自社技術だけで実現した美しい映像──ソニー VAIO Type V V201

» 2004年05月26日 15時26分 公開
[小林哲雄,ITmedia]

15インチモデルと17/20インチモデルは別性格の製品

 ある意味、新生VAIOのコンセプトを最も強く表現しているのが、今回紹介するVAIO type Vといってもいいだろう。VAIO type Vは、その構成から見て、従来のVAIO V後継シリーズといってもいい。VAIO type Vと名称が変わっただけでなく、17/20インチモデルが追加投入されている。15インチモデルは、以前の製品とハードウェアの構成はさほど変わっていない。

 その一方で、17/20インチモデルは「VAIO type Vの“V”はテレビとビデオのV」と言いたくなるほどの内容で、従来のテレビPCとは一線を画すVAIOらしい、というよりもソニーらしい「トンガリ加減」に満ちた製品となっている。今回、レビューしたのは5/24に発売されたVAIO type Vの最上位機種「VGC-V201」だ。

VAIO type Vの最上位機種。20インチディスプレイを搭載したVGC-V201。Sony Style価格は26万2500円

絵作りはすべて「ソニー」の手で

 これまでのTV機能付PCは、チューナーユニットで受信したTV信号をA/D変換し、そうして得られた画像(場合によってはさらにボード内部でMPEG-2エンコードを行う)を、CPUがビデオメモリにテレビ画像を書き込んで、これを通常の画像と重ね合わせる処理を行っていた。

 多くのメーカーがこの機能を使って「テレパソ」を作ってきたが、この場合、IP変換(TV放送のインターレース信号を液晶で見るためにプログレッシブ表示に変換する必要がある)とスケーリング(TVの場合320×240ドット程度の解像度だが、最大表示解像度が1024×768ドットのディスプレイに全画面で表示すると、TV映像も1024×768ドットに拡大する必要がある)は、グラフィックチップで行う必要があった。

 この方法では、色作りも「コントラスト」「カラー」と言ったありきたりの調整しか行えない。ソニーの場合、ビデオキャプチャーボードは自社製であったが、その先のグラフィックチップがソニー製でない以上、表示できる画質もほかのPCメーカーの製品と大きく変わることがない。

 PCで使っているディスプレイにTV番組が映るだけで「おお、スゴイ」と言われていた時代ならばともかく、液晶やテレビ機能が当たり前になった現在のメーカー製PCでは、ユーザーにも色々と不満が出てくる。

 家電メーカーがこのところ力を入れているのは、この液晶やプラズマディスプレイに美しいビデオ画像を表示ための「絵作り」なのだが、PCであるVAIOではソニーの製品なのに、すべて他社の技術で実現するしかなかったのだ。

 VAIO type Vは、いままで他社技術にゆだねてきた部分にもソニーが手を入れており、ここが15インチモデルと17/20インチモデルで大きく異なるところでもあるのだ。

 今回、新たに液晶専用高画質表示ビデオプロセッサ「Motion Reality」を開発し、17/20インチモデルに搭載している。このチップがなぜキレイなのか、という理由としてソニーは四つの項目を挙げている。

 一つはスケーリングとIP変換を改良した「X-algorithm IP変換」の採用。従来の手法は「単純に拡大」するもので、イメージとしてはモザイク状に大きくしていると考えていいだろう。このため、ナナメ方向に伸びる線がカクカクとした状態になるが、Motion RealityではX-algorithmによって緻密に見えるような補完が行われる。

 今回の評価作業中に気が付いたのだが、どうも、実際に見るとナナメ線がきれいなだけでなく、低画質MPEGのブロックノイズもそれらしくないような補正されているようだ。テレビを高密度LCDで表示する場合に、より高精度に見えるように補正してくれるメリットはユーザーにとって大きい。

 二つめは液晶そのものにかかわる問題だ。高応答液晶といわれる製品が出ているものの、それでも液晶の反応速度は遅い。このため、一つ前に表示した状態から大幅に輝度が変化すると追従しなくなり、動画がボケた感じになる。これを補正するために用意されたのが「LCK」(Liquid Crystal Kicker)だ。オーバーシュートドライブとも言うのだが、これは強制的に追従度を上げるため、要求される輝度変化よりも大きな信号を入れてより速く目的の輝度に上げてしまう仕掛けになっている。

 三つめは液晶向けのシャープネス回路「Advanced Adaptive Sharpness」だ。信号レベル適用型シャープネス、エッジ検出型シャープネス、斜め方向シャープネス、コアリング、ビデオ周波数適応型オートシャープネスの複合によって「クッキリしつつジリジリした映像にならない」シャープネスを実現している。

 最後は、画像のレベルやヒストグラムに応じて見かけ上のダイナミックレンジを拡大する手法だ。これはまだ改善の余地があるとのことだが、実際に色がクッキリと乗りつつ肌色が自然にでる効果が得られている。

 テレビ機能を重視したPCが欲しいユーザーならば、これらの機能がもたらす画質の改善は非常に価値のあるものになるだろう。店頭でほかのPCで表示されているTV画像と実際に比較すると、その違いは一目で分かるはずだ。VAIO type Vが家電製品で培ったソニーのノウハウを吸収した、とも言える。TV操作などのソフトウェア部分も、前述の「DO VAIO」とハードソフトがガッチリ連動している。美しく、かつ使いやすいTV機能こそVAIO type Vの真骨頂なのだ。

“テレパソ”ならぬ“パソテレ”

 その意味でVAIO type VはPCというよりも液晶TVに近い製品にも思えてくる。デザインも液晶TVに似せてあり、ついているロゴが“SONY”ではく“VAIO”であるところに、わずかながらもPCであることを主張しているといってもいいほどだ。

右側面にはDVD+-RWドライブにPCカードスロット、メモリースティックスロット、I. LINK、USB 2.0と主要なインタフェースが用意されている。対して左側面はファン用のスリットのみで、インタフェースは設置されていない
背面はカバーで覆われていて、このカバーを外すとインタフェースやメモリスロットがむき出しになる。2カ所に分かれたインタフェースは、アンテナやビデオサウンド系の入出力とUSB 2.0、i.LINK、LANが用意されている

 常時接続する端子は中央、またはリアカバー内に配置しているため、見た目にすっきりした印象を受ける。ディスプレイの左右は自由に回転し、俯角仰角も上20度下5度まで動かせるので、ユーザーは床に寝転ってリモコン片手、といったTV的使い方で不自由しない。

 また、一体型で大きくなりがちな騒音も、相当抑えられているのも重要なポイントだ。リア中央にファンがついているものの、回転数が抑えられているだけでなく、大型のクーラー(ヒートシンクにはヒートパイプが組み込まれている)で熱風を上面に「静かに」吹き出す。

 第二世代VAIOのテーマカラーであるブラックも筐体デザインで効果的に使われている。光沢のあるクリアブラック液晶にあわせるように、ディスプレイ正面はツヤのあるアクリルパネルで覆われている。一方、本体の後ろ側、キーボード、マウスはラメ入りのブラックで締まった印象を与えている。

 TVが中心のVAIO type Vゆえ、キーボードとマウスは本体と分離できる無線式(操作距離はおおむね80センチまで)だ。さらにリモコンが付属しており、DO VAIOとの組み合わせによって、リモコンのみでもほとんどのAVプレーヤー関連機能が利用できる。

VAIO type V同梱のキーボードとマウス。キーボードのパームレストはキートップカバーとして使えるVAIOお馴染みのもの
こちらはTVとして使う場合に重要な入力デバイスとなるリモコン。中央のVAIOボタンでDO VAIOが起動する

 TVとしての使い勝手は優れたマンマシンインタフェースのほかにも、すばやい起動と終了を要求する。VAIO type Vは、TVを全画面表示で行っている場合なら即時にサスペンド終了ができ、待機時消費電力も2ワットに抑えられている。サスペンド復帰もカタログ公称値で5秒(たまに手間取ることもあったが、それでも10秒程度)で、実際使っていてTV専用としか思えない感覚だった。VAIO Type Vの本領はここでも発揮されている。

 ただしPCとしてみた場合、VAIO type Vのコストパフォーマンスはさほどよいとはいえない。今ではエントリークラスともいえるCeleron/2.50GHz、Intel 865GVチップセット、ハードディスク160Gバイトというスペックとしては価格が高め(でも、メモリは512Mバイトと十分搭載している)。

PCMark04(Build110)

 それでも、PCがメインでなく、TVとそれに付随するAV機能、そしてWEBなどを楽しむ分にはなんら不満はない。VAIO type VはTV“も”見られるPCではなく、PCが付いているTVであり、TVの画質アップに開発コストをかけた製品なのだ。TVの高画質にメリットを感じないユーザーは「意味がない」と思うかもしれないが、人は四六時中PCと向かっているわけではない。

 ただし、「PC付きTV」としてのVAIO type Vに不満を感じたところが一つある。AV機能をこれだけ用意しているにもかかわらず表示装置としての入力がS/コンポジットビデオのみというのは少ない。地上デジタル放送が真に普及した場合に、D4やDVI端子が付いていれば(PCとして陳腐化しても)ディスプレイとして延命利用ができるはずだ。

 この仕様は入力装置をキャプチャーカード経由にしているためなのだが、「TV付きPC」ではなく「PC機能付きのTV」として捉えるなら、これから不可欠になるこれらの入力端子を次世代機では、ぜひつけていただきたい。

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