秋モデルからVALUESTARシリーズに加わった、チルト/スイベル機構を持った液晶ディスプレイを持つVALUESTAR Sシリーズと、フラッグシップノートPCのLaVie Cシリーズとデザインを共通化したLaVie Lアドバンストタイプ。いずれも個性的なフォルムと色をまとい、NECのPCに新しい空気を吹き込んでいる。
今回はそんなNECの新しいデザインについて、NECデザインのエキスパートデザイナーの山口修司氏と、VALUESTAR Sシリーズ担当であるチーフデザイナーの鳴澤道央氏に話をうかがった。
NEC製品のデザインは、その多くを「NECデザイン」が担当している。NECグループには属しているものの別会社として独立しており、設立自体は1971年だが、起源は1959年までさかのぼる。
改めて説明するまでもなく、NECはPCや携帯電話などIT関連製品から汎用コンピューター、公共インフラなど、その事業範囲が多岐に渡るため、必然的にNECデザインのデザインワークも幅広いジャンルが対象となる。
具体例を挙げると、NECデザインではスーパーコンピューターやオフィス用の大型コンピューター、ATMやPOSなども手がけている。また、成田空港内の行き先表示板などのシステムのデザイン、道路の管制システムの表示部をはじめ、操作卓やディスプレイ、カラーコーディネートも含めたまるごと一式を請け負うような仕事も行っている。
組織としては、プロダクトデザインの実働部署として3つの「プロダクトデザイングループ」があり、さらに製品のインタフェースやWeb、GUIやHIを担当する「ソリューションデザイングループ」と、NECのCIを担当する「コミュニケーションデザイングループ」がある。この中の「プロダクトデザイングループ 1」という部署が、PCや同じパーソナル系ということで携帯電話のハードウェアデザインを担当している。
上記のようにNECデザインは活動の幅が広いため、1つの考え方だけではうまく表現できないという。そこで、「ニュートラル」「エッセンシャル」「クリエイティブ」という3つのキーワードをデザインポリシーとしている。
1つめの「Neutral(ニュートラル)」は、「中立的であること、環境との調和を考えていること」である。例えば、公共的なものをデザインするときに、ただ目立てばいいというものではなく、環境に配慮したり調和したりしたうえで、美しくなければならない。また、医療機器の照明といったものでは、患者が威圧感を受けないように配慮しなければならない、といったことだという。
2つめのキーワードは「Essential(エッセンシャル)」で、「本質的であること」を意味する。PCをデザインするときに、最近の傾向として“PC臭さ”をなくす方向のデザインが多いが、レバー操作だけで簡単にカバーが開けられ、メンテナンスがスムーズにできるといった使いやすさも、この本質的であることの1つだ。また、初代水冷デスクトップPCとして名をはせたVALUESTAR TXでは、水冷PCとしてのそれを表現するために前面カバーの丸い窓に、水が入っているようなイメージをデザインした。どういったハードウェアかということをデザインで見せる、というのもこの考え方の1つだという。
3つめは「Creative(クリエイティブ)」で、「創造的であること」。デザインの基本であり、もちろんNECデザインのすべてに共通していることだ。
NECデザインでは、常にこれら「Neutral」「Essential」「Creative」の3つに立ち返ってデザインを行っているという。
「“N”と“E”と“C”を3つに分けて説明しましたが、公共物のようなものにはニュートラルを重んじますが、その中にもクリエイティブな面、エッセンシャルな面が入っていなければなりません。マクロ的な見方とミクロ的な見方で、いつもこのNとEとCにデザイナーは立ち返って、自分でチェックするということが大切だと思います。
いろいろなものになじむために、単につまらないニュートラルだと意味がない。やはりデザインなのでエッセンシャルやクリエイティブでないといけない。逆にクリエイティブだからといってNとEを忘れてはいけない。そういった自己管理的な意味もありますね」(山口氏)
NECデザインでは通常のデザイン業務のほかに、アドバンスデザインという活動を行っている。日常の実務は何かと制約が多いので、クリエイティビティーのストレッチの場として、自由な発想で各デザイナーがさまざまなコンセプトモデルを作っている。これは、「Neutral」と「Essential」と「Creative」を各デザイナーが自分なりに磨いていくためにも大事な場ということで、NECデザインの多くのデザイナーが参加しているそうだ。
最近では「レゾナントウェア(Resonantware)」というテーマで活動を行っており、その成果は、今年3月に発表した「言花(KOTOHANA)」(こちらやこちらの記事参照)や燃料電池を使った携帯電話のデザイン「flask」といったものに表れている。
このようなアドバンストデザインの成果は、もちろん実際の製品にも反映されている。アルミニウムを使ったPCの外装もその1つで、アドバンストデザインの提案の中から生まれてきたものだ。
ただ、このような新しいチャレンジは、技術面では難しいことも多い。そのため、こうした新しい試みをエンジニアに見せる機会としても有効だという。あらかじめデザインを提示することで、エンジニアの共感を得ることができれば、実際に製品にそのデザインを使うときに、設計面でどう実現すればいいかということに対して、エンジニアが納得の上で動いてくれるからだという。
次のページからは、最新のVALUESTAR Sシリーズを担当したデザイナーに、上述のデザインポリシーがどのように製品に反映されているのか、デザインにかけた思いを聞いてみた。
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