「Appleはメインストリーム市場から退け」――元Appleデザイナーが語る

» 2004年07月23日 20時03分 公開
[IDG Japan]
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 Appleはメインストリームのパーソナルコンピュータ市場から撤退し、マルチメディア制作やエンターテインメントの分野に注力するべきだ――同社の元デザイン担当責任者がこう主張した。

 初期のAppleで活躍したデザインの大家ドン・ノーマン氏は「私には言えないこと」があると断りを入れた上で、コンピュータ市場でMacが失敗に終わり、MicrosoftやIBMに道を譲ってしまった原因は、同社の企業文化や、創造性に力を入れすぎる姿勢にあったと指摘した。

 「このビジネスストーリーは、かなり複雑なものだ。Appleはおごり、顧客を大切に扱おうとしなかった。創造性に報い、いくつかの見事な製品を世に出したが、そのやり方がまずかった。Appleの設計には修正すべき点があったが、誰もまったく直そうとしなかった。創造的な仕事ではないからだ」

 「そしてAppleが本当に墓穴を掘ってしまった点は、Macintoshはさえないビジネスマン向けではなく、『The computer for the rest of us(一般の人々のためのコンピュータ)』だというキャッチコピーを思いついたことだ。だからMicrosoftやIBMのようなスタイルのPCが、法人市場で非常によく売れたのは意外なことではなかった」

 ノーマン氏はその後Hewlett-Packardに勤め、今では次世代Windows「Longhorn」のデザインについてMicrosoftに助言する立場にある。この事実はMac支持者にとって、同氏の言葉と陰謀論を結びつける便利な口実になるだろう。しかし、初期からコンピュータ市場を見てきた、そしてその方向付けに一役買ってきた人物として、同氏の言葉にはかなりの重みがある。

 またノーマン氏は、コンピュータの未来について思いをめぐらすこともやめない。世界は今、互換性を求めていると同氏は指摘する。世界はコミュニケーションを求めており、これは1つのブランドの支配を意味するという。「もはや『コンピュータ時代』などではない。非常にスマートなチップが、巨大な世界規模のネットワークにつながる時代なのだ。インフラは共有を目的とする」。つまり、複数の互換性のない方法で物事を進めると、生産性を落とすことになるというのだ。

 ノーマン氏は、人類が実際にコンピュータとやり取りする方法が、急激に変わると予測している。現在使っているようなフォルダにファイルを収めるタイプのGUIは、RAMが128Kバイトという初期のMacintoshには適していたが、拡張性に欠けると同氏は指摘する。

 当時はタスクもほとんどなく、このようなGUIで十分だった。「一目ですべて把握できるため、何も覚える必要がなかった。今では全部見せてしまっては、うまくいかない。ものが詰め込まれすぎているのだ」。論理的に考えていくと、汎用型コンピュータは時代遅れになるはずだと同氏。

 同氏は今、静的なファイルシステムの見せ方を捨て、検索可能なデータベースを基盤にするマシンを考えている。文書−フォルダ−キャビネットの階層構造は、オフィスの機能するさまをうまくシミュレートしているかもしれないが、「私は自分の仕事を終わらせたいだけなのだ」と同氏。添付ファイル付きのメールを送ろうと思ったときに、別々のフォルダを探してワープロソフトを立ち上げなくてはならないとしたら、自然な働き方の邪魔になる。明らかに、すべてを一度で保存する方が理にかなっている。従来型のファイルシステムでは、別々の場所に複製ファイルを作ってしまいがちだ。

 だがノーマン氏はそれでも、Appleがデザインした多数の機能を高く評価している。その機能面に触れ、マシンを箱から出すのは「楽しい経験」だとし、「光るロゴは皆に、自分はAppleユーザーなのだという実感と、コミュニティーに所属しているという意識を与える」と語った。

 優れたデザインというのは3つのレベルで成功していると同氏は説明する。それは、製品に知性な印象を与える「思慮深さ」、ユーザーが製品を使う方法を示す「振る舞い」、感情に訴える「直感性」だ。現代社会において、感情よりも効率性や利益に目が向けられているのは悲しいことだ。

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