アキバの未来は「新宿」「池袋」「アキバ」5年後の秋葉原を歩く 第1回(2/2 ページ)

» 2007年03月30日 20時50分 公開
[古田雄介,ITmedia]
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全国シェア10%以上の産業が今後のアキバを引っ張っていく

――アニメやメイド喫茶、フィギュアなどのショップが増えていく一方で、PCパーツショップは下火になり、従来のアキバのイメージと相性のよさそうな、例えばロボットなどはほとんど一般化していません。そのときどきで何が選ばれ、何が衰退するのか、そういった方向はどのように作られているのでしょうか?

小山 秋葉原では、だいたい全国シェアの10%以上を占めたものが産業として街に残ります。家電が街の顔だった頃も日本の総売上の1割を秋葉原で売り上げていました。自作PCのピーク時もそうです。そういう意味でいくと、いまはメイド喫茶とかエロゲー(※注2)とか、フィギュアとかは、間違いなく秋葉原だけで1割を超えてくるんです。

(※2:アダルト要素を含んだ成人指定のゲームソフト)

 例えばエロゲーもフィギュアも俗に1万個(本)が、ヒット商品の1つの相場になっています。ソフマップやとらのあななどの大きなショップって、これらの販売数のうち、だいたい数百を占めるんですね。そうすると秋葉原の街全体では、1割から2割のシェアを占めることになる。こういう状態では秋葉原の動向が日本全国に流れていきます。

――昔はラジオやオーディオがアキバで有名でしたが、定番化すると全国に広がってブームが終息し、そのときにメインでなかったものがまた新しい色として出てくる。

小山 そうですね。あるブームが起きるときに、その支持層がなんとなく別に持っていた趣味の産業が同時に盛り上がっていく。複数の街で買い周りをしていたものが、ワンストップで買えるようになり、その中の1つが次のブームを作っていく。特にサブカルチャーはその傾向が強いんです。池袋とか新宿にバラバラにあったものが、消費者のニーズにあわせてアキバに集まってくるわけです。街の顔が変わるときは、「気がついたら母屋が乗っ取られていた」みたいな感じで入れ替わって来ていたんだろうと思います。

――PCやゲームがいまのアニメやフィギュアを街に引っ張ってきたわけですね。

小山 ええ、完全に消費者主導の街ですよね。

――ちなみに、今後アニメやフィギュアが単体で街のメインになりうる可能性はありますか?

小山 それはないでしょう。ゴチャゴチャといいますか、微妙に全体がいろいろつながっている、いわゆる「オタクの消費するもの」が街を占領する。秋葉原は古い産業も地層のように残っていくので、PCパーツショップもなくならないと思います。

――表向きは“電気街”という顔を立てておいて、その背後に主産業としてアニメやメイド喫茶、フィギュアがあるという感じでしょうか。

小山 そうですね。すでに海外でもそのように認識されています。海外に出張したときに、ポップカルチャーの雑誌をよく買い漁るのですが、ドイツにもアキバ系雑誌が置いてありました。日本のポップカルチャー全般を紹介する雑誌で、倖田來未と一緒にコスプレや萌え系アニメも載っている。(海外では)渋谷とか原宿みたいな街も受けがいいんですけど、アキバもほかの国にはない独自のポップカルチャーのシンボルとして受け入れられているんです。

PCショップとアニメショップが混在するアキバの中央通り。写真手前には、建設中のソフマップタウンが見える(写真=左)。小山氏が海外で購入した日本のポップカルチャーを紹介する雑誌。ドイツの某雑誌は2002年から発行され続けている(写真=中央/右)

2012年、アキバはコンテンツ創造の街になる!?

――最後にアキバの5年後、2012年にはどのような姿になっていると思いますか?

小山 そうなれば面白いなと思っているのは、例えば画材屋さんや、フィギュアの原型を作るための紙粘土、型を取るシリコン、精密加工機械を扱うお店が増えている未来。そういうものを含めた“コンテンツ生産の一大拠点”としての新しいアキバです。

 行政の介入がありながらも、消費者が主導で進化していく街はめずらしい。未来のアキバは、渋谷や原宿とは違うけれど、何かの消費文化の発祥地になっていく――行政が描く「IT産業の拠点」とか、世界中のあちこちにあるようなものを真似して作るよりは、そのほうが世界でオンリーワンの魅力的な街になると思います。

小山友介氏 プロフィール

東京工業大学 総合理工学研究科 知能システム科学専攻助手

専門分野は進化経済学と数理社会学、実験経済学。『「日本型コンテンツ産業システム」の特徴とその可能性』など、サブカルチャー産業の研究・分析でも多数の実績を持つ。

ゆうくんのページ:http://ha1.seikyou.ne.jp/home/yus/


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