Let's noteはLet's noteでありつづける山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」

» 2006年11月21日 08時00分 公開
[山田祥平,ITmedia]

 モバイル市場に特化したモデルに集中することで、他社と大きく差別化を図ってきた松下電器産業(以下、松下)のLet's note。「軽い」「長い」「強い」という3つのキーワードをコンセプトに、ほかのPCメーカーがどちらかといえば、多少及び腰だったマーケットを拓くことができた。今回は、その製品作りに技術面から関わるパナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部テクノロジーセンターハード設計第一チーム主任技師の谷口尚史氏と、企画面から関わる同事業部規格グループ商品企画チームビジネスモバイルユニット主事の井上剛志氏に話を聞いてきた。

─―まだ、多少時間はありますが、Let's noteのWindows Vista対応はいかがですか。

谷口氏 Windows Vista搭載モデルに関して発売時期は未定ですが、着実に準備を進めています。現行モデルは、すべてVista対応にしていくつもりです。ただ、(取材した時点で)Windows Vistaがまだ最終の段階になっていないので先が見えてきていません。いずれにしても、Windows Vistaの最終版が出てきてから本格的な評価作業に入る予定です。先日も、RC1を用いた評価作業を行い、暫定版ですが、そのときの情報を公開しました。基本的には、現行の“5”シリーズはもちろん、従来の“4”のシリーズまでは、Webページでサポート情報と対応ドライバーを提供する予定です。

─―他社もモバイルに特化したノートPCのラインアップを続々と投入してきています。

パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部規格グループ商品企画チームビジネスモバイルユニット主事の井上剛志氏

井上氏 基本的に、まだ現状でモバイルは特殊な市場だといえます。でも、ほかのメーカーが製品を投入してくることをみれば、われわれが、成功しているように見えているのかもしれません。だとすれば、モバイルPCの市場が認知されたということでしょうね。ただ、松下だけが「モバイル!」と叫んでもダメだったんです。他社の参入によって「こんな市場もある」と世間一般にも認知されたんだと、われわれは認識しています。他社製品を検討中のユーザーが、製品を探している過程でLet's noteの存在に気が付いて購入されるというケースもあります。Let's noteは技術指向の強い商品ですから、他社に負けないよう開発陣にがんばってもらわないといけないですね。

谷口氏 Let's noteは「軽量」「長時間」「タフ」をがんばってきました。その一部分では、他社に追いつかれているところもあります。でも、技術部門にとってはうれしい話なんです。だって、(ほかのメーカーがそのスペックを追いかけてきたということは)われわれが目指していたものが、間違っていなかったということなんですから。

 とはいえ、同じ市場に他社が入ってくるということで、パイの奪い合いになるわけですから、今までと同じやり方では通用しなくなっていくかもしれません。今までと同じコンセプト、売り方、アピールの仕方では他社との競合の波にのまれてしまい、独自の突出したところがスポイルされていきます。そうなると、事業として成り立たなくなります。だから、もっと「トンガッて」いかなければならないでしょうね。つまり、何かに突出した形で、Let's noteの形をユーザーに見せなければなりません。

パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部テクノロジーセンターハード設計第一チーム主任技師の谷口尚史氏

井上氏 HPやデルなどの海外メーカーも同じです。それぞれの得意なところから市場に近づいてこられていますね。それでもわれわれは、ノートPCをパッケージとして見たときのトータルバランスが取れているところでリードできています。でも、谷口がいうように、断片的なスペックでは抜かれているかもしれません。ただ、例えば、堅牢さをアピールするために、落としたり水をかけたりしていますが、その素地として、技術者が実際に電車に乗ってテストしたり水をこぼしたりと、本当にユーザーが困っていることを理解し、それを身をもって体験しながら、トラブルを回避するための方法を考えている点がわれわれの強みです。決して、評価用の環境を作って数値的なテストをクリアしたというだけではないのです。

谷口氏 昔から、ユーザーの要望を聞く気質が、われわれに根付いていますね。その点では、技術者、企画、マーケティングといったセクショナリズムもありません。いろいろな形でユーザーと対話しています。そして、ユーザーが困っている要望に対して、すぐにフィードバックしていくルーチンがあります。以前、ニフティサーブのフォーラムに「fpanapc」というのがあって、ユーザー間のコミュニケーションが盛んに行われていた時代があったのですが、そこには松下の社員も積極的に参加して議論していました。あの当時のルーチンがまだ根付いているということです。

─―いまのユーザーからはどのような要望が多いのでしょうか。

谷口氏 かつてに比べて、Let's noteのユーザーは飛躍的に増えてきています。ですから、要望のバリエーションも実に多様なものになってきています。ただ、ユーザーに何を求めているのか実際に尋ねてみると、こんな新機能がほしいというよりも、今までわれわれが守り続けてきた、「長い」「軽い」「強い」の3点をさらに突き詰めてほしいという意見が圧倒的に多いです。

──Let's noteのスペックの変遷は、インテルのCPUやチップセット、プラットフォームのロードマップに、ぴったり寄り添っているように見えますが。

井上氏 Let's noteはLet's noteでそれ以外の何者でもありません。そういう意味ではインテルのプラットフォームはあまり関係ないかもしれませんね。ただ、Ultra Low VoltageのCPUを使ったモバイル指向の製品として、Let's noteがインテルにとってのベンチマークテスト的な存在であるためか、非常に気にしてもらっています。だから結果的に、Let's noteの仕様が大きく変わるのは、インテルのプラットフォームやチップセット、CPUが変わったときになっています。でも、基本的なコンセプトは何も変わりません。マーケティング的な見方をすれば、インテルの新プラットフォームの登場や「Windows Vistaのリリース」などのような製品が代替わりする節目は、Let's noteというブランドを新たに社会へ浸透させるチャンスでもあると思っているのですが。

1キロちょっとの筐体に光学ドライブを組み込んだ「W」シリーズは2スピンドルノートの軽量化を一気に進めた画期的な製品。W5ではCore Duo搭載をファンレスで実現した

谷口氏 例えば、Let's note誕生10周年を記念して発売したマイレッツ倶楽部限定のスペシャルモデルはW5の筐体にデュアルコアCPUのCore Duoを搭載しながらも、ファンレスを実現できています。実は、これはインテルとの協業によって可能になったのです。インテルの技術協力のもとに、各部分で発生する熱を監視し、新しいドライバ、BIOS、CPUを組み合わせて対応しています。なにしろ、TDP5.5ワットを想定した筐体にTDP9ワットのCPUを載せるのですから、われわれだけの力では無理です。

井上氏 ひと昔前のSpeedStepのことを考えれば分かりますが、CPU関連のクリティカルな制御は、その設計の奥深い部分に関わることなので、インテルでないとできないのです。今でこそ、こうした制御はWindows XPなどのOSが対応しましたから、どこのメーカーでも細かい電力制御ができてしまいますが、最初はそうじゃなかったわけです。

谷口氏 CPUは、動的に制御すると挙動が不安定になったりするのですが、そのあたりがきちんと解決されています。

井上氏 ちなみに、今回インテルと行った成果については、われわれとの独占協業になります。そのため、とりあえず他社は同様のことはできないことになっています。

──次はいよいよCore2 Duoとなりますが、対応製品が本当に出るのかどうか懸念する声もあるようです。

谷口氏 Core2 Duoはまだ評価中です。ULV版が出たとしても、消費電力はきっと上がるだろうと予想していますが、そのなかで、携帯重視のノートPCとして、いかにパフォーマンスを落とさないようにするかですね。

 今の課題は絶対的に熱処理です。CPUだけではなく、チップセットやメモリも含めたシステム全体の熱をどう逃がすか。果たしてファンレスで可能なのかといったところを検討しています。いずれにしてもULVのCore2 Duoが出てくるまではガマンですね。期待を裏切らないようにするつもりですから安心してください。インテルとも話はしています。

井上氏 現在、モバイル向けノートPCの大きさは単純に液晶パネルの大きさだけで決まっています。あとは、バランスの問題でしょうか。そんな状況にあって、ファンレスは(ほかの製品との差別化の意味で)魅力ある特徴です。瞬間的に発生する熱の固まりを、どのように処理すればよいのかがまだ見えてこないんです。

14.1インチのディスプレイを搭載しながら1.5キロを切る軽量化を実現したLet's note Y5

谷口氏 Y5ではファンを付けましたが、賛否両論ですね。ファンがあることで、熱くならず快適だという声もあります。このように、ファンを付けたほうがよかったというユーザーもいるわけで、そこは全体を見ながら考えなければならないでしょう。ファンを用意してそれを使う使わないをソフトウェアで制御するようなことも考えられるのですが、「トンガッた」製品にするには、どっちかにふらなければなりません。コンマミリ単位、グラム単位で筐体を作っているわけですから、ファンの有無で設計全体が変わってしまうのは当然です。したがって、同じ筐体でファンありファンなしの両用はありえません。

井上氏 オフィスという場所は意外とノイズが多いのですね。だから多少のファンノイズは気になりません。でも、自宅の居間やホテルの部屋などで使うと気になりだします。図書館などで使うときも同様です。ファンレスを強く望まれるユーザーが多いのはわれわれも理解しているんです。

─―これからLet's noteはどこに向かっていくのでしょうか。UMPCなどの可能性はありますか。

井上氏 Let's noteの立ち位置は、あくまでもビジネスモバイルツールです。ということは、Excel、PowerPoint、Wordが快適に使えなければ意味がありません。その限度が、液晶ディスプレイサイズの10.4インチじゃないかと思っています。それより小さいとキーボードと画面に制約が出てきます。だから、これ以上小さいサイズのノートPCは意味がないと思われます。ただ、世の中がどう思っているかは別問題で、個人的にはWindows VistaのDPI値の自由度によって、このセオリーが変わっていくのでは、と期待しています。

谷口氏 とにかく、Let's noteはビジネスでどこまで使えるかということをとても気にしているんです。そこが最低ラインです。画面の大きさと、キーボード、解像度などのバランスをどこまで維持できるかを大事にしていきたいです

井上氏 Let's noteのコンセプトとしては、4:3の画面横縦比をかたくなに守ります。鞄の中での収まりもいいですし。逆に、ワイドディスプレイってそんなにいいですかとお尋ねしたいところです。優先されるのはコンパクトな筐体ですが、ワイドディスプレイでそれが失われることはないかどうかも懸念されますね。

谷口氏 Let's noteはLet's noteです。何が変わっても、Let's noteは変わりません。ただ、これだけ時代が流れると分からないところや迷いもあるんです。だからこそ、ユーザーと密にコンタクトをとっていきたいと考えています。

──セキュリティ上の理由でモバイルPCが否定される傾向もあるようですが。

井上氏 セキュリティを確保するためにノートPCを持ち出さない風潮はやっかいですね。でも、持ち出せないとやっぱり不自由です。ですから、揺り戻しは必ず起こると予想しています。生産性を落としてまで持ち出しを禁止することはないという意見も聞こえてきています。われわれとしては、企業向けに、パスワード入力を規定回数間違ったらBIOSでHDD消去ルーティンが動くようなソリューションも提供しています。

 指紋認証も企業向けの製品で用意しているのですが、データの実体にアクセスするパスの種類を増やすと、セキュリティのレベルが下がることが統計学的に分かっています。他人を本人と誤認することが「1000回に1回」という意外と高い確率で起こるわけです。統計の世界では、4桁のパスワードで認証をパスしてしまうのと同じです。これではちょっと多すぎます。ただ、セキュリティの機能としては「いまのトレンド」なので準備はしているといったところでしょうか。

谷口氏 Let's noteのユーザーが指紋認証を望んでいるかというとノーですね。あればいいと思うが、ないから買わないとはならないようです。

──Bluetoothを望む声も多いようです。実際、松下の携帯電話は積極的にBluetoothを搭載しています。

井上氏 Let's noteの部隊はシステム事業グループに属しています。ここは、基本的に企業法人向けの製品を扱う組織です。松下は携帯電話などを含めてBluetoothに熱心なように見えますが、基本的にセグメントが違うので、ほかの製品と連動することがなかなかできないのです。

谷口氏 でも、ビジネスの現場からの要望があれば対応します。実際、海外モデルではBluetoothを搭載した製品もありますし3GのHSDPAモデルもできました。認可さえ通せば日本でも使えるようになります。

─―松下が考える近未来のPCはどのような使われ方をするのでしょうか。

井上氏 今も未来も、PCはきっとPCだろうと思います。何が変わるわけじゃない。でも、適用範囲は広がっていくでしょうね。そのためにも、いろんな角度から新しいソリューションを作っていかなければなりません。やっぱり持ち歩くことを前提に、「もっと長く」「もっと軽く」「もっと丈夫に」という路線を突き進まないと。PCは、今のような形態で今のような使い方をされづけるでしょう。昔から「これからのPCは家庭内のハブになる」といわれてきましたが、ちっともそうなってはいません。これからもそのようになることはなさそうです。

 でも、新しい生活シーンはどんどん見つかります。PCじゃなければできないことはたくさんありますよ。ビジネスメールの文化、パワーポイントの文化など、携帯ではできない使い方がたくさんあります。携帯電話と一緒になっては意味がないです。

谷口氏 Tablet PCには興味がありますし、潜在的な需要はあると分析しています。ただ、コンシューマーでは難しいかもしれませんね。


 Let's noteは家庭内のハブにはならない。その言葉が印象的だった。先日テレビを見ていたら、今風の言い方ではハブは省(はぶ)かれるという意味も持つらしい。あいつはハブだからと……。つまり「仲間はずれ」の意味に通じるようだ。

 デジタル家電にアプライアンス。生活の中で使われる数多くのデバイスの中で、PCが仲間はずれの「ハブ」になっては困る。Let's noteが考えるノートPCのユセージモデルは、あくまでもモバイルであり、オフィスやリビングルームで鎮座するものではなさそうだ。特別な存在になるのではなく、種々雑多なデバイスと対等な位置づけで持ち運ばれ、いつでもどこでも使えるパーソナルな存在。Let's noteがそこにこだわり続ける限り、モバイル環境は、これからも、さらに快適なものになっていくに違いない。

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