News 2001年5月17日 08:59 PM 更新

プレイステーション2はインターネットを味方に付けることができるか

「ゲームの敵」と目されていたWebブラウザを搭載し,ネット端末に変身するかに見えるPS2。しかし,SCEアメリカ社長の平井一夫氏は,AOLとの提携はインターネット接続サービスに関するものではないと強調する。SCEの本音は一体どこにあるのだろう。

 プレイステーション2(PS2)の発売前の話だ。ここで名前を挙げることはするまい。しかし,筆者はSCEの執行役員にインタビューをしたとき,ハッキリとこういう答えを聞いた。「ウチはWebブラウザは出しません。インターネットコンテンツは,ゲームのロイヤリティによるビジネスモデルで成り立つわれわれにとって,最凶のアプリケーションだから」と。

 当時は「余暇の時間を奪い合う戦い」がクローズアップされていた。たった1種類のソフトウェアで,ゲームを楽しむ時間を奪ってしまうWebブラウザは,SCEにとって最大の敵だったのかもしれない。「たとえば,ソニー本社が(PS2を)戦略的にネット端末にすると言ったら,そりゃぁ,ゲームの何倍ものロイヤリティをもらっても足りないぐらいだ」

 しかし,別記事の通り,SCEはAOL/Netscape,RealNetworks,Macromedia,Ciscoとの提携を発表。ネットワークアダプタ,ハードディスク,キーボード,マウス,液晶ディスプレイを11月に投入する。ネットワークエンターテイメント端末とでも呼べばいいのだろうか? いったい何が変わったのだろう。

 今回の戦略がソニー本社の意向なのか,それともSCE自身の決断なのかは,現時点では分かっていない。

よりよいコンテンツ提供のためAOLと提携

 SCEアメリカは,インターネット関連各社との提携を発表した。この中で,RealNetworksやMacromediaとの提携が,エンターテイメント端末としてのPS2に必要不可欠のものであったことは誰もが理解できる。また,1000万台単位で参加者が増加する可能性があるだけに,IPv6への取り組みをCiscoと共同で行うことも重要な取り組みだ。

 しかし,WebブラウザのNetscapeは別としても,AOLとの提携は何を意味するのだろうか?

 SCEアメリカ社長の平井一夫氏は,今回の提携が,すなわちISPとしてAOLの利用を意味していないと強調する。平井氏によると,AOLとの提携は接続サービスに関するものではなく,追加機能と高付加価値のコンテンツ開発環境をPS2に組み入れるためのものだという。また,接続のために複雑なISPの設定を行う必要はなく,狭帯域と広帯域の両方を1つのコンテンツでサポートする。

 SCEは狭帯域と広帯域の両方をサポートするAOLのPPPモジュールと,AOLのコミュニケーションサービスを利用するためのモジュール,RealNetworksの開発ライブラリ,CiscoのIPスタックを,この冬にSDKとしてデベロッパーに提供する。

 PS2のデベロッパーは,開発するゲームにネットワーク接続のモジュールとして,実績のあるAOLのPPPモジュールを利用でき,またAOLが提供しているコミュニケーションサービスも,ゲームの中に組み込むことが可能になるわけだ。おそらく,Webブラウザの提供も,ゲームのために,だと思われる。

 これらが実装された様子については,E3期間中にSCEブースでデモンストレーションが行われる。

ネットエンターテイメント端末成功のビジネスモデル

 ネットワーク上では,従来のオフラインコンテンツとは異なるビジネスモデルが必要だ。平井氏はこれに関して「デベロッパーはオフラインのCDを販売する売り切りのビジネスではなく,月々の使用料でまかなうサブスクリプション(購読)型のビジネスを意識しなければならない」と話した。

 ネットワークのゲームプラットフォームが成功するためには,典型的な課題が2つある。1つは,ブロードバンドをいかにして素早く普及させるのか。もう1つは,ビジネスモデルがどこに存在するのかだ。

 これに対して平井氏は「われわれのようなゲーム機ベンダーは,エンドユーザーに対して魅力的なオファーを出すことで,広帯域の普及を加速させる力がある。また,われわれは成功を保証するために,パートナーと共にビジネスモデルを築いていく用意がある」と話した。

 平井氏が考えるビジネスモデルとはこうだ。

  • これまで成功を収めてきたオフラインのCDベースビジネスをリファインする
  • (パートナーが)オンライン世界へと飛び出してくれるなら,SCEはオフラインでの成功を繰り返すためパートナーに対して責任を果たしていくことを約束する
  • オンライン世界は新しいビジネスチャンスを作り出す

 これらを1つ1つ取り上げると,確実なビジネスモデルとは言い難い面もある。新規事業にリスクは付き物だ。しかし,成功者としてのSCEが全力でオンラインビジネスに取り組み,パートナーと共に成功を手に入れようという気概を感じさせる演説ではあった。

 また,オンラインコンテンツの提供方法について「CDとネットワークのダブルメディアを考えている。CDで基本コンテンツを配布し,差分をネットワークからダウンロードする。もちろん,既存の手軽なゲームもオンライン化を進める予定だ。そして,新しいゲームレベルやキャラクター,パズルの問題などをダウンロード可能にしていく」(平井氏)という。

 また,ブロードバンドネットワークを背景に,ブロードバンドのネットワークストリーミングコンテンツ,プレイステーション自身のソフトウェア,プレイデモ,新エピソード,映画や音楽などのデジタルメディア提供も約束した。

 今年,E3前日の発表会合戦で,オンライン戦略について具体的に語ったベンダーは,SCE以外にはない。マイクロソフトも任天堂も,コンソールにイーサネットが装着されること以外は,何も分からないのが現状だ。

 そうした中で具体的な戦略を発表したことには大きな意味があるが,果たしてPS2はネット端末になってしまうのか。それともネットにつながるゲーム機であり続けるのか。特に,映画や音楽の配信先としてのPS2が考えられていることが興味深い。実際のところ,PS2はどこに向かうのか? その方向が分からなくなってしまった,というのが正直な感想である。

 彼らの言う“良質のエンターテイメントコンテンツ”とは何なのか? 明日からE3会場で行われるデモンストレーションで,その具体像が明かされる。

関連記事
▼ ゲーム3社が戦略発表――Xboxは299ドルで11月8日発売
▼ PS2のネットワーク戦略を推進するSCEI──Real,Macromedia,Ciscoと提携
▼ 明かされたXboxのすべて
▼ SCEIとAOLが提携――PS2でAOLサービスが利用可能
▼ 「ブロードバンドで世界は密結合する」――SCEI久夛良木社長

[本田雅一, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.