ある携帯液晶開発者の苦悩

「せっかくのハイスペックな液晶が,これでは生きない……」

【国内記事】 2001年10月11日更新

 携帯電話の液晶は,近年すごい早さで進化を遂げつつある。今年の春に最新機能といわれた「STN液晶」はもはや古く,より高精細な「TFT液晶」を搭載するのは当たり前。そのTFT液晶ですら,各メーカーとももっと色数を増やし,よりきれいな液晶表示を,とスペック競争を繰り広げている。

 しかしそんな中,筆者が疑問に思っていたことがある。それは「カタログのスペックの上で優れた端末が,必ずしも見た目の表示で優れるとは限らない」ということだ。数字上は高い液晶表示能力を持っていても,実際に手にとって表示部を見ると期待したほどではない……という端末がしばしば見られるのだ。

 逆にスペック上ではTFT4096色に留まっている「N503iS」などは,パッと見たかぎりでは最高クラスの視認性を誇る。なにしろ明るく,画像が鮮明。TFT6万5336色,あるいはTFT26万色の表示能力を持つ端末よりも,きれいかもしれないとさえ思えるのだ。

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“スペック上の逆転現象”と思われるものの1つ。左がTFT液晶26万色表示,右がTFT液晶4096色表示

 端末のスペックと実際の表示がしばしば一致しない。スペック表記とは別のところに,液晶の評価基準があるとでもいうのだろうか?

原因は意外なところに

 先日幕張で開催されたCEATEC JAPAN 2001会場で,某有名メーカーの技術者にこの疑問をぶつけてみた。すると彼は,不満そうな表情で次のように答えてくれた。

 「うちの液晶は,スペックとしては高い性能を備えている。ただし,十分なバックライトの明るさがないと,せっかくの液晶表示の実力が発揮されない。ほかのメーカーではバックライトを強く光らせているところもあるようだが,確かにそうすれば液晶がきれいに見えてしまう」

 彼が語るところでは,液晶表示で大きく見え方を左右するのはバックライトだという。

 「店頭でユーザーが実機を手に取った時に,どうしても液晶が明るいほうを“きれい”と感じてしまうだろう。私もバックライトをもっと明るくしてほしいのですが……」

 それではなぜ各メーカーともバックライトを明るくしないのだろうか? そこには,端末をトータルで考えたときの問題がからんでいる。それは,“バッテリーの持ち”だ。

 「バックライトを強く光らせると,当然その分だけバッテリーの消費は激しくなる。端末を開発する際にバッテリーの持ちとバックライトの明るさがトレードオフになるので,そこを企画の人間が調整するわけです」

 バッテリーをとるか,液晶を取るかの選択。液晶開発の人間とあって,彼の口ぶりには“バッテリーより液晶を優先してほしい”という気持ちがにじんでいた。

なによりも液晶を

 今,世の中は,「きれいな液晶」全盛の時代。端末の液晶表示部はさらに大きくなり,背面液晶を搭載した端末も増加傾向にある。新発売の端末の最大のウリが高精細な液晶,というのもよくある話だ。

 そんな中で,せっかくの液晶表示能力がほかの要因からその真価を発揮できないというのは,残念なところ。

 液晶開発者は日頃から,画面を明るくしたほうが魅力的な端末になると主張しているという。「SO503i」のように,待受け時間が210時間しかなくとも500時間待受け可能な端末に負けない売れ行きを示しているものもある。ちなみにSO503iのウリの1つはTFT6万5336色の画面表示だった。

 メーカーはこの際,バッテリーの持ちを多少犠牲にしても,液晶の明るさをとるような選択肢をユーザーに示してもよいのではないだろうか。

[杉浦正武,ITmedia]

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