美しさの極みへ――デュアルレンズシステム搭載の先進スキャナ「GT-X900」を試す(1/2 ページ)

» 2006年03月24日 10時43分 公開
[榊信康,ITmedia]

 GT-X800の発売から1年数カ月を経て、ついにGTスキャナシリーズのフラッグシップモデルが変更されることとなった。新鋭機の名称はGT-X900。その名が示すとおり、わずかな変更を加えただけのリプレイスモデルではない。GT-X800の上位機種という位置付けがなされた堂々たる登場である。GT-X800をフラッグシップから引き摺り下ろしたGT-X900の実力をさっそく見ていこう。

新たなフラッグシップモデル「GT-X900」。実売価格は5万円前後

 本体のデザインは、無骨というかスパルタンというか、GT-X800までの丸みを否定するかのように直線と直角で構成されている。ボディカラーは、ブラックとシルバーを採用。ボクシーデザインにこのカラーリングだと、“SUPER SCAN BOX”などという悪い洒落が思い浮かぶ。FAU(透過原稿ユニット)は移動式の光源を採用しているためか、ADF(自動給紙装置)と見紛うばかりに分厚い。ただし重量は軽く、ヒンジにも工夫を凝らしているため、突然倒れて自損するようなことはないだろう。

本体サイズは308(幅)×503(奥行き)×152.5(高さ)ミリ。重さは約6.6キロ。背面にUSB 2.0とIEEE1394端子を搭載する

透過原稿用にレンズをもう1つ――フィルムスキャン時6400dpiを実現

 まずスキャナの要である光学系だが、搭載するα-Hyper CCD IIは、主走査方向の有効画素数が4万800ピクセルで最大有効領域が216ミリ(約8.5インチ)。つまり、解像度は4800dpiとなる。この読み取り性能は従来のGT-X800と同等だ。それではスペック表に記載してある6400dpiとは何か? これはフィルム読み取り時における最大解像度だ。そう、GT-X900の光学系は透過原稿用にもう1つレンズを搭載しているのだ。

 フィルムの場合は、原稿台の全面を走査する必要はなく、より狭いエリアだけで事足りる。だが、同一の光学系を用いている限りは、走査の範囲が広くとも狭くとも得られる光学解像度に変わりはない。それならばいっそ「もう1つフィルムスキャンに特化したレンズを追加してしまえ!」ということで誕生したのがGT-X900の光学系である。エプソンはこれを“デュアルレンズシステム”と呼んでいる。

 デュアルレンズシステムでは、フィルムスキャン(フィルムホルダー使用時)の有効領域を5.9インチに定めている。前記の通りセンサーの有効画素は4万800ピクセルなので、単純計算でも6400dpi以上の解像度が得られるというわけだ。このように、1つのセンサーを効率良く運用できることがデュアルレンズシステムのメリットである。2種のレンズはスキャンユーティリティ「EPSON Scan」で指定した原稿に応じて、自動的に切り替わるように設計されているので、ユーザーがいちいち気にする必要はない。

2種類のレンズ(EX Resolution Lens 6400とSTANDARD Resolution Lens 4800)を搭載することにより、フィルムスキャン時6400dpiの性能を実現している

フォーカス精度の向上にも貢献

 このデュアルレンズシステムは、解像度の向上にのみ注力したわけではない。先に記した通り「フィルムスキャンに特化」するのだから、かねてからの懸念であったフォーカス位置もフィルムスキャン用に合わせて調整できる。

 通常、フラットベッドスキャナのフォーカスは原稿台に合わせて調整してある。実に当たり前の話だが、フィルムスキャンではフィルムをホルダーに装填するため、ホルダーの厚さの分だけ原稿が原稿台から浮いてしまう。この結果、フォーカスの精度が低下すると言われてきた。それならば、原稿台へ直にフィルムを置けばよいと思うかもしれないが、フィルムのように平滑性が高いと、ニュートンリングと呼ばれる同心円状の干渉縞が発生してしまうのだ。このため、より高品位のフィルムスキャンを望む人は、フィルムスキャナやマイクロテックのデュアルプレートのような特殊な機構を持つフラットベッドスキャナを選択していた。

 しかし、2つのレンズを備えたGT-X900ならば話は別だ。もとよりフィルム用に用意したレンズなのだから、あらかじめフォーカス位置をホルダーの分だけずらして調整すれば高精度のフォーカスが得られる。それでも個体差は吸収しきれないだろう、という突っ込みもあろうが、製品の組み立て時に1台ずつ微調整を行うことで、個体差さえも極力解消していくという。

 さらにはユーザー側でも調整が行えるようにと、フィルムホルダーに高さ調節用のスペーサーも装備されている。スペーサーに彫られた矢印を、ホルダー底面の○(標準)または+のマークに向けて差し込むことにより高さを微調整するというものだ。無論、スペーサーを外せば低めの調整となる(この場合も上面に差しておけば紛失せずにすむ)。フィルムマウントなどは、ペーパーマウントかプラマウントかで位置が微妙にずれてくるのでこうした配慮はうれしい。

 もう1つホルダーで注目すべきなのは、上面に装備したスポンジパッドの存在だ。これはホルダーが浮き上がってフォーカスがずれたり、ムラが生じないようにするための工夫だろう。圧板を閉じるとホルダーが抑えられ、常に定位置をキープするというわけである。

フィルムスキャン用のレンズはホルダーの厚さ分を折り込んでフォーカス位置が決定されている(写真左)。フィルムホルダーは35ミリがスリーブ(6コマ×4列)とマウント(12コマ)、ブローニー(60×200ミリ×2列)、4×5(2コマ)という構成だ。8×10もサポートしているがさすがにホルダーはなく、フィルムエリアガイドによる原稿台への直置きとなる。また、フィルムスキャン用レンズの最大読み取り範囲からも外れるので、最大光学解像度は4800dpiになる(写真右)
ユーザーがホルダーの高さを微調整できるよう裏面にスペーサーを備える(写真左)。また、本体の圧板を閉じたときにホルダーを抑えるスポンジパッドがある(写真右)

 このようにGT-X900は、ハードウェアの機構を提案するだけに止まらず、実使用での変動要素にまで手を入れている。フラットベッドタイプでありながら、フィルムスキャンの性能をとことんまで追求した設計といえるだろう。聞けばGT-X900のEPSON Scanは、アンシャープマスクのパラメータを各レンズの特性に合わせているという。フィルムスキャン用では、そのフォーカス性能を考慮して抑えめに調整しているようだ。個人的にはアンシャープマスクをオフにしたくらいが好みなのだが、これは嗜好や撮影内容にもよるだろう。オフのサンプルも用意しているので、ぜひ参照していただきたい。

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