X41 Tabletに見るThinkPadの“変化”と“進化”──レノボ・ジャパン 研究・開発担当副社長に聞くThinkPad X41 Tablet特集(3):インタビュー(1/2 ページ)

「ThinkPad X41 Tablet」は、今年5月のレノボ・ジャパン設立以降、同社が初めて投入したThinkPadの新製品である。X41 Tabletは、ThinkPadの進化を表現している製品といえるのか。そして、ThinkPadならではのこだわりはどう生きているのだろうか。同社研究・開発担当取締役副社長の内藤在正氏に話を聞いた。

» 2005年07月27日 09時30分 公開
[大河原克行,ITmedia]

ThinkPadにおける“進化”と“変化”

 レノボ・ジャパンが投入した「ThinkPad X41 Tablet」(以下、X41 Tablet)は、今年5月の同社設立以来初のThinkPad新製品である。ThinkPad生みの親であり、レノボにおいてもThinkPad開発において陣頭指揮を振る内藤在正 研究・開発担当取締役副社長は、「ThinkPadのものづくりの基準は信頼。その信頼を裏切らない製品を引き続き投入し続ける」と話し、X41 Tabletにもそれが息づいていることを訴える。レノボのものづくりへのこだわり、そして、そのこだわりがX41 Tabletにどう生きているのか。内藤副社長に存分に語ってもらった。

レノボ・ジャパン研究・開発担当取締役副社長の内藤在正氏


──レノボ・ジャパンの内藤在正取締役副社長は、ThinkPadのものづくりを“進化”と“変化”という言葉で表現する。変化と進化。その言葉の違いはなんなのか。

ITmedia ThinkPadが、ものづくりにおいてこだわり続けてきたこととはなんですか。

内藤副社長(以下、内藤) プロのための道具であり続ける、ということです。プロというのは、PCの使い方がプロである、という意味ではありません。仕事のプロに対して、彼らの生産性をいかに上げることができるか、時間をより効率的に使うためにどう支援するか。これを実現するための機器でありたいということです。

 私自身、技術者と話をする際に気をつけてきたことがあります。それは、その技術進化は、本当にお客様の立場で役に立つものなのかどうかという点です。私は、技術的な説明を聞いた後にこう話すようにしているのです。「今の話をお客様の立場になって、何が良くなったのかをもう一度説明してくれ」と。

 例えば、これまで100メートルしか届かなかった無線LANを、200メートル飛ぶようにしたとしましょう。しかし、このスペックが、何も障害がない環境で実現したものであるとしたら、まったく意味がない。お客様の利用環境を考えると、机やロッカー、パーティションなどが置かれたオフィスの中で利用しているわけですから、その利用環境を想定した上でどこまで性能を発揮できるかに意味がある。

 プロのお客様が欲しいのは、スペック上の機能強化ではなく、本当に使えるのかどうか、という点です。だから、ThinkPadのものづくりもそこにこだわる。

 ThinkPadの耐久試験は、一定基準のクリアを目的としたものではなく、どこまでやると壊れるかという破壊領域のレベルを知るため試験内容です。300Gに耐えればいいというのではなく、使うという環境で、どこまでやれば壊れるのか、それが満足いく基準に達していなければどう工夫をするのか。ここにThinkPadならではのこだわりがあります。

ITmedia これは、レノボでも継続されているのですか。

内藤 この点は、レノボになっても一切変化はしません。変化するというのは、考え方が大きく変わるということを指します。ThinkPadの基準は変わりませんし、ThinkPadの基準を満たさないものには、ThinkPadのロゴは絶対につけません。ですから、「ThinkPadはこれからも変化しない」と言い切れます。

 今、レノボ全体を見渡しても、ThinkPadのロゴを付与できるノートPCを開発できるのは、日本の大和事業所にいる研究開発チームだけです。10年以上に渡って蓄積したスキル、ノウハウ、コンセンサス、ルールがある。同じ材料、同じ時間、同じ設備で新製品を開発しても、出来上がってくるものは別物なんです。大和だからこそ、ThinkPadを作ることができる。こうしたノウハウなどは、1日、1年で組織や人に染み込むものではありません。

 ただ、将来的には、これが中国で開発することが可能になるかもしれません。すでに何度か中国に渡り、エンジニアと話をしましたが、旧レノボには非常に優秀な技術者が揃っています。話に対する理解も早いし、高いレベルで議論ができる。

 一方、大和のエンジニアたちも、「ThinkPadは自分たち自身である」という気持ちで開発していますし、ThinkPadに対して強いオーナーシップを持っている。ThinkPadをプロの道具として、さらに機能を向上させ、より生産性をあげるための技術革新を、これからも徹底的に行っていくことになります。

 つまりThinkPadは、変化はしないが、進化を続けることになるといえます。進化するThinkPad。それがレノボのThinkPadなのです。

レノボになったことで、エンジニアの活躍の場が広がる


──レノボのThinkPadは、進化すると内藤副社長はいう。その中には、旧レノボとの合併による相乗効果も見逃せないだろう。レノボの血が混ざることでどんな進化が遂げられるのだろうか。

ITmedia レノボになったことで、新たにもたらされる進化とはなんですか。

内藤 IBMのThinkPadの開発は、IBMが推進するビジネスの枠の中でやってきた。この枠が取り払われたという点では、エンジニアの活躍の場が広がったともいえます。プロのための道具を実現できるのは、ノートPCだけではありませんし、もっと広い視野で物事を考えることができるようになる。エンジニアにとっては、成長のための良いチャンスが与えられたのではないでしょうか。

 私は、「自分の受け持ち以外の領域にも、もっと知識を広げるように」とエンジニアに指示を出しています。これまでの枠の中で発想するのではなく、もっと広い空間で仕事をしてほしい。それが、さらに違う形のプロの道具をお客様に提供できることにつながると考えているからです。

ITmedia それは、ノートPCとはまったく異なる新しい製品が、大和の研究開発チームから登場するということですか。

内藤 現段階でお話することには限界があります。また、誤解を招くような表現も避けなくてはなりません。ただ、IBMのすばらしい技術やノウハウを継承し、身軽な経営体質を持つレノボの良さを持ち合わせた、自由な発想ができる組織が誕生したことだけは確かです。繰り返しになりますが、IBMのビジネスの枠では考えられなかったような製品が登場する可能性はあると思います。

X41 Tabletで具現化されたThinkPadとしてのこだわりとは

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