ARMというCPU 〜世界で最も使われているプロセッサ〜これまでのPalmは,DragonBallと呼ばれるMotorolaの68Kコアベースのプロセッサを搭載していたが,今後はARMプロセッサベースとなる。ところで,「ARMって何?」という方も少なくないだろう。そこで,ARMプロセッサについて簡単に紹介したい。
ARMプロセッサとは,英ARMが開発した,「ARMアーキテクチャを採用したプロセッサ一般の総称」と考えればいい。ちょっとまわりくどい言い方だが,ARMプロセッサ自体はARM以外にも多くのベンダーーから出荷されており,しかもその形態がさまざまだからだ。 単にプロセッサコアだけのパッケージや周辺回路を一体化したもの,中にはほかのプロセッサ内部に組み込まれたものもある。このあたりは,例えばPC用のPentiumIIIとかMacintosh用のPowerPCとはちょっと様相が異なっている。このため,単純に「これがARMプロセッサだ」と示しにくい。 ARMとは,“Advanced RISC Machine”(進化したRISCマシン)の略である。元来は英国Acornというコンピュータメーカーが,それまで利用していた6502(*1)で発売し作っていた自社製品の後続機種向けに,1983〜85年にかけて開発したものである。この初代CPUは,6502のエミュレーションを行えた。ちょうど,初代のPowerMacintoshが,68030を搭載したMacII系列のエミュレーションを行ったようなものである。 その後ARMは機能強化(ちょうどPowerPCが601→604→G3→G4と強化されていったようなものだ)されていくが,PowerMacとちょっと違うのは,AcornのマシンよりもARMプロセッサのほうが人気が出てしまったことだ。 その後AcornはARMプロセッサの開発部隊のみを残し,コンピュータの開発・生産ラインをAcornのブランドごと売却してしまう。その一方,開発部隊はARMと改称され,プロセッサの生産だけでなくプロセッサコアのライセンス供与を主要なビジネスに切り替えて,現在に至っている。 現在のARMプロセッサの特徴とターゲットARMプロセッサは,RISC(Reduced Instruction Set Computing:縮小命令セット)をかなり初期から採用したCPUである。これは当時のAcornに,大規模なプロセッサを開発できるだけのリソースがなかったための選択であった。その後ARMの機能強化に伴って大幅に回路は複雑・巨大化しているが,それでもコアの面積をほかのプロセッサと比較すると驚くべき小ささである。 回路面積が小さいということは,当然トランジスタの数も少なく,これは消費電力を抑えられることも意味している。この小ささと省電力性が尊ばれるのは,組み込み機器である。 一例を示してみよう。ARMからライセンスを受けてARMプロセッサを開発しているベンダーーの1つに,picoTurboという会社がある。ここが作成するpT-120というARMプロセッサのスペックを書き表すと,こんな具合だ。
これに対し,プロセスルールと動作クロックが同じIntelのPentiumIII/500E MHzの場合,以下のようになる。
pT-120の数字は内蔵キャッシュを除外した数字だから,実際にはダイ面積,消費電力共に若干増加するが,それでも面積,消費電力共に1桁以上の開きがある。もちろん性能の差もあるため同一に比較するには無理があるが,明らかに別のジャンルの製品であることがご理解いただけよう。 ところで組み込み機器とは具体的には何か? 身近なところでは携帯電話がそうだ。実際,世界の携帯電話の大半は,ARMプロセッサを利用している。最近だと無線LANのアクセスポイントとかブロードバンドルータ,PDA(いにしえのApple MessagePadは,ARMを搭載した初のPDAである)などに多く採用されている。変わったところではプリンタなどへの採用例も多い。つまり,PC以外の情報機器系の大半が,このARMプロセッサを採用していると考えれば話が早い。 組み込み機器に求められるCPUとはこうした多くの情報機器系は,なぜARMプロセッサを利用するのか? これを理解するには,PC用プロセッサと対比させるのが早いだろう。試しにIntelのPentiumIIIと,何が違うのかを簡単にまとめてみた。
細かく見るとほかにもいろいろな違いはあるが,主な違いとしてはこのあたりだろう。当然ながら情報機器に組み込んだ状態で販売されることが前提なので,PentiumIIIと違ってパソコンショップに行っても売られていない。入手する場合は,電子部品問屋などに注文を出すことになる。 ところで,ARMプロセッサはパッケージだけでなく,アーキテクチャ上の違いもある。Pentium系がPentium/PentiumII/PentiumIII/Pentium4で細かく違うとか,PowerPCが601/604/620/G3/G4で細かく違うように,ARMにもさまざまな違いがある。これについて,次回ご説明したい。 [大原雄介,ITmedia] Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
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