木製キーボードの自作キット「木ーボード DIY Kit」(前編)では、パッケージの中身を確認したところで終わってしまったが、その後編では、実際の製作風景を見ていきたい。同時に、四面楚歌(そか)の状況下に置かれたライターの心の機敏を察していただけると幸いだ。
まず木ーボード製作にあたっての最初の難関は、(みなさんがご想像の通り)89個の木ートップを切り離すことだ。今回のキットは10キーを備えたフルキーではなく、小型タイプなので切り離すキー自体はまだ少なくて済むが、それでも89個の両側面を切る必要がある。つまり最低でも合計188回はノコギリで木ートップを切り離さなければならないわけだ。しかも相手は親指ツメサイズに近い木ートップであり、切り離す際には押さえつけるだけでも余分な力が必要になる。
ノコギリは刃渡り約9センチで、全長が約19.5センチ、重量が約50グラムと小ぶりで取り回しがよい半面、刃渡りはもう少し長い方がよく、手のサイズが大きな人にはやや握りにくい印象だ。付属してくる道具にあまり欲張ったことは言えないが、さすがに木ートップを30個ほど切ると息切れしてしまった。見かねたギャラリー(仕事をほうけた観客)が数人手助けしてくれるものの、たった数個の木ートップを切り落としただけでギブアップしてしまうありさまだ(ノコギリの名誉のために記すが、これはギャラリーの根気があまりに不足しているせいだ)。
さらに、これと同様のことは工程3にも当てはまる。サンドペーパーを使ってノコギリで切断した188カ所を荒削りするのはもちろん、さらに微調整で木ートップの周囲を磨く必要があり、まさに“にわか職人”の気構えと忍耐が欠かせない。
パッケージには150番と240番のサンドペーパーが入っており、バリなどを削り取るが、いかんせん木材のため、気を許すとアッというまに深く削れてしまう。力のいれ具合は慎重に気を配りたい。仕上がった際の見た目に直結する工程のため、時間が許す限りこだわりたいところだ。
続いて待ちかまえる試練は、木ートップ1つ1つにジョイントパーツを取り付ける工程だ。こちらも、ただ木ートップの裏面にジョイントパーツをはめ込むだけで済む……訳にはいかない。
というのも、キーの位置によって取り付けるジョイントパーツが微妙に異なる上に、同じジョイントパーツでも差し込む向きが異なっているからだ。大まかに分けると、主要キーはジョイントパーツLを、それ以外はジョイントパーツSとなり、後者は場所によってジョイントパーツの向きが90度違う。そのうえ、これらを間違えずにはめ込むだけでなく、冒頭で述べた小型ハンマーとマイナスドライバーを使ってジョイントパーツを文字通り“たたき込む”作業が待っている。
ここで組み立て説明書を見ると、“1つのジョイントパーツについて5カ所をたたくべし”との達しが書かれている。つまり91個(スペースバーが3個のジョイントパーツを必要とするため)×5カ所で450回以上の“たたき込み”が求められる計算になる。木ートップ自体が小さく、ハンマーとマイナスドライバーも小柄(ハンマーは全長が約8.9センチ、約38グラム、マイナスドライバーは全長が約8.9センチで重量が約35グラム、グリップの直径が約3.1センチ)なので作業はどうしてもチマチマとしたものになるが、慣れるとクセになってしまうのが不思議だった。ただ、あまり力を入れすぎると木ートップが割れる可能性があるので要注意だ。
次はスペースバーやBackSpace、Enter、Shiftキーといった長めのキーの裏面に反発材としてスポンジをはり付ける作業に移る。サンドペーパーで削った量によって微妙にサイズは違うが、長さはスペースバーが70ミリ、右Shiftが23ミリ、左ShiftとEnter、BackSpaceキーが27〜28ミリほどとなり、横長になっただけキーの反発力が減る分をスポンジで補強する形だ。
スポンジにはあらかじめ両面テープがはられているため、はく離シールをはがすだけで簡単にはり付けられるのだが、キーの平行度やスポンジがほかのキー部分にはみ出さないように微調整しなければならず、なかなか骨が折れる。とはいえ、この工程までくると、ようやくキーボードらしくなってきた気がする。
これまでは地味でコツコツとした工程が続いたが、最後の難関(あるいは意外な伏兵)といえるのが、工程7の両面テープの張り付けだ。これはキーボードユニットにある各突起1つ1つに両面テープを切ってはることで、木ートップとジョイントパーツの接合を強化する目的で行う。
しかし、両面テープを細かく切ったり、両面テープのはく離シートをはがす手間がなかなか侮れず、今まで以上にチマチマとした「言うは易く行うは難し」を地でいく工程であるのは間違いない。もっとも、これを乗り越えればあとは木ートップをキーボードユニットにはめ込むだけで終了だ。いや応にも期待が高まるのものの、両面テープを91回切って、はく離テープを91回はがすことを考えただけで、なぜか意識が薄れてしまった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.