エプソンの新モデル「PX-G920」と「PM-G820」はどこまで進化したのか(2/2 ページ)

» 2004年10月15日 08時00分 公開
[林利明(リアクション),ITmedia]
前のページへ 1|2       

顔料インクと染料インクの画質を比較

 PX-G920とPM-G820の最大の違いは、インクが顔料か染料かという点と、インク色の種類と色数だ。顔料と染料の特徴は冒頭で述べたとおりだが、実際の印刷サンプルで確認してみよう。印刷元のアプリケーションには、付属の簡単プリントツール「EPSON Easy Photo Print」(EPSON PhotoQuickerの後継)を使い、用紙は「EPSON写真用紙」だ。印刷モードは「最高画質」に設定し、カラー補正はEPSON Easy Photo Printの自動補正に任せた。

 PX-G920から述べると、素材(印刷画像)の諧調を比較的リニアに再現している。シャドウから中間調がどっしりしている感覚で、発色に深みがある。彩度が高い赤系や青系、紫系の表現力がよいのは、レッドインクとブルーインクの恩恵だ。

 PM-G820は、シャドウから中間調をやや明るめに表現するようだ。諧調性に問題はないが、コントラストを抑え気味なので少し淡泊な印象を受ける。誤解のないように補足すると、PX-G920より画質が悪いわけではない。EPSON Easy Photo Printの自動補正をオフにすると、素材画像に近い明るさでプリントされる。

 シーン別に見てみると、風景写真はPX-G920、人肌はPM-G820が優れている。自然界の色表現には、PX-G920の広い色域と諧調能力が威力を発揮する。人肌だと素直な階調性がマイナスに作用し、顔色が悪く見えてしまう。人肌に関しては、明るめで適度な赤みがあるPM-G820のほうが健康的だ(あくまでEPSON Easy Photo Printの自動補正で印刷した場合。PX-G920の人肌表現が一律に悪いわけではない)。ちなみに、粒状感はPX-G920もPM-G820もまったく気にならないレベルで、細部の解像力もしっかりしている。

 PX-G920とPM-G820を比べると、おそらく多くの人に好まれるのはPM-G820の出力だろう。多少は明るめのほうが、第一印象で高画質に感じるものだ。光沢感もPM-G820が上で、同じ印刷物に蛍光灯を反射させてみると、用紙に映る蛍光灯の形状再現や反射の光量などで違いがよく分かる。

●G920

Easy Photo Printデフォルト設定で印刷
Easy Photo Printデフォルト設定で印刷
素直な諧調と発色の深みが特徴。高彩度の赤系と青系の発色に優れている。PM-G820より地味であり、やはり玄人好みの画質だ

●G820

Easy Photo Printデフォルト設定で印刷
Easy Photo Printデフォルト設定で印刷
コントラストは控えめだが、一見して見栄えのする画質。PX-G920と比較すると発色が淡く、画像によってはシャドウが浮き気味になることもある

 また、詳細はドライバ&付属ソフト編で述べるが、新モデルは「Adobe RGB」カラースペースで簡単に印刷できるようになった。Adobe RGBはWindows標準のsRGBカラースペースよりも色域が広いため、より美しい発色が得られる。そこで、sRGB画像とAdobe RGB画像の出力の違いを紹介しておこう。印刷物をスキャンした画像を掲載しているため、正確な色の評価はできないのだが、雰囲気は伝わるはずだ。

 素材の画像には、キヤノンのデジタル一眼レフ「EOS 10D」で撮影したRAWデータを、現像ソフトの「FileViewerUtility」からsRGBとAdobe RGBのTIF形式で出力したものを使った。アプリケーションは「Adobe Photoshop CS」で、sRGB画像の出力はドライバのデフォルト設定だ。

●G920

ドライバのデフォルト設定で出力したsRGB画像
Adobe RGBモードで出力したAdobe RGB画像
ドライバのデフォルト設定で出力したsRGB画像と、Adobe RGBモードで出力したAdobe RGB画像。後者のほうが赤と緑の彩度が高く、素材画像の色に忠実だ

●G820

ドライバのデフォルト設定で出力したsRGB画像
Adobe RGBモードで出力したAdobe RGB画像
ドライバのデフォルト設定で出力したsRGB画像と、Adobe RGBモードで出力したAdobe RGB画像。前者はちょっと明るすぎる。PM-G820の画質傾向がマイナスに作用した一例だ。後者は赤と緑がかなり自然になったが、PX-G920のAdobe RGB出力と比べると、素材画像の色に忠実とまではいかない

印刷速度は同等

 印刷速度は、PX-920とPM-G820とでほとんど同じだ。A4普通紙の「速い」設定と、エプソン写真用紙のL判「超高精細」設定で比較的差があるのは、インク種類と色数が原因と考えてよいだろう。

 画質との兼ね合いも重要だ。エプソン写真用紙のL判から見ていくと、おすすめは「高精細」である。「超高精細」との画質差は、少なくとも目視ではまったく見分けがつかず、10倍のルーペを使っても判別が厳しい。「高精細」と「きれい」は、目視でも違いが見える。高精細のほうが高解像度(インクドットが高密度)だ。

 同様に、インクジェット官製はがきは「きれい」、A4普通紙は「速い」をおすすめする。PM-G820のA4普通紙印刷は、「速い」だとインクのにじみが大きめなので、データや目的に応じて「きれい」と使い分けたい。

印刷時間は、紙送り開始から排紙(トレイに落ちる)までを計測。L判フチなしの用紙は「エプソン写真用紙」だ。もう少し速いと嬉しかったのだが、ストレスを感じるほどではない

気軽に使うならPM-G820、色にこだわるならPX-G920

 PX-G920とPM-G820は、機能的には同じと考えてよい。大きな違いは、発色の傾向と光沢感の雰囲気だ。色にこだわりを持ち、ドライバ設定やレタッチで試行錯誤する人には、PX-G920をすすめたい。PM-G820でも発色はコントロールできるが、ユーザー意図の反映や素材色への忠実度などでPX-G920が勝る。価格的に見ても、PX-G920はユーザーを選ぶプリンタだろう。PM-G820をおすすめするのは、機能面に魅力を感じつつ、画像の色やドライバ設定を深くいじらなくても、手軽に美しい出力を得たいと考える人だ。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年03月28日 更新
  1. Synology「BeeStation」は、“NASに興味があるけど未導入”な人に勧めたい 買い切り型で自分だけの4TBクラウドストレージを簡単に構築できる (2024年03月27日)
  2. 「ThinkPad」2024年モデルは何が変わった? 見どころをチェック! (2024年03月26日)
  3. ダイソーで330円の「手になじむワイヤレスマウス」を試す 名前通りの持ちやすさは“お値段以上”だが難点も (2024年03月27日)
  4. ダイソーで550円で売っている「充電式ワイヤレスマウス」が意外と優秀 平たいボディーは携帯性抜群! (2024年03月25日)
  5. ミリ波レーダーで高度な検知を実現する「スマート人感センサーFP2」を試す 室内の転倒検出や睡眠モニターも実現 (2024年03月28日)
  6. 次期永続ライセンス版の「Microsoft Office 2024」が2024年後半提供開始/macOS Sonoma 14.4のアップグレードでJavaがクラッシュ (2024年03月24日)
  7. 2025年までに「AI PC」を1億台普及させる――Intelが普及に向けた開発者支援をアップデート ASUS NUC 14 Proベースの「開発者キット」を用意 (2024年03月27日)
  8. いろいろ使えるFireタブレットが最大7000円オフ! Echo Budsは半額以下で買える! (2024年03月26日)
  9. 15.5万円の有機ELディスプレイ「MPG 271QRX QD-OLED」に指名買い続出 (2024年03月25日)
  10. サンワ、Windows Helloに対応したUSB Type-C指紋認証センサー (2024年03月27日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー