中国の金型産業の強さとその裏側(後編)山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/3 ページ)

» 2006年01月06日 11時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

日本製品が中国製品に追いつかれる日

 そんな中国で生産された最近の金型の品質を並木氏はどう見ているのか?

「ネジ穴が同じ位置でだいたい設計図どおりだから、この金型でできた部品を使えば正しく組み立てられる、と中国の金型屋は思っています。ところが“きっちり”はまる形状になってないから、ちょっとのことで壊れる」(並木氏)

「最近の製品が以前より壊れやすくなったというのも、中国への金型生産移管が原因しているでしょう。壊れやすいと噂が流れる製品とかメーカーってありますね。そういったものは日本で設計するので図面では優れている。ところが金型を中国で作らせるので、最終的に壊れやすい製品ができてしまうのです」(並木氏)

 このような状況を防ぐため、日本メーカーが中国の金型企業に発注するときは、金型の品質を判断できる金型産業経験者を必ず中国に向かわせている。それでも日本品質を保つことは大変だ。金型がおかしいまま生産ラインに流すと、金型が原因で部品の形状に異常が発生して、生産スケジュールに多大な影響を与えることになる。生産段階で気づかなかった場合は出荷後に回収騒ぎとなる。

 中国の金型企業自身がデザインから製作まで携わる金型の品質はどうなのか?

「中国はまだ技術が未熟なので、例えば日本のような薄い、小さいものは作れません。薄い部品を作るにしても、プラスチックを流し込み、圧力をかけるので熱が発生します。この熱対策を計算してどういった金型のデザインにすべきか、金型にはどういった材料を使うか、そういったノウハウがないのです。だから日本メーカーの製品は薄く小さいのに頑丈な製品が作れるのです」(並木氏)

 驚愕の薄さや小ささをウリにする製品の多くが日本のメーカーから登場するのはこういった理由があるのだ。さらに並木氏は、

「中国の金型屋は“全く同じもの”は作れませんが、似たようなものは作れます。品質を日本ほど重視しない金型を作るのであれば中国のほうが安いですが、いいものは日本の金型工場にお願いするのが最もスピーディで安価なのです」と「中国=安くできる」という図式にも疑問を投げる。

「日本の金型工場にお願いすると、試作品でも製品にできるほど品質なので、だいたいメーカーから依頼されてから1カ月で量産品ができます。一方で中国の金型工場で、日本の金型工場にお願いするような品質でお願いすると、24時間フル稼働で3カ月かかります。いくら人件費が日本の10分の1だって、24時間稼動は1日8時間の3倍であるし、3カ月とは1カ月の3倍。結局、時間がかかる上に、コストはそう変わりません」

「日本とまったく同じ材質でお願いして、日本とまったく同じ品質を求めると、日本よりも高くつく場合だってあります。“安価で作れるよ”と中国の金型企業は日本のメーカーにアプローチしますが、私たちからみれば、彼らは手を抜いたような、試作品と見間違えるような金型しか作れないのです」(並木氏)

デザインされたデータをNCフライスと呼ばれるCAMに入力すると自動的に金型を削り出される

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