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“ThinkPadの父”内藤氏が語る「ThinkPad X60 Tablet」誰もがペンで入力したい

» 2006年12月06日 13時52分 公開
[後藤治,ITmedia]

 レノボ・ジャパンが新たに投入した「ThinkPad X60 Tablet」(以下、X60 Tablet)は、デジタイザペンと指による入力の両方に対応したタブレットPCだ。同製品はX60/T60/Z60/R60の各シリーズ同様に、高いシステム性能を基盤としたユーザビリティとセキュリティの両立という、3つのコンポーネントからなる“第3世代ThinkPad”に位置付けられている(同社は1999年までのThinkPadを第1世代、2000年から2005年までを第2世代と呼び、それ以降に登場したシリーズを第3世代と規定している)。

 この第3世代のタブレットPCによって何が変わるのか? ThinkPad開発において陣頭指揮を振るうレノボ・ジャパン取締役副社長の内藤在正氏に話を聞いた。

第3世代のタブレットPC

――まずはじめに第3世代としてのX60 Tabletの特徴、前モデルであるThinkPad X41 Tabletとの違いを教えてください。

内藤氏 ThinkPadは各モデルが採用するデバイスやインタフェースの共通性・統一性で世代別に分かれていますが、型番を見れば分かるように、今回のモデルは第3世代に属する60シリーズをベースに開発しています。

 具体的には、Core DuoプロセッサとIntel 945GM Expressチップセットを採用し、2.5インチの高速なSerial ATA HDDを搭載しました。またバッテリ駆動時間も延びていますし、各種コネクタの拡充や消しゴム付きデジタイザペンなど、ユーザビリティも向上しています。そして最も特徴的なのがマルチ・タッチ/マルチ・ビュー液晶の採用です。

――そもそも新型パネルのタブレット機能に、電磁誘導方式と感圧方式の両方を採用したのはなぜですか? タブレットの“機能”としては同じだと思うのですが。

内藤氏 もちろん、指で操作できるほうが使いやすいからです(笑)。複雑な図や文字を書くのではないけれども、画面から直接操作したいときに、いちいちペンを取り出すのは面倒でしょう。単純な操作であれば指でさわれたほうがいい。これはX41 Tabletの時に多かった要望の1つでもあります。

――ただし、記者会見の中で「高価な液晶パネルだ」と繰り返されていたように、コストの面では不利ですよね。

内藤氏 確かに画面を良いものにするために、少なくないコストを払っています。一口にディスプレイといっても、液晶そのものからデジタイザやタッチパネルなど複数の部品で構成されていますが、その液晶自体が170度の広視野角なプレミアムなものですし、タッチパネルの反射を抑えるAG/AR(アンチ・グレイ、アンチリフレクション)のコーティングなども安いものではありません。それでもX41 Tabletと同等の価格に抑えているので、むしろかなり“お値打ち”なモデルだと言えるのではないでしょうか。

――ちなみにこのパネルは、ワコム製ですか?(注:今年の5月に電磁誘導方式と感圧方式に両対応したパネルが同社から発表されている

内藤氏 デジタイザの部分は、そうです。ただ、液晶ディスプレイはさまざまなコンポーネントから構成されているので、各部品をただ買ってきて搭載する、というものではありません。例えばデジタイザとタッチパネルがきちんと統合して動くためにはアダプタを共通化、最適化する技術が必要です。

 また、実際にタッチパネルを搭載するにあたっては、タブレットPCとして要件を満たす視認性も考えなくてはなりません。今回のマルチ・タッチ/マルチ・ビュー液晶は、コントラストが非常に高く、外光反射も1.6%まで抑えています。さらに細かい話をすると、パネル脇ボタンのクリック感やシングルヒンジ(注:タブレットPCで液晶のヒンジが中央の1つだけになる)でいかに剛性を確保するかといった、液晶周りの機構にもかなりこだわりました。

X60 Tabletでは、多重構造のパネルによる外光反射を防ぐために、入射光の偏光成分を90度回転(縦から横)させる円偏光技術を採用。内光のみを透過することで屋外での視認性を飛躍的に向上した

――そのほかの技術的なトピックはありますか?

ワイヤレスLAN用に3本、ワイヤレスWAN用に2本のアンテナスペースが用意されている。ちなみに、パネルの向きによって使用されるアンテナが変わるという(体に近いほうのアンテナは使用されない)

内藤氏 今後はワイヤレス技術がキーになると考えています。ワイヤレスLANだけでなくワイヤレスWANの開始も時期だけの問題となっていますが、後者は電波の強度がWi-Fiとはまったく違う(弱い)ので、アンテナの設計でもう1段上のレベルを要求されます。PC本体が発するノイズによって、入ってくるべき電波がじゃまされないように、いかにシステムを“静か”に設計するかもポイントでした。またワイヤレスLANではMIMOに対応する3本のアンテナスペースを用意しています。

(注:MIMOおよびワイヤレスWANモデルは国内未発表)

――話は変わりますが、今回このタイミングでタブレットPCの新モデルを投入したのは、やはりWindows Vistaの存在が念頭にあったのでしょうか。

内藤氏 いえ、みなさんそうおっしゃいますが、タイミングに関して言えば偶然一致しただけです。意図的に、例えば製品の発表を遅らせたり、また急いで開発を行ったりということはありません。

 ただ、私自身は使用したことがないので断言はできませんが、Windows Vistaとの組み合わせによってタブレットPCがよりよい操作環境を提供できるようになるだろうとは思っています。Vistaがめざしている方向性とペン入力は一致しておりますので、当然すばらしいものになるだろうと大いに期待しています。

「すべての人はペン入力を使いたいと思っている」

――今回発表された製品は中・大規模企業向けのモデルで、個人・SOHO向けモデルは12月末に改めて発表するとのことでしたが、やはりメインターゲットは企業ユーザーですか?

内藤氏 そうですね。もっとも、タブレットPCが必要だからタブレットPCを使うのではなく、それ以外の、単純にペン入力に興味があるというような一般の方に使ってもらいたいと個人的には思っています。

 例えばX41 Tabletは、タブレットPCが必須となる特定の定型業務向けに発表した製品でしたが、それ以外にもPCをより便利に使いたいと思っている一般の方から多くの反響をいただきました。その延長で、よりよいユーザビリティを提供できるものとしてタブレットPCを使っていただけたらと考えています。

――個人的な感想を、一般的なユーザーの立場から正直に言ってしまうと、タブレットPCを使う必然性がよく分かりません。もちろん、プレゼンテーションや対面での情報共有など、特定のシーンで便利なのは理解できますが。

内藤氏 例えばこう考えてみてください。もしペンによる入力機能が何のデメリットもなしに利用できるとしたらどうですか? 誰もがそれを使いたいと思うはずです。にも関わらずタブレットPCが普及していないのは、入力インタフェース自体の問題ではなく、そのデバイスのために払う価格的なコストや、本体が少し重くなるといったネガティブな側面があるからです。しかしこういった阻害要因は技術の進歩によって解決されていく問題ですし、そのインタフェースが本当に優れていればいずれ普及すると考えています。

 あるいはもしキーボードだけでも不満はないと感じているなら、それは一般的なPCの不自由さに対して、人間側が適応した結果ではないでしょうか。人間にとって自然な入力環境とは、本来紙に書くように使えるものだと思います。それならば、使い慣れたキーボードを補完する形で、もっと直感的に扱えるタブレットやタッチパネルとしての機能もあったほうがいい。

――そうかもしれません。

 また、タブレットPCに対してネガティブなイメージがあるとしたら、それは製品のコンセプトが技術をともなわないで先走った結果、コンセプト自体がダメージを受けてしまっている、という問題もあるかもしれません。本体が非常に重くキーボードも持たない昔のタブレットPCはかえって使いにくかった、でもそれは技術の進歩によって解決してきた過去のイメージです。

――なるほど。今回のX60 Tabletは、タブレットPCの1つの完成形と考えてよいのでしょうか。

 ThinkPadでいえば、前モデルのX41 TabletによってタブレットPCはようやく実用に耐えるデバイスとなった。そしてX60 Tabletによって、タブレットPCとしてのハードウェア面は、いよいよ完成の域に近づきつつあると言っていいと思います。X60 Tabletの液晶ディスプレイは普通のノートPCよりも高品質で、X41 Tabletと比較すれば分かるようにコストパフォーマンスも高い。重量も十分許容範囲です。

 ただし、これでタブレットPCが最終形に到達したという意味ではありません。ソフト面で見れば、いま現在のアプリケーションがすべてペンで使うのに適しているかと言われれば、そうではない。しかし、本当に使いやすいタブレットPCが出ることによって、ペンによる操作が一般化し、ユーザーからのフィードバックが蓄積されれば、将来的にはソフトウェア側のユーザーインタフェースも自然とそれに適したものへと変わっていくでしょう。

 そしてその時、タブレットPCはいまよりもさらに使いやすい入力環境を提供してくれると考えています。

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