iPhoneが出たりもしたけれど、Newtonはまだまだ元気ですNewton環境がオープンソースで復活

» 2007年07月11日 12時45分 公開
[林信行,ITmedia]
第3回WWNCは、写真中央の斉木啓之氏の呼びかけで日本で開催され、20人近くが集まった。斉木氏はNewtonが開発中止になった後から使い始めた新米Newtonユーザーだが、昨年Apple Store Ginzaで開かれたEinstein Nightに感激し、今回の会を企画した。第4回のWWNCは再びヨーロッパで開催される予定だ(時期と場所は未定)

 アップル往年のPDA、Newtonの動作を今日のPC上で再現するエミュレーターソフト「Einstein」が、「Open Einstein」としてオープンソースで復活した(GPL v2ライセンスにて公開)。発表は7月7、8日の2日間に渡って開催された第3回「Worldwide Newton Conference」(以下、WWNC)のセッション中に行なわれた。

 Einsteinはフランスの研究者、Paul Guyot博士(ポール・グヨー)が進めていたプロジェクトだ。講演中にGuyot氏は、Einsteinプロジェクトの歴史を振り返りつつ、まだ動作速度やホスト機能(エミュレーターを実行するコンピュータのハードウェア機能)との融合といった点で改善の余地があると語り、オープンソース版の「Open Einstein」を発表。オープンソース化の成果の1つとして、ドイツから来日中の独Robowerk代表、Matthias Melcher氏(マティアス・メルヒャー)が前夜のうちに「Einstein」環境をCygwinとX11をインストールしたWindows環境に移植し、デモを行っている。

 なお、時間の関係でインテルMacに最適化したUniversal Binary版の提供は行われていないものの、公開したソースコードにはUniversal Binary版のコンパイル(作成)方法の書類も添付している。

 ほかの多くのエミューレーターがそうであるように、Einsteinの実行にも著作権のかかったNewtonのROMのデータが必要だ。Newton OS 2.1を搭載したNewton MessagePad 2000、2100またはeMate 300を所有しているユーザーが、特殊なハードとソフトを使ってROMのデータを吸い出し、そのデータを併用すると、MacやWindows、OpenZaurusというソフトをインストールしたシャープのZaurus、Nokia Internet Tablet、(CygwinとX11をインストールした)Windowsの画面上にNewtonの画面が現れ、スタイラスペンやマウスを使って手書き文字認識を含む、Newtonの操作をそっくりそのまま再現できるようになる。

Einsteinの開発者であるPaul Guyot博士は、Newtonエミュレーター「Einstein」プロジェクトのオープンソース化を発表した。開発から手を引くのではなく、オープンソース化することで高速化や多プラットフォーム対応、ハードとの親和性を高めていきたいと語る(写真=左)。初代NewtonからiPhoneにいたるハードの歴史の変遷を振り返るGuyot博士。最適化が進めば、iPhoneでも十分Newtonのエミュレーションができるはずだという(写真=中央)。PowerBook G4(PowerPC G4)のMac OS X上のEinsteinでNewton OS 2.1を動かしているところ。これは起動直後に現れるスタイラス調整画面(写真=右)

 パリ、ニューヨークに続いて東京で開催された今回のWWNCでは、ほかに日本を代表するNewtonプログラマーの温井真氏(Mac OS XやUNIX、Linux上で、Newtonのプログラミング言語、NewtonScriptを実行するnewt/0の開発者として知られる)や、上述のMatthias Melcher氏、主催者のSai氏らも講演を行った。そしてカンファレンスの最後では、日仏独それぞれの代表として温井氏、Guyot氏、Melcher氏の3氏による座談会が行われた。

 WWNCでは、Newton用につくられたプログラムを、エミュレーターウィンドウを介さず、今日のパソコンのネイティブウィンドウ環境で実行する「NewtView」も発表された。EinsteinがインテルMac上にWindows環境をまるごとインストールするParallelsに似たソリューションだとすると、NewtViewは、Mac OS X上でWindows用ソフトを直接実行するCrossOverに似たソリューションと言える。

 Einstein開発者のGuyot氏も、Newton実行環境をウィンドウ内にとどめてしまう今日のEinsteinでは物足りないと考えているようで、Einsteinとは別に「Relativity」という技術の開発も行っている。

 これはEinsteinとホストコンピューター上の資産を融合するためのプロジェクトで、Relativity技術によって、例えばエミュレーションしているNewton環境からホストコンピューターで動作するiTunesを操作したり、ホストコンピューターの文字入力機能を使ってNewton環境に文字を入力したり、逆にEinsteinを使ってホストコンピュータのワープロソフトに手書きで文字入力をしたり、といったことが可能になるという。

Einstein上で動くNewton OSを使って、マウスで手書きした文字を認識させているところ。Guyot氏のもう1つのプロジェクト「Relativity」が完成すれば、Macの文字入力環境からEinsteinに文字を入力したり、Newtonの手書き認識でホストパソコンに文字を入力したりといったことも可能になる(写真=左)。プロジェクション用カメラの画質の問題で写真はぼやけてしまっているが、Windows+cygwin+X11環境で動作するEinsteinも披露された。WWNC初日を使って移植が行なわれたという(写真=中央)。WWNCの会場にはめずらしいNewtonやNewton関連グッズがズラリと並び、最後のジャンケン大会では透明モデルを含むNewton MessagePadのプレゼントも行なわれた(写真=右)

独仏日を代表するNewtonプログラマーによる夢の座談会が実現。左から開発環境DyneTKを開発したMatthias Melcher氏、EinsteinとRelativityを開発したPaul Guyot博士、赤い服の男性が今回は通訳に徹した日本を代表するもう1人のNewtonプログラマーのBasuke氏、そして右がNewt/0とNewtViewを開発した温井氏

 座談会のもう1人の参加者、独のMelcher氏はNewton用ソフト開発環境の「DyneTK」を紹介した。Guyot氏は、「Newton環境に対する三者のアプローチはそれぞれ異なっているが、競合するものではない、今後、三者が手を取り合っていくことで、Newton環境の再現はさらに進むだろう」と抱負を語った。

 会場にはiPhoneも登場し、来場者は興味津々の様子だったが、「iPhoneはiPhoneですばらしいが、PDAとしての完成度の高さではNewtonも負けていない」という声も聞こえた。

 温井氏はTVとPCを比較したスティーブ・ジョブズ氏の有名な言葉を模して「iPhoneは頭をオフにして使う道具、Newtonは頭をオンにして使う道具」と評した。もっとも、Guyot氏はEinsteinプロジェクトのオープンソース化によって、いずれはiPhone上でもEinsteinが動作すればと望んでいるようだ。

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