News 2000年10月6日 11:03 PM 更新

有効性は未知数の「STEP2000認定」

JASRACは10月10日,国際的な電子透かし技術評価プロジェクト「STEP2000」の認定企業を発表した。

 社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は10月6日,音楽データに埋め込む「電子透かし」技術の評価プロジェクト「STEP2000」(by Society,Technical Evaluation for Promoting practical utilization of digital watermark)の結果について発表した。同プロジェクトは,著作権管理団体の国際組織であるフランスの「CISAC」ならびに「BIEM」らとともに,各社の電子透かし技術の有効性を評価するために実施されていたもの(6月15日の記事参照)。実際の実験業務は,野村総合研究所(NRI)と日本音響研究所が担当した。だが,「STEP2000認定」にどれだけの価値があるのかは,未知数のままだ。

 今回,STEP2000で認定企業と評価されたのは,IBM,韓国のMarkAny,日本ビクター,英Signum,米BlueSpikeの5社。IBM以外については,「若干のチューニングが必要」という備考付きで認定された。

 STEP2000における技術評価対象は,耐性と音質の2点。電子透かし技術は,音楽データにコピー防止信号やIDデータを埋め込むため,本来のデータを一部変更することに伴う音質の低下や,利用時のIDデータ消去手続きといった技術的な課題も持ち合わせている。つまり,耐性と音質はトレードオフの関係にあり,「技術の利用に際しては,電子透かしそのものの能力にくわえ,さまざまな用件をバランスよくチューニングする必要がある」(NRIナレッジソリューション部門事業企画室副主任コンサルタントの松尾秀城氏)

 具体的な評価方法は次の通り。耐性の場合は,デジタル/アナログ変換,ダウンサンプリング,線形/非線形データ圧縮などを行い,あらかじめ挿入した電子透かしを抽出できるかどうかをテスト。一方,音質については,透かしデータを挿入した楽曲をスタジオ環境で再生し,透かしデータが挿入されていることが認知できないレベルにあるかをテストした。「認定試験の難易度としては,標準的だと言える。日常的な利用方法を想定したもので,別に,難しくしたというわけではない」(松尾氏)

 また,松尾氏は各社の技術について,「圧縮率が高いストリーミングの結果は芳しくなかったが,全体として,電子透かしの技術水準は実証段階から実際の利用段階へと移ったことがうかがえる」と総括した。

「STEP2000認定」の価値

 STEP 2000は,JASRACが昨年6月に発表したデジタル音楽の著作権管理プラン「DAWN2001」(1999年6月3日の記事参照)を推進する上の,具体的な方策の1つとして位置付けられている。DAWN2001の目的は,違法コピーを防ぐための認証データや著作権情報を,電子透かし技術によって著作物へ埋め込み,その利用を末端までコントロールすること。

 ここで疑問なのは,JASRACでは,「DAWN2001の利用許諾には電子透かし技術の採用が条件とされているものの,使用する技術は,STEP2000で認定されたものでなくてもいい」としている点。ならば,STEP2000認定にはどのような価値があるのだろうか。

 その答えは,「われわれはあくまで著作権管理団体であって,著作権保護技術の標準化団体ではない」(JASRAC)という言葉に集約される。JASRAC送信部送信管理計画担当部長である菅原瑞夫氏は,「100通りの電子透かし技術があれば,その全てをサポートする。それがSTEP2000認定であっても,そうでなくてもだ」と強調。「音楽配信事業者が,既に構築したシステムをDAWN2001対応のためにわざわざ変更する必要はない。しかしながら,これからシステムを構築する企業に対しては,STEP2000認定技術は信頼性をアピールできる」(同氏)と言うように,控えめな効力しか持たない。

 著作権の管理手数料を収入源としながら,あくまでも管理を委託されているだけというJASRACが,DAWN2001の普及を目指して門戸を広げるのは理解できる。ただ,それが逆に,STEP2000認定の価値を分かりにくいものにしてしまった。

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関連リンク
▼ 社団法人日本音楽著作権協会

[中村琢磨, ITmedia]

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