――結果として世界最小をうたうコンバーチブル型PCが生まれたわけですが、開発で苦労した点を教えてください。
日野氏 薄型化と軽量化を図るうえで、発熱にはいちばん苦労しました。インテルのUMPC用CPU(A110/800MHz)は消費電力がPC用CPUにしては低いのですが、それでもこのサイズのUMPCを作るとなると、並大抵ではない放熱の工夫が必要です。実際、通常のデザイン、ボディ、基板担当以外に、熱の処理のためのプロジェクトチームを作って研究を重ねました。
放熱については、熱が1カ所に固まらないように各部品を配置することがポイントになるので、内部のレイアウトを工夫しています(分解写真はこちら)。オプションのポートリプリケータに載せて音楽を聴くなどの用途を考えて、ファンレスで放熱することも検討しましたが、今回は冷却を優先してファンを搭載しました。最善は尽くしていますが、我々の品質保証の範囲内では現状でファンの搭載が必須になります。
――ボディの強度や薄さ、軽さを実現するため、マグネシウム合金やカーボンなどの素材を使ったモバイルPCも見られますが、材質は樹脂ですね。
日野氏 はい、ボディの材質は樹脂製です。我々はこれまでモバイルPCでさまざまなトライをしてきたわけで、軽くて強度を保つためにほかの選択肢があることも心得ています。たとえば、マグネシウム合金を多用すれば、軽量化も含めてより多くのことができたかもしれませんが、価格とのトレードオフがあります。
つまり、今回は当初からかなり価格を意識し、価格を下げたいという思いがありました。富士通に限らず、一般的なモバイルノートPCの価格帯はある程度決まっているので、購入層はどうしても限られます。より多くの方に使っていただこうと考えた結果、コストを下げられる部分で下げる工夫をしたということです。
――ボディの材質以外で、コストを下げるために工夫したことを教えてください。
日野氏 大きいところでは、標準搭載する機能の取捨選択があります。これまで富士通はモバイルPCに数多くの機能を取り入れてきましたが、それに比べると、機能をコンパクトにまとめています。OSにWindows XPのTablet PC Editionではなく、XP Professionalを選択したのも同様の理由です。
当初検討に挙がっていた機能では、BluetoothやWebカメラ、ワンセグチューナーがありましたが、これらは省きました。USBポートやCFカードスロットといった拡張性を持たせることで、利用するユーザーが限られるような機能は外付けで使っていただくことを考え、本当に必要とされる機能に絞ったわけです。ただし、ワンセグの需要はかなり高いので、今後は検討していきたいです。
――UMPCということでSSDの搭載を期待している方も少なくないと思います。SSDを採用する予定はありますか?
日野氏 SSDはかなり深く検討しました。実際、富士通の企業向けノートPCでは、昨年にSSDを採用しています。モバイルPCを考えた場合、この方向性は間違いないと思いますが、現状では価格が高くなるので、近々にカスタマイズのメニューに加えることはないでしょう。SSDは今後のモバイルPCにとっては重要だと認識しているので、あとはタイミングを待ってどのように製品に落とし込むかと考えていきたいです。
――各社の個人向けPCでは、プリインストールOSがすでにWindows Vistaに移行しています。今回、OSにWindows XP Professionalを採用したのはなぜでしょうか?
日野氏 いちばん早くお客様にお届けできる方法を考えて、Windows XPモデルを直販で展開するという販売形態にしました。将来を見据えると確かにVistaへの移行も大事ですが、現状ではまだまだWindows XPのユーザー数が非常に多く、アプリケーションや周辺機器についてもVistaの対応をうたっていない製品が見られます。こうした現状からも、まずはWindows XPのモデルをWEB MARTで直販することにしました。
もちろん、Vistaモデルも続けて投入します。2007年度上半期中には全国の販売店でVistaモデルを発売する予定です。企業向けには当初からVista Businessモデルを用意していますが、やはり出荷日はWindows XPモデルのほうが早くなっています。
――出荷台数の目標は?
日野氏 企業、店頭、海外を含めてトータルで10万台が目標です。
――最後に、FMV-BIBLO LOOX Uをどのようなユーザーに使ってほしいのかを聞かせてください。
日野氏 いままでPCに深く触れてこられた方はもちろんですが、そうでない方にとっても、自宅でも外出先でもお手軽に使っていただけるPCを作りました。ぜひ多くの方に使っていただきたいと思います。モバイルPCですが、しっかりしたキーボードがありますので、小さくても普通のWindows搭載PCとしてフルに使えるのがポイントです。インターネット経由で映像コンテンツを視聴したり、外出先でブログやSNSを利用したりと、さまざまなシーンでPCをより身近なものとして楽しんでみてください。
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