行政はアキバをどうしたいのか――「前例のない街」に挑む千代田区5年後の秋葉原を歩く 第6回(1/2 ページ)

» 2007年07月04日 12時00分 公開
[古田雄介,ITmedia]

 これまでショップや研究者の立場で様々なアキバの将来像を語ってもらったが、今回は街全体を俯瞰して将来設計する立場の千代田区に話を聞いた。

 現在も進められている秋葉原地区の開発は、2008年3月の「(仮称)TX秋葉原駅前開発ビル/阪急電鉄」竣工により、一段落する。行政の中でも、この開発事業にもっとも注力したのが千代田区だ。街全体の発展のために、開発事業者と地元の町会や商店会、行政が協議する「Aテーブル」を2002年4月に発足。2006年に発展的解消をするまで、千代田区がリーダーシップをとって、まちづくりの取り組みを進めてきた。

異なるベクトルをとりまとめる苦労を痛感

 アキバの駅前開発で忘れてはならないのは、街区や道路によって所有者や開発時期がバラバラで進められてきたこと。一元的に開発が進む通常の都市再開発から考えると、かなりレアケースなのだ。千代田区も「前例がない」と語る特殊な開発事業は、思惑通りに進んでいるのだろうか。

――現状Aテーブルはかなり終盤を迎えていると思いますが、予想通りにことが進んでいますか?

千代田区 まちづくり推進部都市計画課長 山口正紀氏

山口氏 開発にともなう情報の共有と、ハード面における整備については、みなが協力してやってこれたと言えます。また、歩行者ネットワークや駐車場の案内システム、環境に対する取り組みなど、公共性の高い分野についても相互の連携により進められたと思います。

 ただし、出来上がった街のソフトマネジメントについては後追い感がある。つまり、街が完成したあとの管理運営=タウンマネジメントの方向性は固まるのが遅かった印象です。

 アキバのタウンマネジメントは特殊です。普通の手法なら、開発エリアを中心に管理していく。しかし、アキバは開発エリアだけではすまないのです。電気街や部材店など周辺の既存市街地も再開発の影響を大きく受けるので、周辺地域も巻き込んだタウンマネジメントを行う必要が出てきます。

 すると、開発エリアの事業者と、アキバの住民、アキバの経営者など、いろいろな立場の人の意見を採り入れなければならない。当然、めざすベクトルがそれぞれ微妙に違うので、最大公約数を探ってまとめていくことになる。これに時間がかかっています。

――最大公約数となると、各当事者の理想から若干のずれが出てくるのは避けられない。そのズレによって当事者意識が低下してしまったということはありますか?

山口氏 はい。そういう課題を抱えて始まったのです。だから、秋葉原におけるタウンマネジメントの難易度は初めから高いのです。

千代田区提供の「秋葉原駅付近地区の開発動向(2007年5月現在)」。歩行者ネットワークの一部を除き、平成20年(2008年)3月には、ひととおりの開発が完了する

Aテーブル後の新組織は“秋葉原TMO”

 Aテーブルで街のハードが完成し、ソフトの問題が課題として残った。それに取り組んでいく組織がまもなく発足するという。

――2006年にAテーブルが発展的に解消されるということで、その後の団体は決まりましたか?

山口氏 はい。次の展開はタウンマネジメントの仕組み作りをしていくことです。そこで、「(仮称)秋葉原タウンマネジメント組織(以下、秋葉原TMO)」を設立しようと、現在取り組んでいます。

 秋葉原TMOは、非営利型の株式会社を考えています。街の美化や交通・治安の維持などを推進しながら、アキバの持つポテンシャルを最大限活用し、まちの魅力や価値を高めるさまざまな取り組みを行っていきます。2005年11月に勉強会を、2006年には設立のための準備会を開き、現在は株式会社設立まであと一歩のところまできています。

――なぜ株式会社にするのですか?

山口氏 株式会社でない場合はNPOとか、区が主体的に作る公社などがありますが、ここは自立的な組織にするべきだと思っています。補助金や協賛金、負担金だけでまかなっていると、それがなくなると組織を存続することができません。秋葉原TMOは自立して利益を上げながら存続していくことを目標にしています。また、アキバの発展につながるものなら何でもやっていける意味においても、事業を行いやすい株式会社という選択肢をとっているわけです。

 Aテーブルは発展的解消をしますが、Aテーブルに携わっていた企業、地元団体にも、最終的には秋葉原TMOに関わってもらえるようにお願いしているところです。

秋葉原TMOの実施事業(秋葉原TMOのまとめ/平成18年12月・秋葉原TMO設立準備会)。事業計画は現在、検討を進めているという(写真=左)。秋葉原TMOのエリア(秋葉原TMOのまとめ/平成18年12月・秋葉原TMO設立準備会/写真=右)

――中央通りで秋葉原TMOのエリアが切れていますが、既存の電気街は対象外になるのですか?

山口氏 エリアを拡大して、今後取り込んでいく可能性もあります。ただ、同じような取り組みのパート2になるかもしれません。とにかく、アキバはどこかで線を引かないと無限に広がってしまう地域なので、最初は焦点がぼやけないように“開発エリアを中心とした駅周辺”に限定しようということです。

――現在、秋葉原電気街振興会などで行っているPR事業は、秋葉原TMOが代わりにやるようになるのでしょうか?

山口氏 いえ、その場合は秋葉原電気街振興会とパートナーシップを結びます。秋葉原TMOが独自で何かやるというより、いろいろな団体と連携・協力しながら事業を進めることになります。


 ちなみに、秋葉原電気街振興会は秋葉原TMOについて「主は難しいかもしれませんが、要望があれば対応します。さまざまな立場で協力できればと思います」と話しており、明言は避けたものの、積極的に協力関係を結ぶ意図があることを明かしている。

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