News 2002年6月14日 09:28 PM 更新

水冷PCの開発者に聞く(後編)――「“水冷”を冷却システムのデファクトスタンダードに」

世界初の水冷システムを搭載したノートPCがいよいよ登場する。第1弾製品の発売時期やその仕様、また水冷システムの可能性などについて、開発者に話を聞いた

 日立製作所が開発した世界初のノートPC向け静音水冷システム。その開発には3年以上もの期間が費やされ、多くの試行錯誤の中から生み出されたことは「前編」で紹介したが、この新冷却システムを搭載した水冷PCがいよいよ登場する。

 水冷PC第1弾製品の発売時期やその仕様、また水冷システムの可能性などについて、前編に引き続き同社戦略事業企画室担当部長の源馬英明氏と、主任研究員・工学博士の近藤義広氏に話を聞いた。

水冷PCの発表は7月中、発売は9月

 3月14日の発表会では、今年第3四半期(7〜9月)に、水冷システムを搭載したノートPCを発売することを明らかにしている。

 この件について源馬氏は「水冷ノートPCの発表は7月中、発売は9月になるだろう。東京国際フォーラムを会場にして7月18日から行われる『HITACHI ITコンベンション2002』の会場で、ほぼ製品に近いものをお披露目する予定。正式な発表はその前後になると思う」と、今後のスケジュールを明らかにした。

 製品の仕様は、どうなるのだろうか。源馬氏によると、初搭載モデルはモバイルPentium 4-Mを採用した企業向けのハイエンドノートで、現在最上位機種となっているA4ノートPC「FLORA 270W」(PC8NW8モデル)とほぼ基本仕様が同じものになるという。FLORA 270Wは、5月30日にモバイルPentium 4-M/1.6GHz搭載モデルを発表している。水冷PCはこれをベースに作られ、新冷却システムの特徴でもあるリザーバータンクがせり出したスタイルが外観上の違いとなる。


発表会で披露された水冷PCのコンセプト機。リザーバータンクがせり出したスタイルが特徴

 モバイルPentium 4-Mのクロック数については詳しくは教えてもらえなかったが、候補として考えられるのは先日報道があった2GHz版あたりだろう。

 Priusノートなどコンシューマ向けへの展開はどうなるのだろうか。「まずはビジネス系のハイエンドノートで様子を見る。量産が軌道に乗ってコストも下がってくれば、水冷システムの適応範囲を広げていく。その中でコンシューマ向けも考えるというかたちとなる」(源馬氏)。

 両氏に無理にお願いして、最終モデルに近い試作機の外観を撮影させてもらった。


最終モデルに近い水冷PC試作機

 「リザーバータンクは、本体内に収めることも可能だが、それだと水冷だというのが外観からは全然分からなくなってしまう。第1弾の製品は、シンボル的な意味も込めて特徴あるこのデザインを採用した」(源馬氏)。

 実はキーボード側には、きょう体のさまざまな場所の温度を計測するたくさんのセンサーが取り付けられていたのだが、「温度を測る場所にノウハウがあるので」(近藤氏)ということで、撮影はできなかった。

 Pentium IIIが搭載されたこの試作機は、実際に水冷システムで動作していた。3D系のベンチマークソフトを走らせてCPUにかなり負荷をかけた状態だったが、耳を近づけてもきょう体からはほとんど音が聞こえず、たまにHDDのシーク音がかすかにする程度。液晶画面を見るまでは、電源が入っているのも分からなかったほどだ。水冷システムが、PCの静音化に明らかに貢献している。

“水冷”を冷却システムのデファクトスタンダードに

 現在のプロセッサは、集積密度を上げるためにダイサイズがどんどん小さくなり、代償として熱密度がどんどん高くなっている。Intelのロードマップによると、いずれ核反応炉と同じ熱密度になり、そして、ロケット噴射口や太陽表面と同じ熱密度に達してしまうという。

 熱を発する面積が小さくなっていく熱密度の上昇は、空気で冷却する空冷方式にとって単に高熱になるよりも重要な問題だ。最近のPCでは、より大きなヒートシンクで熱面積を広げた上で、大きなファンで冷やすという方法でCPU熱密度の上昇に対応している。

 「ノートPCなど本体スペースが限られた場所では、空冷では熱を持った空気が循環してしまい、なかなか温度が下がらなくなっている。そのため各社は、ファンの数を増やしたり回転を上げたりして熱対策を行っている。モバイルPentium 4になって、どのメーカーのPCもファンの騒音がひどくなってきているのはそのため。小さな面積から熱を効率的に逃がすためにも、水冷方式が適している」(近藤氏)。

 同社がノートPC用に使う水冷システムは、ライセンス契約をしたグループ企業の日立電線に生産を委託することになっているが、日立電線からはモジュール化した水冷システムも単体で販売される予定。他のPCメーカーがこのモジュールを購入し、水冷PCを作ることも可能になるわけだ。さらに現在、台湾の複数メーカーとも水冷システム生産委託に関する話し合いをしているという。

 「水冷システムはPCだけでなく、高密度サーバやプロジェクタ、プリンタ、複写機など、空冷ファンを使ったエレクトロニクス製品全てに応用できる。日立電線とは違い、資本関係がない台湾メーカーからモジュールが提供されれば、他メーカーも水冷システムが導入しやすくなるのでは。大量生産によって製造コストも安くなり、エレクトロニクス製品の冷却方式でのデファクトスタンダードになってくれればと考えている」(源馬氏)。

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関連リンク
▼ 日立製作所

[西坂真人, ITmedia]

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