AMDが2006年末に発表した65ナノメートルプロセスルール(65ナノプロセス)のAthlon 64 X2は、従来の90ナノプロセス世代の設計を利用したいわゆるシュリンク版といえる。同じクロックで比較した場合、性能は従来の90ナノプロセスAthlon 64 X2と同等だが、消費電力はそのまま「低電圧版」と言えそうなほど大幅に低減している。
今回は、65ナノプロセスのAthlon 64 X2 5000+を利用して、従来の90ナノプロセス製品と比較した処理能力や消費電力の違いを見ていきたい。
65ナノプロセスのCPUは、ドイツはドレスデンにあるAMDのFab 30で製造されている。すでに、インテルは2005年末からCore Duoで65ナノプロセス製品の出荷を開始していたことを考えると、1年程度遅れてAMDは出荷できたことになる。
今回紹介する65nm版Athlon 64 X2 5000+は、採用するプロセスルールがシュリンク(微細化)されたとはいえ、アーキテクチャは、従来の90ナノプロセスAthlon 64 X2から基本的に変更されていない。そのため、処理能力は従来品とほとんど変わりがないと考えられる。実際に90ナノプロセス版と65ナノプロセス版それぞれのAthlon 64 X2 5000+でベンチマークを動かした結果を比較したデータでも誤差の範囲内といえる違いしかでていない。
テストシステム構成 | ||
CPU | Athlon 64 X2 | Core2 Extreme/Core2 Duo |
チップセット | nForce 590 SLI | Intel 975X |
マザーボード | ASUS M2N32 Deluxe | D975XBX2 |
メモリ | DDR2-800 | DDR2-667 |
メモリモジュール | PC2-6400(5-5-5) | PC2-5300(5-5-5) |
容量 | 1GB | |
ビデオチップ | NVIDIA GeForce 7900 GT | |
ビデオメモリ | 256MB | |
ビデオドライバ | NVIDIA ForceWare 90(v91.03) | |
標準解像度 | 1024x768ドット、32ビットカラー | |
ハードディスク | WesterDigital WD360 | |
フォーマット | NTFS | |
OS | Windows XP Professional+ServicePack2+DirectX9.0c |
プロセスルールの違いでベンチマークの結果に差が出ない理由は、現代のCPUの性能がいわゆるマイクロアーキテクチャとよばれる内部構造やキャッシュサイズなどに依存するためだ。この視点でいえば、今回の65ナノプロセスのAthlon 64 X2は90ナノプロセスのAthlon 64 X2と同等であり性能面でのアドバンテージはないと考えるのが妥当だ。
65ナノプロセスのCPUソケットは、90ナノプロセスの製品と同じ940ピンのSocket AM2が利用可能で、パッケージも940ピンのmPGAと従来製品と同等だ。このため、外見ではプロセスルールの違いがほとんど区別できない。
処理能力の面で65ナノプロセスに移行したメリットはあまり見出せないかもしれない。しかし、明確で、かつ日本のユーザーにとって重要なメリットが1つある。それが“消費電力の低減”だ。
90ナノプロセスのAthlon 64 X2 5000+の熱設計消費電力(Thermal Desgin Power)は89ワットであったのに対して、65ナノプロセスのAthlon 64 X2 5000+は65ワットになっている。従来AMDは、Athlon 64 X2のTDP65ワット版を低電圧版ともいえる「Energy Efficient版」として出荷してきたが、65ナノプロセスの製品では65ワット版が標準品となっているのだ。消費電力が下がった大きな要因は、駆動電圧が従来版に比べて下がっていることだ。90ナノプロセス版では1.35ボルトから1.4ボルトで駆動されていたのに対して、65ナノプロセスでは微細化によるメリットとして駆動電圧を1.25ボルトから1.35ボルトに低減できている。消費電力は、駆動電圧の2乗に比例して大きくなるので、駆動電圧が下がると消費電力を大幅に低減できることになる。
ただし、TDPはあくまでピーク時の消費電力だ。ユーザーとしては実際に利用しているときの消費電力が最も気になる。そこで、消費電力計(ワットチェッカー)を利用して実際に計測してみた。ワットチェッカーは、システム全体の消費電力を計測しているが、CPU(および、AMD製CPUとインテル製CPUでは、それに依存するマザーボードとメモリも)以外は同じパーツを利用しているので、AMD製CPUを比較したときの消費電力の差はCPUの差であると考えられる。
90ナノプロセス版に比べて65ナノプロセス版は明らかに消費電力が下がっている。消費電力をCPUの評価基準の1つにしているユーザーであれば、今後は明らかに65ナノプロセスの製品を購入するのがよいということができるだろう。
ただし、重負荷時(エンコードや3D描画処理)においては、Core2 Duo E6700の消費電力をやや上回っている。こうした実稼働時の消費電力を平均消費電力というが、この点では依然としてCore2 Duoが優位と言えるかもしれない。一方で、アイドル時の消費電力では、65ナノのAthlon 64 X2 5000+がCore2 Duo E6700を下回っている。これは、省電力機能(インテルなら拡張版スピードステップ、AMDならCool'n Quiet)で利用できる下限動作クロックの違いだ。Core2 Duoシリーズは1.6GHzまでしか下がらないのに対して、Athlon 64 X2は1GHzまで下げられる。アイドル時にはこの下限クロックで動作することになるので、この時にはAthlon 64 X2にアドバンテージがあるようだ。
PCは、動作時間の多くがアイドル状態にあるため、このときの消費電力が低減されることは、トータルの消費電力で有利に働くことを考えると、意外とユーザーに大きく影響するAthlon 64 X2のメリットと言えるのではないだろうか。
以上のように、65ナノプロセスのAthlon 64 X2は、90ナノプロセスの同クロック製品と処理能力は同じであるものの、消費電力では明らかにアドバンテージがあることがわかる。今回の検証でも、Core2 Duoシリーズと比較して稼働時の消費電力では上回ってしまうもののアイドル時の消費電力で下回るという優位性が確認できた。
AMDにとって65ナノプロセス導入のメリットは、より高クロックのSKUをこれから投入できることといえる。TDPを従来製品と同じように89ワット、さらには110ワットへと増やしていけば、さらに高クロックの製品を導入できるようになる。また、プロセスルールの微細化でダイサイズが小さくなっていることから、(65ナノプロセスの製造工程において歩留まりが向上すれば)CPUの生産量が増加することも65ナノプロセスの導入がAMDにもたらすメリットと考えられる。
同じ動作クロックにおいて、プロセスルールの違いは処理能力の向上には結びつかない。こういう点でベンチマークの値を重視するユーザーにはあまり評価されないかもしれない。しかし、重負荷時や運用時間のトータルで見た消費電力の大幅な削減は、それに伴う静音性能の向上や、ダイサイズ削減による生産コストの抑制、それによって可能になる(はずの)低価格化など、ユーザーにもたらされるメリットは意外と多いのではないだろうか。このように、処理能力だけではない、多面的なメリットをユーザーにもたらしてくれるのが、65ナノプロセスAthlon 64 X2の意義といえるだろう。
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