“タフネス”ノートの新事情──NEC「ShieldPRO」編山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」(1/2 ページ)

» 2007年05月16日 11時00分 公開
[山田祥平,ITmedia]

 NECの堅牢PCといえば、工場などの過酷な環境で使われることを前提にした「FC-9800シリーズ」を思い出す。“98”シリーズは、その使命を終えたと一般的に考えられているかもしれないが、一部の現場ではまだまだ現役だ。製品も継続して販売されている。そして、そこで培われた創意や工夫は、今もなお、PCの商品企画の現場に生きている。

 今回は、NECの堅牢ノート、90センチの高さからコンクリートに落としても壊れない「ShieldPRO」の開発に関わった山崎茂樹氏(NEC放送・制御販売本部制御端末販売部マネージャ)、川中崇功氏(同販売部)、中野智視氏(同制御システム事業部第三システム部マネージャ)、打越雅広氏(同主任)らに話を聞いてきた。

──NECの堅牢PCへの取り組みは、意外に歴史があるようですね。

山崎氏 厳密にはファクトリーコンピュータの歴史ですね。1985年からの流れです。最新の動きとしては一度2004年に商品化を果たし、2007年1月の製品は第2弾となります。産業用PCとしての製品で、用途としては広く業務用から組み込みまでを想定し、現場での信頼性を求めるユーザー向けの装置として開発しました。ターゲットとなる現場は、ちょっとマイナーでニッチな領域です。制御システム事業部が開発を担当しているというところでも、ほかのNEC製PCとはちょっと方向性が異なります。

─―ShieldPROの特徴はどういうところになるでしょう。

川中崇功氏(NEC放送・制御販売本部制御端末販売部)

川中氏 「ShieldPRO」というのは社内公募のネーミングで、頑丈を意味する「盾」と防塵や防滴を意味する密閉感を意味する「シールド」を表現しています。また、Security(安全)、Hard(硬い)、Innovation(革新的)、Environmental(環境に優しい)、Light(軽量)、Durability(耐久性)という5つのコンセプトの頭文字をつなげたものでもあります。

 今回の製品は、「IEC規格529」(IEC規格とは国際電気標準会議で策定された機器の保護構造)に基づいて規定された保護等級「IP54」(正常動作を阻害するような粉塵の侵入がなく、いかなる方向からの水の飛まつによっても有害な影響を受けない)を満たしています。前のモデルは「IP51」(正常動作を阻害するような粉塵の侵入がなく、鉛直に落下する水滴によって有害な影響を受けない)でしたから、防滴性能を強化したわけです(IP=Ingress Protectionの表記は十の位に砂塵や粉塵などに対する保護程度を、一の位に水に対する保護程度を示す)。

 しかも、コネクタへケーブルを接続して状態でもIP54を実現しています。端子には、「シリアル」「LAN」「AC」などがありますが、そのすべてで保護程度は同等です。90センチからの落下に耐えLCD自体も強化ガラスで保護し動作温度も摂氏マイナス5度から(プラス)45度まで耐えられ、そしてファンレス構造です。また、シリコンディスクモデルも用意するなど、あらゆるニーズに応えられるカスタマイズも可能です。

打越氏 これらの規格をクリアしたと称するには、製品安全評価センターの試験を受ける必要があります。ここは社団法人の日本船舶品質管理協会が管轄する団体で救命具などの環境試験などをやっているところです。そこが、第三者機関として認定した製品が“保護構造IP”を取得できるのです。

川中氏 コンバーチブルな筐体構造を採用しており、タッチパネルディスプレイは標準で搭載しています。タブレットPCとして使ったときにもボタンを押しやすいようにしてあります。スライドボタンなどはゴミが侵入するので押しボタン式にしました。フル堅牢というカテゴリーで2.5キロという重さは軽いほうじゃないでしょうか。最軽量モデルはシリコンディスクと軽量バッテリーを搭載して2.3キロとなります。もちろん、ケーブルなども防塵仕様のものを用意しました。

山崎氏 実はレーサーの片山右京さんからも絶大な信頼を得ているんですよ。使っていただいているのは特別なモデルでもなんでもない、まったくの量産モデルです。2007年のパリ・ダカールラリーには新製品が間に合わず前のモデルを使っていただきましたが、ずっとトヨタ車体のランクルチームで使ってもらっています。レースは相当過酷な状況らしいのですが、以前使っていたPCにトラブルがあったと聞いて、ShieldPROを使っていただきました。過酷なところで安心して使えることが条件なのですが、昨今、登山家としても有名な片山さんによると、山では気圧で苦労するようで設置環境条件も考慮しました。ShieldPROは標高5800メートルのおける稼働実績があります。

─―開発過程ではどのような苦労がありましたか。

中野智視氏(NEC制御システム事業部第三システム部マネージャ)

中野氏 何が難しいかといって、落下衝撃がいちばん難しいですね。ファクトリーコンピュータはどんなところでも動かなければならないので、それに関してはとりあえず実績がありましたから大丈夫でした。でも、ファクトリーコンピュータは持ち歩きを考慮しなくてもいいですよね。だから、今回は、落下テストの目標をクリアするのが大変でした。試験器で落下する過程を高速カメラで撮影しながら取り付けたセンサーでどこにどんな衝撃が加わるかなどを調べるんですが、まず、弁当箱(試験のために試作した評価用の筐体を開発者は弁当箱と呼ぶ)で見通しをつけて、次の段階で、削りだした合金を厚さが0.8ミリになるまで削って、設計通りに衝撃を吸収しきれているかを検証していきます。最終的な製品になるまでは、900回から1000回は評価機を落下させていますね。HDDがなければずいぶんラクなんですが、現状では、コストとの兼ね合いでHDDを望むユーザーもいます。堅牢性と引き替えだとしても、普通のPCの価格の倍はさすがに出せないというユーザー層ですね。シリコンディスクを使うと、普通のPCの2倍の価格になってしまいます。

落下衝撃試験で使われた「弁当箱」
製品版のシャーシと液晶パネルのベゼル部分

─―どうしても松下電器産業の製品と比べられると思いますが。

打越雅広氏(NEC制御システム事業部第三システム部主任)

山崎氏 TOUGHBOOKは複数のラインアップがありますよね。堅牢性ノートPCの市場は8割がTablet PCとして使えるCF-19シリーズでしょう。そこで、NECもそこをターゲットにすることにしました。画面サイズが大きくて見やすいところにフォーカスし、大きいけれど軽量化されていることがポイントです。しかも、NECは、環境仕様を明示して動作を保証しています。TOUGHBOOKは保証していないのです。とくに温度環境でShieldPROにアドバンテージがあると考えています。また、各端子にケーブルをつないだ状態で使うユーザーは多いですが、それでも動作保証しているのもNECの強みです。

 (構成をユーザーが選択できる)セレクションメニューも充実しています。バックライトつきのキーボードなどは、夜でもキー入力ができるので現場を選びませんしキーボードカバーも用意しています。工場でも安心して使える構成や英語OSを導入したモデル、Linuxを導入したモデルも用意するなど、あらゆるニーズに応えます。メモリも最大2Gバイトまで実装可能です。HDDでは標準、高温度、シリコンなど各種用意したうえ、指紋認証センサーを装備することもできます。こうしたバリエーションがあるのはとても有利だと考えています。

中野氏 画面サイズが大きいだけではなく、キーボードも打ちやすいサイズになっています。低温環境での動作時もTOUGHBOOKはヒーターで温めているんですが、ShieldPROは車載用HDDを搭載することで、ヒーターなしでも動作できています。PCである以上、負荷の高いときの放熱は重要なのに暖めなければ動かないというのでは相反するという判断です。

打越氏 低温に強いHDDにはグリスが固まらない工夫があるのです。ヒーターで温める構造ではHDDの温度センサーが誤動作する可能性もあります。車載用HDDはベアリングの軸の部分が通常のHDDと異なっているので信頼性が確保できる代わりに回転速度が遅く容量もちょっと減ってしまいます。でも、それがトラックのピッチにゆとりをもたせることにつながっています。高密度ディスクだと余裕がないですから。このゆとりのおかげで十分な強度が確保できるので、加速度センサーなどはついていません。

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