第5回「欲しいときが買いどき」は本当か(前編)PC周辺機器売場の歩き方

» 2006年11月10日 08時29分 公開
[後藤重治,ITmedia]

「欲しいときが買いどき」は必ずしも真実ではない

 PCや周辺機器を買うとき、よくこの言葉を耳にする。しかしメーカー勤務が長い関係者に言わせると、これは販売店側の論理であり、いかなる場合でもそうであるとは到底いい難い。むしろ、はっきりとした「買いどき」のある製品が多いくらいだ。今回はメーカー側の視点から、買いどきがいつなのかを見ていこう。

 本題に入る前に、「セルイン」「セルアウト」という概念について触れておきたい。「セルイン」というのは、メーカーから販売店もしくは卸業者に納入されることを指す。委託販売でない限り、メーカー側はこの時点で売上が発生する。販売店および卸業者は、この時点で仕入れが発生するわけである。一方の「セルアウト」は、販売店からエンドユーザーに商品が渡った状態を指す。販売店は売上が立ち、エンドユーザーは代金の支払が発生するプロセスである。

 「セルイン」「セルアウト」はいずれもメーカー側が用いる用語だ。注目すべきなのは、セルインの時点でメーカーは売上が立っているという事実である。メーカーの営業マンは、とにかくセルインさえすれば自分の成績につながるわけであり、メーカー本体の売上高というのも、実際にはセルインした売上合計ということになる。製品が販売店の店頭に山積みになっているか、それとも客の手に渡っているかは、委託販売でない限りメーカーの売上とは無関係なのだ。

3つのタイプに分類されるPCと周辺機器のメーカー

「メーカーはセルインした時点で売上が立つ」という事実を理解していただいたところで、話はいきなり別の方向に向かう。

「夏モデル」「冬モデル」といった用語がすっかり一般化していることからも分かるように、PC本体やプリンタといった製品は、シーズンごとにモデルチェンジを繰り返す。周辺機器においても、シーズンごとのモデルチェンジはないにせよ、ある程度のサイクルで新製品が投入され、入れ替わりに古い製品は姿を消していく。製品の販売価格が最も変動するのがこの「入れ替わり」のタイミングである。製品の「買いどき」というものを考えた場合、ここが最大のポイントであることは言うまでもない。

 ここで「ズバリ、製品が入れ替わるタイミングが買いどきです」と断言できれば話は非常にシンプルなのだが、実はそうではない。筆者の分類では、PC本体のメーカーや周辺機器メーカーには3つのタイプが存在しており、製品の入れ替わるどきが即買いどきかどうかは、そのタイプによって異なるのである。便宜上それらをタイプ「A」「B」「C」と呼ぶことにし、それぞれがどういったタイプなのかを以下に述べる。

 「タイプA」は、自社の在庫のみならず販売店にある在庫、つまりセルインした数量までをしっかり把握していて、在庫コントロールを行う能力を持ったメーカーである。こうしたメーカーは新製品の投入前に旧製品の処分に入り、新製品が入荷するときには旧製品がきれいさっぱり販売店を姿を消しているといった具合に、在庫のコントロールを綿密に行う。社内のマーケティングセクションと営業部の連携が非常に密で、販売店との関係も密接であることが必須条件となる。大手のメーカーはこうした在庫コントロールを見事なまでにやってのける。

 これとはまったく逆に、とにかく思いついたように新製品を出し、市場の様子を見てから旧製品を生産終了にするかどうか決める、非常にアバウトなメーカーが存在する。当然ながら社内では製品のマトリクスも存在しないので、自社製品同士が売場で競合していたり、ひどい場合は、あとから発売された製品が早期に生産終了になったりする。こうしたメーカーの多くはセルイン・アウトの概念がまったくなく、セルインした段階でメーカーの役割は終わりだと考えている場合が多い。これを「タイプC」のメーカーとする。

 両者の中間に当たるのが「タイプB」である。セルイン・アウトの概念は一応持っており、社内で製品のマトリクスも用意されているが、残念ながら製品の入れ替えをきちんとコントロールするだけの体制が社内にないパターンである。このパターンでは、例えばマーケティングセクションが社内になかったり、マーケティグセクションが存在しても営業部との連携がうまく取れていなかったりと、ピースがどこか外れている場合が多い。

 タイプCのメーカーが一念発起してマーケティングセクションを作ればタイプBになるし、タイプAの社内連携がガタガタになればタイプBになる。A、B、Cというのはそのまま成績のようなものだと考えればよい。

「買いどき」はメーカーの在庫コントロール能力に依存する

 在庫数をコントロールする能力は、上のタイプごとにまったく異なる。従って、いわゆる在庫処分の旧製品が店頭に並ぶタイミングも、上のタイプごとに異なっている。タイプAのメーカーは、新製品の投入前に最初の値下げが行われる。すでにこの時点で生産ラインは縮小されており、この値下げは主にセルインしている店頭在庫に対して行われる。新製品が発表されるころには店頭在庫がかなり薄くなっており、新製品が店頭に並ぶ時点では旧製品はゼロになっていることがほとんどだ。

 こうした場合、買い時は「新製品の発表直後」ということになる。このタイミングであれば、旧製品を何が何でもセルアウトさせるために割安感のある価格付けがなされている場合が多いので、リーズナブルに購入するには絶好のタイミングである。店頭に在庫があることが前提だが、待てば待つほど価格は下がる可能性がある。

 もし新製品が店頭に並んだ時点でまだ旧製品が残っていれば、さらに割安で購入できる可能性もある。ただ、販売店の在庫までしっかり把握して数量コントロールを行うほどのメーカーなので、処分をあきらめて在庫を引き上げてしまっていることも考えられる。どうしても買いたい製品ならこのタイミングまで粘らないほうがいい。余談ながら、ここで引き上げられた在庫は、メーカー直販のアウトレット、もしくはいわゆる「バッタ屋」に回る場合が多かったりする。

 次にタイプBのメーカーの場合だが、そもそも在庫コントロールの能力が低いので、販売店から「在庫が多すぎるよ」と言われて初めてアクションを起こすといった具合で、ある製品では新製品と併売しつつ大幅値引き、別の製品では新製品の投入前に旧製品が品切れしてしまったりと、まるで一貫性がない。従って、こうしたメーカーの場合は、新製品と旧製品の入れ替え時にはいわゆる「買いどき」が存在しないことになる。あってもそのお買い得度は製品によって千差万別だ。

 最後に、救いようのないのがタイプCのメーカーである。そもそもセルイン・アウトの概念がないから、旧製品がどれだけ販売店に並んでいようが平気で新製品の受注を取ろうとする。この場合も販売店から文句を言われて初めて旧製品の値引きに応じたり、返品を行ったりするわけだが、こうした対応も現場任せである場合が多く、例えば量販店のAとBで値引き販売の率がまるで違ったり、量販店Cでは値引きせずに全数返品で対応していたりと、まったく傾向が読めない。

 従ってタイプCのメーカーの場合も、新製品投入前後に買いどきというのはなく、運任せということになる。もっとも、このレベルのメーカーで、指名買いしてまで買いたい製品があるかはやや疑問ではあるが。

 まとめると、買いたい製品のメーカーが上記のA〜Cのどれに属するかを調べた上で、タイプAであれば新製品発表の直後狙い、タイプBやCの場合は製品ごとに自分の目で値引きの有無を確かめるしかないことになる。実はタイプBやCについては、まったく違った切り口で「買いどき」があるのだが、それについて詳しくは次回「後編」で述べることにしたい。

新製品の発売スケジュールは毎年ほぼ同じ

 最後に、おそらくここまで読まれた方の誰もが思うであろう「メーカーのタイプはどうやって見分けるのか」および「新製品発売のタイミングはどうやって掴むのか」といった疑問に回答しておこう。

 メーカーのタイプについてだが、PC本体やプリンタなどのメーカーはほぼ間違いなく「タイプA」である。というのも、一部の新興メーカーや海外資本のメーカーを除き、こうした在庫コントロール能力を持っていないメーカーが、PC本体やプリンタといった値崩れの激しい製品を扱うこと自体にムリがあるからである。逆に言うと、こうした能力を持っているからこそ、厳しい現況でもPCやプリンタを売り続けられているのだと言えるし、過去に撤退したメーカーの多くは、この資格を満たしていなかったからだと言える。

 周辺機器のメーカーは、主にタイプBを中心に分布していると考えて間違いない。というのも、PC本体ほどではないにせよ、それなりに高単価製品であるPC周辺機器では、ある程度の在庫をコントロールする能力がなければ、過剰在庫をさばききれずに大火傷をしかねないからである。とはいえ、HDDなど一部部材の供給状況によって気まぐれに従来製品の供給が止まったり、新製品の投入が行われたりするので、タイプAのようなしっかりした動きはかなり困難だ。

 サプライメーカーは、大手がタイプB、中堅以下はタイプCに分布している。そもそもサプライは単価が安いうえ、ほとんどの製品は古くなっても価値が目減りしないため、セルインした旧製品が販売店から大量に返品されようが、経営的にはあまり影響がないからである。

 次に新製品発売のタイミングを見分ける方法だが、タイプAのメーカーに限ると「商戦機」「前年同月」といった2つのキーワードで簡単に予測できる。会社の体を成している以上、売上は前年同月比で比較するのが当たり前であるため、昨年の12月に新製品が投入されているのであれば、今年も同じ12月に投入されるのが自然である。そうしなければ「前年同月比で売上50%減」といった悲惨な事態になりかねず、万が一にもこれが期をまたげば決算にも影響してくるからだ。

 第1四半期、第2四半期といったスパンで売上を見ている場合は多少前後するケースもあるが、新製品の発売スケジュールは基本的には前年同月とみてよい。これにボーナス商戦である夏と冬を加えておけば、新製品の発売スケジュールは容易に判断がつくというわけである。

 従って、タイプAのメーカーについては、昨年のいつごろに新製品が投入されているかを調べ、そこまでじっと粘るというのが、型落ち品を買う場合の正しい戦略ということになる。型落ち品を買うのはイヤ、どうせ買うならバリバリの現行品がいいという場合も、上の方法で新製品の発売スケジュールを掴んでおけば、買った直後に新製品が発売されたという悲劇を防げる。

 以上、PC関連製品の「買いどき」について、新製品発売のタイミングを中心に考察した。次回は、新製品発売とは無関係なタイミングでの「買いどき」を、タイプBとタイプCのメーカーを中心に見ていくことにしたい。

後藤重治氏のプロフィール

かつて大手PC周辺機器メーカーでマーケティングや販促・広報を担当。会社を離れた現在でも製品の「買い時」を絶えずチェックするのが日課である。買い控えをさせたくないあまり「欲しいときが買いどき」と謳う販売店の論理は分からないではないが、むしろ自分達の首を絞める結果になっているのではないかと思うきょうこのごろ。


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