「Nettop」「Netbook」は中国人の購買欲を刺激する?山谷剛史の「アジアン・アイティー」

» 2008年04月09日 09時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

やっぱり中国メディアに注目されないIDF

IDF上海の基調講演では新しいClassmate PCとして採用されたNetbookも披露された。学校で大量導入される予定だが実際にそれができるのは限られた学校になるという

 2007年のIDF北京に続いて2度目の中国開催となったIDF上海、しかし中国メディアの反応は今回も「いまひとつ」だ。IDF上海を集中的に報道していたメディアは、中国の代表的なIT系ポータルサイトでも2サイトに限られた。そのほかIDF上海を単発的にリポートするメディアの多くは、中国Intelの実績や、「Atom」関連の話題、それに展示された製品(特に中国メーカー)を紹介している。

 中国のIT系メディアが取り上げるPCの話題は、半導体のトレンドといった極めてテクニカルなところではなく、PC本体やPCパーツなどの価格やベンチマークテストの値などの「いかにコストパフォーマンスが高いか」というところに注目する傾向がある。したがって、中国で開催されたIDFにもかかわらず、IDFのテクニカルセッションに関する解説記事は日本のメディアに比べて少ないのだ。

 中国メディアが最も紹介したIDF上海関連の話題が「Atomの原価がいかに安いか」だったのだ。「中国国外のWebサイトによる“噂”によれば、Atomの原価はわずか6ドルであり、それを数十ドルで売りつけるなんて暴利だ」という記事が多数のメディアに掲載されている。ただ、その記事に対する読者の反応は「研究開発費もかかっているのだから当然。記者は何も知らないのか」とメディアの煽りを冷静に受け流しているようだ。

 展示された中国メーカーの製品で注目されたのがaigo(愛国者)が出展したMID、そしてファウンダー(方正)のEee PCの対抗製品「BiG1」と、同社がIntelと共同で開発したNetbookだ。さらに、レノボのMID「IdeaPad U8」も中国市場向けではないものの中国メディアに数多く取り上げられていた。

中国人の「PCお買い物心理」に合わないNettopとNetbook

NettopもNetbookも「万能」というわけでない。月給のほとんどを費やして「制約」があるPCを買う気になるだろうか

 IDFが開催された上海は、超高層ビルが林立する大都市であり平均所得は中国で最も高い。しかし、それでもその額は日本円にして5万円程度だ。5万円のデスクトップPCを購入すれば1カ月分の月収が、10万円のノートPCを購入すれば2カ月分の月収が消えてしまうことになる。中国人の感覚からすると、「どうせ高い買い物ならば、できるだけハイスペックのものを購入して長く使いたい」というのがPCを買うときの心理となるそうだ(ただし、ソフトウェアを買うときは別)。

 それゆえ、中国ではPCを選ぶときに「機能を絞ったバリュークラスのセカンドマシンよりは、オールラウンド的なエントリークラス」「一番安いモデルよりはその上のモデル」「マイナーメーカーよりサポートが期待できるメジャーメーカー」を購入する傾向が強い。

 中国でPCを大量に購入するとしたら、それは企業でなくネットカフェだ。中国の現状として、「ネットカフェ=PCオンラインゲームセンター兼海賊版コンテンツ劇場」であるから、PCのスペックでほかのネットカフェに負けるわけにいかない。そのため、ネットカフェにNettopが大量に導入されるとは考えにくい。

 もっとも、企業用としてNettopやNetbookが導入されることがあるかもしれない。ただ、これも“中国特有の事情”でなかなか難しいものがある。北京であれ地方都市であれ農村であれ、中国では職場のPCが半ば私物化されている。どこの役所やオフィスでも、PCを操作する担当者のPCには、仕事用のソフトが動いているその片隅でゲームやチャットのウィンドウが開いている。Nettopが会社の仕事用PCとなるには、オフィスワークをこなしつつ、同時にゲームやメディアプレーヤーやチャットなどなど、マルチタスクでこなさなければならないのだ。NettopやNetbookにそういう“重い”処理をこなせるかは疑わしい。

インテルはNettopやNetbookの構成や価格イメージにガイドラインを設けている。しかし、“全国区”でないマイナーメーカーの製品は過去の「安かろう悪かろう」というイメージで中国の消費者から見られてしまうだろう

 チャットやWebブラウジング、カジュアルゲームを“たしなむ”程度のユーザーなら、セカンドマシンではなく、1台目のPCとして選ばれる可能性はありそうだ。ただ、この場合も条件がある。地域密着型のマイナーブランドやショップブランドではなく、レノボなどの超メジャーPCメーカー、もしくは、低価格至上主義でも神舟などの有名なPCメーカーが出すなら売れるだろう。中国でマイナーメーカーのPCとなると、どうしても「価格を下げたいがためにスペックを下げすぎたPC」というイメージが強い。中国でもそういうスペックでは敬遠されてまったく売れなかったのだが、そのために「マイナーPCの低価格PC」となると、たとえインテルがガイドラインを示しているNettopやNetbookであっても、同じような目で見られてしまうのは必至なのだ。

 IDF期間中に、中国メディアの「第一財経日報」が神舟のCEOである呉海軍氏にインタビューしている。呉氏の意見は中国人の気持ちを実によく表している。

「IntelはAtomを搭載したNetbookを2台目のノートPCとして考えているが、中国の消費者に最も必要なのは、2台目ではなく1台目のノートPCだ。1台目のノートPCを購入するとき、(何も知らないユーザーは)スペックに対してそれほど高いものを要求しない。しかし2台目を購入するとき、スペックに対する要求は一段と高くなる。それはユーザーが(1台目のノートPCを使っているときより)さらにいい体験をしたいからだ」

 中国人がPCを買うとき、それがNettopであろうとNetbookであろうと「高価な買い物」になる。どうせ高い買い物になるならハイスペックの製品を求める。そして、彼らが2台目を買うとき、それはセカンドマシンではなく、やはり「主力マシン」になる。そういう中国で、1台目のPCとしても2台目のPCとしてもNettopやNetbookを買ってもらえることは、甚だ難しいのではないだろうか。

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