特徴のないノートPCだけじゃだめらしい 東芝AV特化ノートPC「Qosmio」の意義とニーズ

» 2004年07月22日 20時27分 公開
[大出裕之,ITmedia]

映像に特化した画像処理エンジン搭載のノートPC「Qosmio」

 東芝が発表した新AVノートPCシリーズ「Qosmio」の第一弾「Qosmio E10」は、2灯式600カンデラ/平方メートルの15型XGA液晶と、2W×2で30ミリメートル径のharman/kardonステレオスピーカを搭載。これまでも同社はAV機能を強化したノートPCを発売してきたが、今回さらに一歩踏み込み、コンセプトを特化した。

 最大の特徴は、内蔵高画質化TVチューナ(MPEG-2ハードウェアエンコーダー搭載)と、自社開発の画像処理エンジン「QosmioEngine」の搭載。同エンジンは、デブロッキング、デリンギング、デジタルシャープネス、デジタルオーバードライブ、インタレース・プログレッシブ変換、ブラック/ホワイトエンハンサ、色補正、エッジエンハンサ、デジタルノイズリダクション、3次元Y/C分離、10bitADコンバートなどの機能を持ち、PCでもTV同等の高画質を実現した。

 またSRSサラウンド機能を搭載し、DVDなどの5.1chソースを2つのスピーカで擬似的に再現。立体的な音響を体感することができる。

dynabook Qosmio
QosmioEngineはLCDへの出力すべてに対して高画質化を司どる

 このようなAV機能もさることながら、ユーザーフレンドリーな機能として、Windowsを起動せずにTVやDVD、CDを操作できる機能「QosmioPlayer」を搭載。これまでの同社ノートPCには同様な機能を搭載したタイプが既に存在するが、Qosmioでは視聴するだけでなく、内蔵HDDに録画できるようになり、追っかけ再生などのタイムシフト機能を行うことができるようになった。

 Windowsを起動しない場合、QosmioEngineのみで再生・録画するため、Qosmioの高画質化処理を最大限に活かすことができる。

 もちろんEPGなどを使用した予約録画などはWindowsを起動して行うことになるが、その際も「QosmioUI」というAV統合ユーティリティーを使用することで、TV、ビデオ、音楽、写真といった使用目的別にソフトを起動できる。

 Qosmioという新コンセプトからするとおまけになってしまうが、PC本来の機能も低いわけではない。最上位機種の「E10/1KLDEW」(税込み店頭予想価格 26万円前後、発売日8月6日)の場合、Pentium M 1.50GHz、メモリ256Mバイト、80GバイトHDD、DVDスーパーマルチドライブとなっている。

 また同時にワイヤレスTVチューナー「PAWTV001」も発表。アンテナ線が届かない場所でも無線LANでTV映像をQosmioへ送り、視聴することができる。

ワールドワイド共通ブランドとして「Qosmio」を投入する意気込み

 さて今回のQosmio発表会では、東芝的事情も語られた。同社の分析によると、米国や西欧において、PC全体に占めるノートPC出荷台数が上昇しており、2008年くらいには日本と同様、約50%の構成比を占めるようになると想定。ただ、台湾勢などのコモディティ製品による価格の下落も起きているため、差別化できる戦略製品の開発により力を入れ、その第一弾がQosmioというわけだ。

東芝のPC販売台数の推移。こうしてみると、あまり停滞せずに順調に台数を伸ばしていることがわかる

 東芝のPC事業は先年赤字を出し、大規模な再編を行っている最中だ。PC&ネットワーク社社長の西田厚聰氏は「販売体制を効率化し、またマザーボード数を以前より半減させ、部品点数も削減した。また青梅工場は開発と量産・試作の拠点として集約し、その後海外で垂直立ち上げによる生産を拡大する方向で移行しつつある。また開発購買・ODMに関しては人員を増員して強化した」と語り、再編をしつつも、拡大しつつある市場をしっかりとキャッチアップする意欲を見せた。

左より、技師長の真田氏、PC&ネットワーク社社長の西田厚聰氏、企画の的場氏

 また、Qosmioというブランド名は、ワールドワイドで使用する。日本では「dynabook Qosmio」としてdynabookの知名度を利用するが、もしかするとAVノートPCのラインアップとしては“dynabook”というブランド名は消えるのかも知れない。

AV特化型のノートPCの存在価値は?

 東芝の分析によると、ノートPCにおけるTVチューナー搭載モデルとしては、東芝がこの1年じりじりとシェアを上げてきており、2004年の第2四半期で28.9%のシェアで一位となっている。市場全体としても、TVが録画できて画面がきらきらなノートPCの人気が高いのは確かだ。

 AVノートPCの需要は、確かにある。シングル世帯で大型TVを置けない環境における、TVとハイブリッドレコーダー代替の需要があるだろう。また、家族世帯における、2台目、3台目のリビング以外の場所での用途への需要があるだろう。

 これまでPCで高画質なTVを見るということに関しては、実はシンプルなソリューションが存在しなかった。デスクトップPCで好みのビデオキャプチャを組むことはできたが、万人が好む行為ではない。かといって、メーカー製PCの表示機能はあくまでもOSやソフトの表示機能の延長線上であり、“きれいな映像を見る”という目的で設計されてはいなかった。

 市場全般を見てみると、先日ソニーが発表したVAIO夏モデルのデスクトップのうち、画像処理エンジンを別途自社開発したモデルの評判が市場で良い。そういう意味では、それをノートPCで実現したといえるQosmioもまた、これまでのPCでの映像表示レベルを超越するという点において、時代のターニングポイントとなるマシンと言えるのではないだろうか。

 ただ、AVへの特化という点では、まだまだがんばってほしい側面もある。今回Windowsを起動しなくても録画できるようになったが、当然のことながら、予約もWindows起動無しで行いたい。そうすれば、普通のハイブリッドレコーダーの代替として検討できるものになるだろう。AV機能とPC機能をよりセパレートする、という方向性もあると思う。

 PCの未来がここにあるかどうかはユーザーが判断することだが、未来への方向性の一つがあることは間違いない。

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