AMDは3月27日に、Phenomの新ラインアップを発表した。かねてから登場が待たれていたB3ステップを採用したクアッドコアのPhenom X4 9000シリーズだけでなく、コストパフォーマンスで期待されるトリプルコアのPhenom X3 8000シリーズ、クアッドコアの省電力タイプとなるPhenom X4 9100eなど、エンドユーザーからも、待望されていたモデルが一気にそろった(ただし、高クロックモデルはまだ姿を見せていないのが気になるところだ)。
CPUのモデルナンバーでは、計画段階で予告されていたものの、正式発表時になくなっていた「X4」「X3」の型番が復活し、クアッドコアのシリーズは「Phenom X4」、トリプルコアのシリーズは「Phenom X3」と命名される。また、B3ステップの採用によって、同クロックのB2ステップモデルのモデルナンバーに「50」を加えた値が付与されているので、B3、B2ステップの区別は容易にできる。
今回登場するラインアップは、クアッドコアのPhenom X4 9000シリーズが「Phenom X4 9850 Black Edition」「Phenom X4 9750」「Phenom X4 9650」「Phenom X4 9550」の4モデル。そして、その低消費電力版となる「Phenom X4 9100e」が加わる。Phenom X4 9850 Black Editon」は、これまでのBlack Editionと同じように、CPU動作クロックの倍率が変更できるようになっている。TDPは、Phenom X4 Black Editionで125ワット、9750、9650、9550で95ワット(ただし9750はOEM向け出荷版の値。リテール向けにはTDPが125ワットの製品を出荷するとAMDは説明している)、低消費電力モデルのPhenom X4 9100eは65ワットとされている。いずれも65ナノメートルプロセスルールを採用して構成トランジスタ数は4億5000万個に達する。ダイサイズは285平方ミリ。コアの駆動電圧は1.2〜1.3ボルトだが、Phenom X4 9100eは1.1〜1.25ボルトで設定される。
今回登場するラインアップにはトリプルコアのモデルとして「Phenom X3 8600」「Phenom X3 8400」も用意される。コアごとに割り当てられる2次キャッシュは512Mバイトとクアッドコアと同じなので、ダイ全体では1.5Mバイト実装されることになる。また、ダイで共有される3次キャッシュの容量はクアッドコアモデルと同じ2.0Mバイトだ。TDPはともに95ワット。また、65ナノメートルプロセスルールを採用して構成トランジスタ数が4億5000万個、ダイサイズは285平方ミリというスペックもクアッドコアと同じだ。ただ、コアの駆動電圧は1.1〜1.25ボルトとPhenom X4 9100eのレベルに下げられている(しかし、TDPが通常版のクアッドコアPhenomと共通であることに注意)。
モデルナンバー | 動作クロック | TDP | 2次キャッシュ | 3次キャッシュ | HyperTransportスピード |
---|---|---|---|---|---|
Phenom X4 9850 Black Edition | 2.5GHz | 125ワット | 2.0Mバイト | 2.0Mバイト | 4000MHz |
Phenom X4 9750 | 2.4GHz | 95ワット | 2.0Mバイト | 2.0Mバイト | 3600MHz |
Phenom X4 9650 | 2.3GHz | 95ワット | 2.0Mバイト | 2.0Mバイト | 3600MHz |
Phenom X4 9550 | 2.2GHz | 95ワット | 2.0Mバイト | 2.0Mバイト | 3600MHz |
Phenom X4 9100e | 1.8GHz | 65ワット | 2.0Mバイト | 2.0Mバイト | 3600MHz |
Phenom X3 8600 | 2.3GHz | 95ワット | 1.5Mバイト | 2.0Mバイト | 3600MHz |
Phenom X3 8400 | 2.1GHz | 95ワット | 1.5Mバイト | 2.0Mバイト | 3600MHz |
先ほども述べたように、今回登場したラインアップは、TLBエラーを修復したB3ステップの採用が大きな特徴となる。では、B3ステップによってパフォーマンスに何かしらの変化が出るのだろうか。B2ステップのエラッタ対応のBIOSを用いると、パフォーマンスが低くなることが知られているが、B3ステップによって、エラー回避の処理(TLBの無効)がなくなるためパフォーマンスが改善されると期待されていた。
AMDの資料によると、主要マザーボードベンダーの製品のうち、
MSI | K9A2 Platinum |
---|---|
GIGABYTE | GA-MA790FX-DQ6 |
ASUS | M3A32-MVP Deluxe |
GIGABYTE | GA-MA78GM-S2H |
ASUS | M3A78-EMH HDMI |
MSI | MS-7501 |
ECS | RX780M-A(A770M-A) |
以上のAMD 790FX、AMD 780Gマザーでは、B3ステップに対応したBIOSが用意されていて、載せているCPUがB2ステップなのかB3ステップなのかを判断して、(BIOSの設定でTLB処理の有効無効、そして自動切り替えの項目が存在すれば)TLBの処理を切り替えるという。ITmediaでは、B2ステップのクアッドコアPhenomのエンジニアサンプルと、B3ステップのPhenom X4 9850 Black Editionを評価用として用意できたので、倍率設定を変えつつ、同クロック動作のB2ステップとB3ステップのPhenomでパフォーマンスの違いが出るのか確かめてみた。
なお、一連のイマイタレビューでは、笠原一輝氏によるCPUレビューを掲載しており、その中では評価用機材とベンチマークテストの項目をそろえている。しかし、今回に限っては評価期間が(常識をおもいっきり逸脱するぐらいに)短かったため、それらの条件とは異なる、「簡易バージョン」で測定している。また、Black Editionということで、オーバークロック設定でどこまで上げることができるのかを知りたいユーザーも多いと思うが、これについては、また別な機会に検証を行ってみたい。
評価に用いたマザーボードは、これまでもPhenomレビューのプラットフォームとして登場しているASUSのAMD 790 FXマザー「M3A32-MVP Deluex」だ。BIOSは最新の「0801」を適用してある。B3、B2ステップとも「素」の状態でどのような挙動をするのかを確かめるべく、TLBエラッタの対応設定は「AUTO」にした。ベンチマークテストとしては、PCMark05のCPUとMemoryの項目、3DMark06のCPU、CrysisのCPU_Benchmark2、CineBench 10と、CPUのパフォーマンスに特化した項目を選んで測定を行っている。
B3ステップのPhenom X4、B2ステップのPhenomは、ともに倍率変更を行って、9850、9750、9650、9550相当と、9800(は存在しないが、仮に2.5GHz動作のB2ステップPhenomがあったとした場合)、9700、9600、9500相当に動作クロックを変更してベンチマークテストを行った。それぞれ、測定ごとに結果値に揺れが出るので、複数回測定してその中間値を比較用のデータとして採用しているが、それでもB2ステップとB3ステップの間に顕著な差は表れていない。
いきなりのBlack Editionの投入や(ただ、最上位モデルというおかげで、これまでの“お得な黒版”から“プレミヤムな黒版”というイメージになり、通常版のラインアップに与える影響はそれほどないかもしれない)、依然として、2.60GHz以上の高クロックモデルが登場しないという、やや疑問を感じる点もあるが、待望の低消費電力タイプのクアッドコアやトリプルコアの登場など、インテルのラインアップにないアドバンテージも加わった。B2ステップのTLB問題で、Phenomはだいぶ停滞してしまったが、春がくると同時に、Phenomもようやく本格的に離陸できそうな予感がしてきた。
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