News 2003年2月27日 09:46 PM 更新

無線LANトップのLinksys、その日本攻略プランは?

無線LANのコンシューマー向け製品で世界トップシェアを持つLinksysが、日本法人の体制を一新。本格攻勢に出る準備を始めた。そのトップに就任したのは、日本IBMでAptivaやThinkpadの製品企画などを手がけてきた中林千晴氏。同氏にその戦略を聞いた

 Linksysは2002年のワールドワイドにおける無線LAN機器販売シェアで、メルコをぬいてトップに踊り出た米国最大のネットワーク専業ベンダー。しかし、日本での知名度は今ひとつだ 。

 この状況を打開するため、同社はこのほど、1998年に開設された日本法人の体制を一新。日本アイ・ビー・エムのPC部門でマーケティングや製品企画の中心になって活躍してきた中林千晴氏をスカウトし、日本法人のトップに据えた。新体制で日本でもトップシェアを目指すという同社の日本攻略の見通しと戦略を、その中林氏に聞いた。


リンクシス・ジャパン代表取締役 中林千晴氏

ブロードバンド普及で急成長したLinksys

 Linksysは生産メーカーと連携関係を築くことで、研究開発費をできるだけ抑え、代わりにマーケティングとサポートを充実させているのが特徴だ。社員数は現在1000人強だが、その半分以上をサポート要員として抱えている。それも、カルフォルニアに250人、マニラに700人を配置し、時差にあわせて稼動拠点を切り替えることで、ワールドワイドで365日24時間の対応(ただし英語のみ)を行っている。

 その同社の業績が急激に伸びたのはこの5、6年のこと。これは、米国のコンシューマーネットワークインフラの変化が影響している。

 従来、米国のネットワークは固定料金制によるアナログ電話回線で接続されていた。このとき使われていたのが「モデム」。当時、この市場でトップの座にあったのがUS Roboticsだった。

 しかし、その後、回線がCATV、ADSLへ移行するのに従ってモデム需要は減少、代わってCATVモデムやADSLモデムを内蔵したブロードバンドルータが家庭に普及するようになる。これに合わせてモデムベンダーの地位は低下。Linksysをはじめとするネットワーク機器ベンダーの業績が急伸する。

日本攻略の基本プランは「価格競争力」

 米国ではコンシューマー市場を制した同社だが、日本市場では事実上、これからの状態。低価格とサポートという米市場で威力を発揮したアドバンテージも、日本市場ではそのまま通用するとは限らない。

 これには日本市場ならではの特殊性があるからだが、中林氏はDOS/Vの立ち上げ当初から、IBMのマーケティング担当として日本市場の特殊性と向き合ってきた人物。そんなことは先刻承知だろう。では、中林氏は、どのような「日本市場攻略プラン」を描いているのか。

 PC周辺機器でまず考えなければならない日本市場の特殊性には、「家電量販店、カメラ量販店における店頭での露出度」が、売上増に決定的な役割を果たしていることだ。しかし、露出度を上げてもらうには、充実した営業要員と店頭マージンの引き下げや広告協力費の提供といった形で、莫大なコストをかける必要がある。いわば“物量作戦”。新生リンクシス・ジャパンにそのような戦い方は望みえない。

 そこで中林氏が考えているのが、ネットによる販売網の構築だ。長年、日本の流通を観察してきた中林氏によれば、流通には「5年サイクルの法則」があるのだという。「10年前、秋葉原で力を持っていたのはガレージショップ。それが5年前には家電量販店の台頭で、ガレージショップは軒並み倒れていった。ところが現在、家電量販店も価格競争によって、非常に苦しい商売を強いられている。これから家電量販店の流通に代わって主流になるのが、インターネットショップ、いわばリテールならぬeテールだ。デルコンピュータの例を見ても、これが分かる」(中林氏)。

 こうした、既存の流通に依存しない販売戦略とともに重視しているのが、価格競争力だ。むしろ「中林プラン」のメインは、この価格競争力の確保である。2月28日に新体制となって最初にリリースされたIEEE 802.11g対応無線LANアクセスポイント内蔵ルータ、ブロードバンドルータ、無線LANクライアントカードなどは、“g”対応にもかかわらず、競合他社の“b”対応製品の標準価格、もしくは販売予想価格とほぼ同じ実売価格になることを想定している。

 米国で成功したサポートの充実も当然強化する。だが、現状の社内リソースは少なく、人員を増やせば、価格競争力にもろに響く。とはいえ、海外の英語によるサポートでは意味がない。そこで、中林氏はちょっとユニークな方法を考えている。

 まず、日本語サポート部隊の基幹要員を社内で育成。彼らを中心としたサポート部隊を外部人材を主力にして編成する。それでも365日24時間のサポートには陣容的に厳しい。「だから、私たちの狙うユーザーの特性に合わせ、シフトを敷く」。同社はコンシューマーユーザーがメインターゲット。法人は主たる対象ではない。「コンシューマーユーザーがこうした機器の設定をするのは、土日。平日なら朝と夕方。こうした時間の対応を充実させ、代わりに例えば月曜のワークタイムに休みを取るといったことを考えている」(同氏)。

本格攻勢は今年後半から

 同社は当面、こういった体制固めに力点を置く方針。日本市場への本格攻勢はその後と考えており、「すべては今年の後半から」(中林氏)になるという。

 日本で重視される製品デザインについては、日本のデザイン会社と協力した製品開発を進めており、今年後半には投入できる見通し。また、ホームユースでの普及が見込まれる「AVホームサーバ」的な製品も、今年後半を予定している。

 中林氏は明らかにしなかったが、おそらくは、同社の仮想敵は日本のコンシューマー市場でトップをいくメルコだろう。この強敵に立ち向かうため、力をため、攻勢をかけたら一気呵成にトップを奪う――これが中林氏の描く青写真に違いない。

 だが、不安材料もないわけではない。

 その1つは、ネットワークに依存する販売形態が、どれだけ日本で受け入れられるかだ。中林氏が成功の実例として挙げるデルコンピュータだが、世界に冠たるデルコンピュータも、日本ではいまだトップシェアを確保するには至っていないからだ。

 しかし、それ以上に懸念されるのは、IEEE802.11gが普及するであろう今年前半に、本格攻勢に出られないことだ。現時点でIEEE802.11gのコントローラチップの供給は非常にタイトで、供給元は事実上BroadComが唯一。そのBroadComは供給先を絞り込んでおり、現在はメルコとLinksys、Apple Computerの3社にしか供給されていない。

 同社はこの時期、貴重なIEEE802.11g対応製品を供給できる限られたベンダーであり、その意味では、日本市場に攻勢をかける上での格好のチャンスなのだ。その大切な時期を体制固めで過ごしては、みすみす勝機を見逃すことにならないだろうか。

 勝機を逃がさない迅速果敢な攻撃。これこそが弱小な兵力でも勝利を収める唯一の戦法のはず。かつて「DOS/V」で巨大な「国民機」と戦った中林氏なら、そんなことは「言われなくても分かっている」と言われそうだが……。


今回リリースされたIEEE 802.11g対応無線LANアクセスポイント内蔵ルータ「WRT54G」


米国ではすでに販売されているPCIスロット対応のIEEE802.11g対応クライアントカード。日本でもまもなく投入される予定だ。這い回るイーサネットケーブルが家族に嫌われる事情は日本でも米国でも同じらしく、無線LANへの移行が急速に進んでいる


これも米国で販売されている電力線インターネット用の接続アダプタ。右がLAN。左はUSB対応である。米国では電力線インターネットが実用化されているが、やはりその利用者はごく限られた層になっているそうだ



関連リンク
▼ リンクシス・ジャパン

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[長浜和也, ITmedia]

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