VAIO開発スタッフが考えるノートPCの着地点山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」

» 2006年07月03日 10時33分 公開
[山田祥平,ITmedia]

 来年発売される新機種のことについては極秘中の極秘かもしれないが、2〜3年先のことなら多少は口を濁しながらも、そのビジョンを教えてもらえるかもしれない。そう思ってこの連載では各メーカーの開発スタッフに「これからノートPCはどこに向かっていくのか」と聞いていくことになる。

 まずは、ソニーを訪ね、VAIO事業部門企画部4課統括係長近藤豊氏、同企画部4課堀太樹氏、楡井謙一氏に話を聞いてみた。近藤氏は、VAIOノートパソコンの商品企画リーダーとして、これからのVAIOを考える立場にあり、堀氏はVAIO type Sの、楡井氏はVAIO type Uの製品企画を担当している。

──これからノートPCはどうなっていくのでしょうか。

近藤豊氏。VAIO事業部門企画部に在籍し、VAIOのノートPCに関する企画の責任者である

近藤氏 今よりも、ずっとパーソナルなものになっていくと考えています。ですからそのニーズに応えることが重要です。ここ数年でいえば、デスクトップPCからノートPCへの移行の流れは顕著ですよね。さらに、携帯電話を含めたネットワークがすっかり浸透し、女性を含む個人がブログやバンキングなどに取り組み、このようなPCの使い方が、より身近なものになりつつあります。もう、PCが男性向けとは限らないんですよ。技術に遠かった人がPCをさわるようになっていますから。そういう人に対してノートPCはどうあるべきかを考える必要があります。

──モバイルに関してはどうでしょう。

近藤氏 モバイルノートに関しても、PCを所有し、それを身につけて持ち歩きたいユーザーがいるのは分かっています。でも、PCの使い方の常識的な範囲でサイズが小さくなっただけでは需要を喚起できません。それだけでは、持ち歩いて楽しいという風にもならないですからね。持ち歩かれるPCは薄く軽くを基本にし、“Fun”、すなわち、楽しめる要素を入れていきたいと思っています。

 例として、今回の新製品であるVAIO type Uなどは、我々の姿勢を感じてもらえる商品ではないでしょうか。単にサイズが小さく、より小型化したものというだけでは、使ってもらうときの魅力としては欠けるんです。だから、付属するアクセサリもユニークなものを備えました。スペックとしてもデジタルカメラ機能を備えたりしつつ、各種のワイヤレス通信で外出先でもウェブやブログにアクセスしてコンテンツを更新するような使い方を提案できたはずです。

 PCを軸にした楽しみを広げる本体仕様を持ち、周辺がそれを支えることでパーソナライズしていただける。そこで新しい需要が喚起でき、と、同時に、今までの常識的なPCの使い方をしてきたユーザーにも、PCを使えばこんなに楽しいんだということに、もう一度気がついてもらえるはずなんです。薄い、軽いは当たり前で、そこに加わるプラスアルファはなんなのかを考えた結果です。

──ノートPCのバリエーションは、これからも増え続けるのでしょうか。

堀太樹氏。VAIO type S(SZシリーズ)の企画開発を担当した

堀氏 私がVAIO type Sのプレミアムバージョンを担当したとき、高級ボールペンに価値を見いだすような人たちをターゲットにしています。そういうPCがあるかと思えば、VAIO type F lightはシンプルに作ってコンパクトで、好みの色などに価値を感じてくださる人たちに、まさにパーソナライズしてもらうためのPCです。人それぞれ好みがいろいろですから、色で選ばせてあげるというアプローチは重要です。そういうニーズはしっかりとありますね。

 いずれにしてもPCは汎用機です。いろんなことができるはずで、そこにはユーザーが自分では気がつかないままに、必要としているものはまだまだあるはずなんです。だからこそ、パーソナライズが重要なのではないでしょうか。

──使われ方にも変化が現れてきていますか。

近藤氏 求めるものが二極化する傾向にありますね。過去においてビジネスマンが仕事に使ってきたPCは男性が主たるユーザーで、比較的年齢層が高い方たちのツールとして浸透してきました。でも、家庭の主婦や学生などがPCに慣れ親しむにしたがって、一家に一台から一人一台に加速する状況が進んでいます。そのことで、ITに関する習熟度が高くなかったかたにも所有してもらえるようになりつつあるんです。

 今までのユーザー、それはまさに、セミプロなんですが、その人たちのニーズはスピード、操作感、性能、薄く、軽くというものでしたから、それを基準として、プロ的な使われ方に求められるニーズに応えていくという姿勢を忘れるわけにはいきません。

 我々は、その姿勢をちゃんとした上で、もうひとつの軸を持とうとしています。直感的でフレンドリであること、インテリアとしてもきちんとしたものであり、キッチンやダイニングテーブルを含めた生活のいろんな場所、いろんな時間帯に使われることを考慮し、かさばらず異物感がないような「スタイル」です。そのための性能、デザイン、機能、キーの形状などを含めて考えていきたいですね。

 基本スペックを決めている要素はそんなに多くないんです。どのブランドでも似たり寄ったりじゃないでしょうか。だから、そこでの差別化は難しいです。でも、デザイン的なバリュー、使ってみて心地よい、所有してうれしい、手に持って気持ちがいいという部分に関しては、われわれの腕の見せ所です。そこに訴えることが肝ですよ。

 ユーザーは、店頭でかなり時間をかけてPCを選びます。だから、そこでの決め手が必要です。それが具体的にどういったものかをいうのは難しいんですが、いろんな場所で使ってうれしいというような、それぞれの用途のポジションを考えます。従来のユーザー層にしても、2台めのPCを所有して使い分けるニーズがすでに出てきています。VAIO type Uなどは、まさに、そこに答えるものだといえるでしょう。

楡井氏 本当は一人で3台使ってほしいです。家でVAIO type L、会社でVAIO type T、持ち歩きにVAIO type Uという感じでしょうか。最初はとがった人たちが使い、使い方のトレンドを作り、それが、こなれていくことで、一般的な人たちに浸透していくというシナリオですね。

堀氏 一人3台というユーザーもいれば、2台で十分とか、いや、1台だけでほかのPCはいらないというユーザーもいるはずです。そういう意味では、特化と汎用が1つのPCになるというアプローチもあるんじゃないでしょうか。VAIO type Sは、海外で完全にモバイルPCとして考えられています。だからポートリプリケータなどの充実も深追いしていく必要があります。持ち運びをしつつ、仕事場や家庭ではデスクトップPC並みの拡張性を持つようなイメージですね。VAIO type Uだって、そんな使い方ができるかもしれません。

──ユーザーそのものは成長していますか

堀氏 昔と違って自分で勉強して知っていくことをユーザーに求めるのは難しい時代になってきています。だから、これとこれを組み合わせれば何ができるのかということ、本体からこれを外して使えばこうなるといった、使い方のバリエーションをパッケージのソリューションとして提案することが必要になってきます。

 タイプの異なる複数の製品を買わなくても、自分の考えている複数の用途に答えられるんなら1台だけでよいというのもありかもしれない。ハードの企画ができるのといっしょに、その使い方が高められるような関連製品企画が別にできるというのが理想ですね。

楡井氏 今後の方向性としてはVAIO type Uのオプションとして出したGPSのインテリジェント化といった周辺企画も必要でしょうね。当然考えています。

──デザインのトレンドはあるんでしょうか

楡井謙一氏。VAIO type Uの企画開発を担当した

楡井氏 ノートとデスクトップの棲み分けというような流れはまだ続きそうですね。こればかりは好みが分かれるようです。おいたままの一体型と、使うときだけ開くクラムシェルの棲み分けです。

堀氏 クラムシェルの閉じたときのたたずまいに対して安心感を持つ人は少なくありません。やりたいことに対して合うカタチというのがあるはずです。でも、それを全部やったらたいへんなのですけどね。

──光ディスクドライブは今後も必須なのでしょうか

楡井氏 VAIO type Tの2スピンドルは爆発的にヒットしました。でも、今後はワンスピンドルの可能性も検討していきたいですね。とくに、企業ニーズはワンスピンドルという方向性もあるんです。情報保護という点が重要視されるようになってきています。

堀氏 でも、光ドライブはほとんどいらないけど、ほしいときにないと困るんですよね。

楡井氏 いずれにしても、20万円くらいのものを買っていただくわけですからね。メーカー側としても、購入後、その製品とどうつきあっていけるのかを明示的に提案できなくてはならないはずですよ。その先の先まで自分で考えることを買う側に強いるのは問題です。数年間使い続けられるとして、その長いつきあいのなかで、この製品を選んでおいてよかったと思ってもらえることが一度あるだけでもいい。

堀氏 ここまでこだわってくれているのかということに気がついてもらえれば嬉しいですね。普段の生活ではまったく気がつかなくても、ちょっとしたときに、ああ、そうだったんだと気がついてもらえるような。それが重要なんですよ。マジョリティは使わない要素かもしれないけれど、これがなくてはVAIOじゃないというような、とがった部分を指向するのもひとつの方法じゃないかと思います。

──オーナーメイドのようなパーソナライズは今後さらに一般的なものになるんでしょうか。

近藤氏 オーナーメイドで考えに考えてコンフィギュレーションして購入した製品が手元に届けば、やはり愛着はわきます。それが所有感を感じてもらえるようなレベルにつながっていきます。そうして手に入れた製品に、今、とても満足していたとしても、次に出てくるモデルを見たら、リプレースして買い換えたいと思うような気持ちに発展します。

 オーナーメイド限定色などもキーになりますね。大多数の人にはとんでもない色でも、その人にとっては希少な満足感を得られる色で、自分の選んだその色を喜ぶこともあるはずです。技術的には難易度は高いのですが、素材であるとか、手をおいたときの質感なども含め、いかに多くのオプションを用意できるかがキーになっていくでしょう。

楡井氏 機能、性能もオプションを選べるようにしたいですね。フルシリコンのVAIO type Uなどがそうですね。そこでもある種の所有感を持たせることができるはずです。

──外観に愛着を感じてもらえても、PCはすぐに陳腐化してしまいます。

近藤氏 本体のスペックや形状は進化がとめられないですからね。ほかの要素として、OSやワイヤレス技術なども同様です。その進化のスピードはあまりにも速すぎて、それに対応していくのがせいいっぱいです。外側をそのままで中身だけを交換して最新スペックにという要望に応えるというのは難しいです。それはジレンマでもあるのですけど。

堀氏 だから、今使っているPCが相当気に入っていても、とにかく買い換えたいと思うような魅力的な製品を作らなければ意味がないんです。


 かつて、ソニーがVAIO Mediaを発表したのが2002年。VAIO MediaはほかのPCからコンテンツを見れる、聞けるという画期的なスタイルを提案した。ところが、発表会に居合わせた記者からは、ユーザーが複数台のPCを用意しなければならないのは非現実的でおかしいんじゃないかと言われたそうだ。でも、今はそれが当たり前になった。誰もおかしいとは思わない。

 彼らはこんな話もしてくれた。Windows XPがでたときに、ユーザーの簡易切り替え機能がついた。マイクロソフトは、これで1台のPCを家族で共有できるといった。でも、ふたをあけてみたら誰もそんな使い方はしなかった。当たり前じゃないかと。

 VAIOはあくまでもパーソナルを指向する。誰にもさわらせない自分だけのPC。そう思ってもらえるようなソリューションとともにハードウェアを作る。それが彼らのめざすVAIOである。

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