スペック表記に潜む落とし穴──応答速度の虚像と実像ITmedia流液晶ディスプレイ講座:第3回(2/2 ページ)

» 2005年08月05日 00時00分 公開
[林利明(リアクション),ITmedia]
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中間階調の応答速度が重視され始めた

 中間階調の応答速度に関する問題点は業界でも認識されており、高速化と情報公開の気運が高まってきている。

 まず、高速化では、「オーバードライブ」を搭載した液晶ディスプレイが増えてきた。オーバードライブとは、中間階調の応答速度を高速化する技術の1つで、液晶テレビでも広く使われているものだ。

 オーバードライブでは、中間階調から中間階調に色を変えるときに、液晶分子にかける電圧の変化を通常より大きくすることで、中間階調の応答速度を改善する。階調にほぼ忠実な電圧変化をかける従来の仕組みよりも、目的の階調に達するまでの時間が短縮される。瞬間的には目的の階調を通り過ぎるレベルの電圧変化が発生するが、数msの出来事なので人間の目には感じられない。

階調が変わるときの電圧変化をオーバードライブ回路の有無で比較したグラフ。縦軸は輝度(階調レベルではない)、横軸は時間で、低輝度状態から高輝度状態に移行・安定するまでの時間が短いほど応答速度が高い。オーバードライブありの方が急激にグラフが立ち上がり、目的の輝度レベルに達するまでの時間が短いことが分かる。
 また、オーバードライブありのグラフを見ると、目的の輝度レベルに達する手前で、その輝度レベルを超える電圧がかかっている(現象としては画面が瞬間的に明るくなる)。これをオーバーシュートといい、オーバードライブの「かけ具合」だと考えればよい。応答速度の高速化ばかりに注力すると、オーバーシュートが大きくなって視覚的な画質が落ちてしまう。逆に、オーバーシュートを抑えすぎると、応答速度の高速化の度合いが低くなる。オーバードライブの「かけ具合」は、メーカーの重要なノウハウだ


階調変化の応答速度をオーバードライブ回路の有無で比較したグラフ(「0」が黒、「255」が白)。上がオーバードライブなし、下がオーバードライブありで、下のグラフでは各階調レベルの応答速度が比較的高速に揃っているのに対し、上のグラフでは中間階調の応答速度がかなり遅く、階調レベルによるばらつきも大きい

 オーバードライブ搭載の液晶ディスプレイには、ナナオの「FlexScan M170/M190」や「同S1910」、「同S2110W」などがある。それ以外でも、スペックの応答速度の部分に「中間階調」や「Gray to Gray」といった言葉と数値が書かれている製品は、オーバードライブを搭載していると思ってまず間違いない。

 情報公開という観点では、中間階調の応答速度を測定して公開するための統一規格の策定が、「VESA(Video Electronics Standards Association)」のワーキンググループで進められている。2004年の秋頃から、最終フェーズの一歩手前で議論がまとまらず膠着状態になっているようだが、各ベンダーは策定を見越して着々とノウハウとデータを蓄積している。

 現時点での情報をまとめると、VESAで策定予定の統一規格では、人間の目の動きを考慮して応答速度を算出するようだ。このため、計測器で単純に測定した数値よりも、若干遅い数値が出るという。また、液晶ディスプレイに限らず、CRTやPDP(Plasma Display Panel)といった表示デバイスの応答速度を、統一条件で計測できる仕様なのもポイントだ。

 応答速度の測定に用いられる「色」は、今のところ「黒」「白」「グレー」だけのようだ。数値でいうと、黒が「0」、白が「255」、グレーが「1〜254」となる。グレーに関しては、計測する始点と終点の階調もまだ決まっていない。

 それ以外の「色」については、中間階調(Gray to Gray)の応答速度が目安になるだろう。液晶ディスプレイでは、RGBカラーフィルタを設けた3つのサブピクセルによって画面上の1ピクセルが構成され、表示する「色」によって各サブピクセルにかかる電圧も異なる。このため、色変化の始点と終点において、RGBのいずれかが「0」もしくは「255」である色よりは、「1〜254」である色のほうがはるかに多いからである。

 VESAの統一規格が正式に採用されるようになれば、実態との乖離が大きかった「黒→白→黒」の応答速度だけでなく、より実用に即した中間階調の応答速度がスペックに加えられるようになるはずだ。製品を選ぶ際の客観的な判断材料となるだけに、ユーザーにとってはありがたいことである。

応答速度を重視して液晶ディスプレイを選ぶには

 PCで動画を見たり、アクション系やシューティング系のゲームをプレイするには、応答速度は基本的に高速な方がよい。ただ、これまで述べてきたように、スペックの数字はあまり参考にならない。「オーバードライブ搭載」や、「中間階調」の応答速度、あるいは「Gray to Gray」の応答速度が明記され、さらに数字も小さい製品がベストだ。

 こうした記述がある製品はまだまだ少数派だが、スペックの応答速度が「8ms」の製品にも注目したい。あるメーカーの関係者に伺ったところ、「黒→白→黒」の応答速度が「8ms」の製品は、中間階調の応答速度もなかなか良好とのことだ(実際の数値は分からなかったが)。

 ただし、応答速度「8ms」を実現した製品は、今のところTN系の液晶パネルを採用したものしか存在しない。視野角による色変化の大きさや階調性など、静止画ベースの画質には多少の妥協が必要だ。

 また、最近のナナオが力を入れている「VA系の液晶パネル+オーバードライブ」という組み合わせも有力だ。VA系の液晶パネルはTN系よりも視野角や画質面で優れているほか、ナナオ製品では内部10ビットもしくは14ビットのガンマ補正によって色の再現性と階調性も高い。応答速度の絶対値ではTN系の「8ms」製品に負けるが、幅広い用途で快適に使えるユーティリティープレイヤーである。

 最後に余談を1つ。液晶ディスプレイの応答速度は、温度が高いと高速になる。液晶分子には粘度があるため、温度が高くなると動きがスムーズになるからだ。これからの季節、エアコンの設定温度を高くして試してみてはいかがだろうか。応答速度の向上、電気代の節約、地球温暖化防止貢献と、良いことずくめである。

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制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2006年3月31日