ち込んでいる。「見てもいいですか?」と断ってから見たところ,筆者の名前を,クレジットカードから写しているようだ。

 すべての手続きはそれで終わってしまった。「バッテリーがほとんど空なので,自分で充電しておいてね」とにっこり笑い,「よいご旅行を!」。

 ただの一度も,パスポートを見せてほしいとも,ホテルの住所は? とも聞かれず終わってしまったことをあっけなかったなぁと思い,直後,これはもしかしたらすごいことなのではないかと思ってしまった。

 もちろん,クレジットカードが正常に使用できたことはある種の身元確認になるのだろうが,こんなに簡単に手渡してよいものなのだろうか。確かに日本でプリペイド携帯電話が発売された最初期の頃は,名前すら聞かれず購入できた。しかし,その極めて短い期間の後はさまざまな理由で身元確認が必要になっている。フランスでの,いわばNTTドコモにあたるOrangeの電話の加入手続きがどういう理由でここまで簡素化されているのかは不思議だ。

 文頭にも書いたが実際はこの購入顛末記は昨日のことであり,購入したTriumのMarsはその後も何の問題もなく動作している。東京へも,また東京からも電話はきちんとつながりなんの問題もない。昨日あっというまに手に入ったこの携帯電話に助けられている。

[奥島 大,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



モバイルショップ

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!