Radisysが語る「Pentium M対応マザーはなぜ高い」

» 2004年07月08日 19時26分 公開
[長浜和也,ITmedia]

 Pentium M対応マザーとしてアキバのパーツショップに登場した「LS855」。汎用性の高いmicroATX対応ということで、ミニタワーやキューブケースでもPentium Mが利用可能ということで、静音フリークに大いに注目されたが、「Radisysってなに?」というユーザーも多かったのではないだろうか。

 Radisysはもともと組み込み系パーツの開発ベンダーで、通信事業者やネットワークシステムメーカー向けカスタム基板やソフトウェアの開発、医療システムやデータキオスク端末の設計など、エンタープライズ市場に特化したビジネスを展開している。

 LS855も、元来組み込み用システムに使うマザーボードとして開発されていた製品。そのボードが「なぜ」アキバのパーツショップに登場して「自作PCユーザー向け」に販売されたのかというと、「たまたま、日本法人の担当者が知り合いのパーツショップに卸したところ、インターネットの掲示板などで評判になってしまい、それなりの数を販売することができた。パーツショップのビジネスはまったく予想していなかったもので、こちらもびっくりしているぐらい」(日本ラディシス代表取締役社長 中井健二氏) どうやら計画的に行われた「組織的行動」でなかったというのが真相のようだ。

 とはいえ、日本の自作PCユーザーがPentium M対応マザーに注目している状況は依然として変わらない。それだけでなく、インテルが「Pentium Mをデスクトップシステム向けにも展開していくつもり」とコメントを出してみたり、そのインテルが提唱する「デジタルホーム」構想によって、PCがリビングに進出するためには低消費電力でハイパワーな静音PCが必要になるなど、デスクトップPCでもPentium M対応マザーボードの需要が高まりつつある。

 中井氏は「あくまでも我々のビジネスはエンタープライズ向け」という姿勢を崩さないが、それは未来永劫変わらないのだろうか。英国Radisysから来日したProduct Line Managerのペーター・ミッチェル氏に、これからの製品展開について話を伺った。

英国Radisys Product Line Managerのペーター・ミッチェル氏。7月7日から7月9日までビッグサイトで開催されている「第7回 組込みシステム開発技術展」(EDEC)に合わせて来日した

 ミッチェル氏はRadisysが英国に設置したマザーボート研究開発セクションのマネージャー。ミッチェル氏は、LS855がPentium M対応マザーとしていち早くDothanコアのPentium M 745(動作クロック1.80GHz)を正式にサポートしたこととあわせて、Radisysの高い技術力をアピールした。

 「私の知る限り、Pentium Mを搭載するmicroATXマザーボードを開発している台湾ベンダーはほとんどいない。Pentium Mを搭載システムは、基本的にノートPC向けのプラットフォーム。これをmicroATXに対応させるには、特別な設計技術が必要になる」(ミッチェル氏)

 この「特別な設計技術」がPentium M対応マザーで問題になる「高い価格設定」の一つの要因となっているようだ。「Pentium M対応マザーを開発する場合、インテルが推奨するデザインガイドに則って設計する必要がある。通常のデスクトップ向けマザーでは4層基板を使うことが多いが、このデザインガイドでは8層基板を使うように指導されている。これが、生産コストを押し上げて製品の価格が高くなる一つの要因になっている」(ミッチェル氏)

 DothanコアPentium Mに対応することで「より低消費電力が求められ、省スペースのシステムでも高いパフォーマンスを発揮できるようになる」と述べるミッチェル氏。LS855が利用されるデバイスとして従来のキオスク端末や医療システム以外に、「LS855はファンコントロール機能を有しているので、優れた静音性を実現できる。そのため、デジタル家電にも十分適しているだろう」と、LS855がホームユースを意識していることをはっきりと述べている。

ミッチェル氏が示すLS855のセールスポイント。パーツショップで疑問とされた「AGP or ADD」スロットだが、このスライドではADDスロットとして紹介されている

 ならば、コスト競争が激しいホームユース市場に参入すべく、LS855を始めとするPentium M対応マザーもコストダウンに踏み切るようになるだろうか。いやがうえにも期待が高まるところだが、ミッチェル氏は「いや、それはありえない」と、いともあっさり否定してくれた。

 「もちろん、開発にあたってコストダウンは意識するが、そのために、8層基板の代わりに4層基板を採用するといったインテルのデザインガイドから逸脱するようなことはできない。それに、我々のターゲットはあくまでもOEMであって、エンドユーザーではない」

 では、日本のOEMからデジタル家電向けとしてPentium M対応基板の引き合いは来ているのだろうか。

 「いや、まだ具体的な商談は決まっていない。日本においてはOEMよりも、エンドユーザーからの問い合わせが圧倒的に多いようだ。ただし、これがRadisysのビジネス戦略に影響を及ぼすことは残念ながらないだろう」(ミッチェル氏)

 Radisysでは、当然のことながら、インテルが次期モバイルPC向けチップセットとして予定している「Alviso」+「ICH6-M」を利用したデスクトップ向けマザーの開発を現在進行中。ミッチェル氏は「2005年の第1四半期には投入する予定」であることを明らかにしている。

 「2004年の年末までにはPCI Expressは標準のバスとして普及しているだろう。PCI Expressはグラフィックスとネットワークにたいして高いパフォーマンスをもたらしてくれるだろう」(ミッチェル氏)

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