「互換品」「再利用」が決め手の中国プリンタ事情山谷剛史の「アジアン・アイティー」

» 2006年12月12日 09時00分 公開
[山谷剛史ITmedia]

プリンタ消耗品の“互換”製品展示会が上海で開催

 キヤノンとエプソンが非純正品のインクやそのカートリッジ、トナーといったプリンタ関連の消耗品について「たいそう心証がよろしくない」ことは、彼らがプリンタ消耗品の互換品メーカーを訴えたことからもよく分かる。ところが中国では、「亜州打印耗材展覧会」(Rechina asia expo)という、プリンタの消耗品の「互換」メーカーが一堂に会して新製品を展示するという、実に挑戦的な展示会が行われた。

 この展示会には中国(香港、台湾含む)を中心に、韓国、インド、シンガポール、米国、英国、仏国などから336社が参加した(このうち中国の企業は約270社)。出展が多かった製品ジャンルは「インク」「インクリボン」「トナー」「インクカートリッジ」で、そのほかにも、プリンタパーツや部品の互換品や、インクを詰めてインクカートリッジを再生する機械、インクカートリッジにインクが正しく詰まっているかをチェックする機械、プリンタに装着されたインクカートリッジに接続してインクを供給しつづけるシステム(中国語で「連続供墨系統」「連供系統」と称される)などなど、日本ではまず見ることがない、存在すら知らないプリンタ関連の消耗品が展示されていた。

 「連続墨系統」は、ビジネスユースを中心に普及しており中国ではメジャーな存在である。1999年にプロトタイプとなる第1号機が誕生し、2003年には商用化されている。年を重ねるごとに性能が向上し、また中国企業の数社から出荷されるようになったことで低価格化も進み、現在では手が届きやすい価格となってきている。

 連続墨系統は、大きく分けて「外部インクタンク」「内部インクタンク」「内部と外部のインクタンクを結ぶ専用チューブ」の3つの部品から構成されている。内部インクタンクはインクカートリッジに接続して、インクカートリッジ内のインクが減ったら内部インクタンクからインクを送る。さらに、内部インクタンクのインクはプリンタ筐体の外に置かれた外部インクタンクから専用チューブを介して常時補充される。外部インクタンクには必要に応じてインクを注入することも可能だ。

 ただし、単純にインクをタンクに送ると気泡が混ざって印刷に不具合が発生してしまう。いかに気泡をいれないかがこの手の製品の課題になるという。また、各色カートリッジが独立しているプリンタには、この手のシステムを対応させるのは容易だが、複数色のカラーインクがひとつのカートリッジに納まっているプリンタに対しては対応が難しいらしい。連続墨系統の価格は安いもので200元(3000円強)を下回るものから1000元(15000円強)を超えるものまで幅広い。

 さて、この展示会に中国企業を中心に多くの企業が参加した一方で、エプソンやキヤノンといった日本メーカーに、HPやレックスマークとった米国メーカー、そして中国企業でもレノボといったプリンタを扱っているメーカーは出展していない。彼らからすれば、プリンタ本体の価格を抑えて消耗品で利益を得るビジネススタイルにしているのに、特許で固めた消耗品の互換品を勝手に作って販売するという行為は許されるものではないだろう。その展示会に出展するはずもなく、存在そのものを否定したいのではないだろうか。

 そこで、この展示会に対するコメントをエプソンに質問してみたところ、「この展覧会の存在は知っております。個々のイベントに関しまして、とくにコメントはございません。当社は非純正品を一般的に否定するものではございませんが、フォト画質や保存性能などの印刷品質だけでなく安全性、品質の観点からも純正品の使用をお客様にお勧めしております」というコメントが寄せられた。

 ちなみに亜州打印耗材展覧会が開催された3日間に6000人強が来場している(そのうち国外からは2000名。その国籍は50数カ国に及ぶ)。この展示イベントは2007年も開催される予定で、主催者は盛況だった今年の実績から、2007年は展示面積を大幅に拡張し400社以上の企業を招聘するという強気のコメントを発している。

中国の電脳街でプリンタ関連「互換品」を探す

 こういった「プリンタ関連互換品」は中国の街中でどの程度売られているのだろうか。今まで巡った中国の各都市のプリンタ事情を思い出しながら、筆者の滞在する街の電脳街でプリンタ消耗品を探してみた。

 実をいうと、コンシューマー向けのプリンタ本体やプリンタ関連の消耗品は、電脳街でほとんど販売されていない。PC本体がよく売れているHPやレノボのプリンタは店頭で見ることができるが、エプソンやキヤノンになるとメーカーのプリンタ専門店で販売しているくらいになる。コンシューマー向けに多数のプリンタを店頭で扱っているショップは数が非常に少ない。プリンタを扱うショップの多くは電脳街にある企業向けの事務機器専門店でコピー機などと一緒に販売されているのだ。

 これらの事務機器専門店ではプリンタ関連の消耗品も扱っている。そこではメーカーの純正品とその互換製品が並んで売られている。ユーザーは値段と信頼の折り合いでどちらでも選択できるわけだ。消耗品はLANケーブルやCDRメディアなどを扱うショップでも売られている。電脳街の店頭を見る限り、プリンタ関連の消耗品はメーカーの純正品も互換製品も同じ割合で出荷されているように見える。

電脳街では少数派のプリンタ専門店

 しかし、日本貿易振興機構北京センター(Jetro-Pkip)が発表した「2004年 中国における知的財産権問題に関する報告」にある「3.事務機器(1)被害の状況」の内容を要約して紹介しよう。

 ──トナー、インクカートリッジ、リボンカートリッジ、紙メディアといった消耗品は、事務機器分野における最大の偽造被害製品であり、デッドコピー、純正ブランド名を強調した商標権侵害、デザインをまねることによる不正競争法違反など侵害の形態はさまざま。上記の侵害品は品質レベルが低いため、(エプソン、キヤノンなどプリンタメーカーの)ブランド価値に対して悪影響を与え、このような製品のメーカーの横行により、中国国内の販売店では販売モラルの低下などの問題を引き起こしている。流通は中国全土のみならず海外にもおよび、全世界的な問題となっている──

 「デッドコピー、純正ブランド名を強調した商標権侵害、デザインをまねることによる不正競争法違反など侵害の形態はさまざま」とあるように、筆者が電脳街で純正品と思った消耗品のいくつかはニセモノであっる可能性があるようだ。Jetro-Pkipに2006年における状況を聞いたところ、「現状も2004年のリポートから大きな変化はない」との返事を得た。

 加えるに、店頭の品ぞろえだけがプリンタ関連消耗品事情をすべて物語っているわけではない。店によっては看板に「インク注入」「トナー充填」という内容が書かれていたりする。このような店ではインクカートリッジにインクを注入するサービスを提供している。さらには、「インクカートリッジ高価回収」という、再生業者に売ることを生業をする人々が建てた小さな看板もある。Jetro-Pkipの話から推測すると、インクを詰め替えたら電脳街の販売店でデッドコピーとして販売されていることも考えられる。こういった流通を考慮すると、プリンタ関連消耗品の販売実数における純正品の割合は少数ではないだろうか。

インクカートリッジ、ドラム回収の小さな立て看板墨盒加墨水とは「墨入れに墨水を加える→インクカートリッジにインクを入れる」というサービスを示す
こちらの店の奥には大量のインクカートリッジとインクが
墨盒加墨水(墨入れに墨水を加える→インクカートリッジにインクを入れる)サービスを示す看板

 筆者は、所有するレノボ製バリュークラスプリンタ「聯想3200」の「黒インクカートリッジ」を売ってないかプリンタ専門店を中心に探してみた。日本では扱っていないレノボ製プリンタであるが、中国のリサーチ会社である易観国際が11月9日に発表したリポートによると、2006年第3四半期に中国で出荷されたプリンタ253万台のうち、レノボはHP(34.2%)、エプソン(22.1%)、キヤノン(15.3%)に続いて4位(11.1%)のシェアを占めている。中国においてレノボのプリンタはレックスマーク(3.6%)やサムスン(3.4%)よりもシェアが上なのである。しかし、レノボ製プリンタに対応したインクカートリッジは扱いが少ないのか、多くの店で「メイヨー」(没有。「ない」の意)という言葉が返ってくる。

 ようやく扱っている店を見つけた。筆者の手元にあったレノボのカラーインクカートリッジを見て店長が「カラー印刷の機能を使わないなら、カラーカートリッジのフタを開けるか穴を開けるかして黒色インクを注入すればOK」言った。店内では黒色インクが入ったスポイト状の替えインクセットが3種類販売していた。どれも「HP用」とは書かれているが、店長によると「注入するだけなので(メーカーは)関係ない」だそうだ。インクの量はどれもほぼ同じなのに、価格は15元、25元、45元と異なる。価格が違うのは「メーカーの知名度の違い」(店長)なのだとか。

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