Windows 95ブームとラックアクセサリの関係─アーベル「COMPIT」シリーズ山口真弘の「PC周辺機器クロニクル」第2回

» 2008年05月26日 17時15分 公開
[山口真弘,ITmedia]

Windows 95ブームと一体型PCブームに乗ってやってきた

 Windows 95ブームに沸く1995年末から1997年にかけて、Windows 95を搭載した一体型デスクトップPCが売れた。PCショップだけにとどまらず、当時は大手スーパーや文具店の店頭でも一体型PCがズラリと展示され、コンスタントに買い求められていたのである。

 当時はまだインターネットやメールはそれほど注目を集めておらず、プロバイダも、リムネットやベッコアメなど数社がしのぎを削る中、「Windows 95のデスクトップ上にアイコンを置く」という荒業でMSNが参戦し、ようやく本格的な競争が始まろうとしていた。こうした中、PCメーカー各社は多彩なハードウェアを市場に投入し、PCショップも稼ぎどきとばかりにセールスに躍起になっていた。余談だが、当時メモリは16Mバイトあれば贅沢、32Mバイトあればエグゼクティブ、とされた。

 このころ、PCとセットでよく売れた商品が2つある。1つはカラーインクジェットプリンタだ。エプソンのPM-700C、という型番を聞くと、あー、ちょうどそのころか、と懐かしく思う人もいることだろう。ちなみにPM-700Cが登場したのは1996年末。Windows 95が登場してからちょうど1年後のことである。

 そしてもう1つ、PCとセットで売れた定番商品が「パソコンラック」だ。当時の一体型PCは液晶ではなくCRTを採用しており、本体の奥行きは50センチに迫ろうかというサイズであった。そのため、リビングテーブルや学習机の上に設置するのはまず不可能だった。そのためユーザーは、CRTタイプの一体型PCを独立して設置でき、かつ、上部にプリンタを設置できるPCラックを購入していたのである。安価なチェアとセットで1万円前後で売られていたPCラックを、いまなお使い続けている家庭も多いことだろう。

 こうしたPCラックが全盛の当時、それまでなかったカテゴリーの周辺機器が、PCショップのアクセサリ売場にひょっこりと姿を現した。それが今回紹介する「COMPIT」(コムピット)シリーズだ。すでに市場から姿を消したこの製品がデビューするに至った経緯、そして当時のPCアクセサリ市場に与えた影響について、今回は紹介したい。

PCラックに取り付けて使う「ドリンクホルダー」や「灰皿」って……

 「COMPIT」「コムピット」というブランド名を聞いて、どんな商品かすぐに思いつくユーザーは少ないだろう。が、ラックのフレームに取り付けるドリンクホルダー、灰皿、書類スタンドなどの多様なラインアップをそろえる濃緑色で統一されたアクセサリと言えば、その姿を思い出すユーザーは多いはずだ。

 当時、アーベルはメジャーなPCアクセサリメーカーではなかった。正確なデータが手元にあるわけではないが、エレコムとサンワサプライという2強は現在と変わらず、ほかに東京ニーズやジャスティ、ロアスなど、二番手グループが群雄割拠しているという状況で、アーベルはその中の一社にすぎなかった。

 しかし、COMPITの登場によって、この状況に変化がもたらされる。Windows 95ブームで広がった初心者ユーザーをリピーターとして取り込みたい販売店と、COMPITという新しい切り口の製品で販路を開拓したいアーベルの方向性が一致したおかげで、ラックアクセサリというジャンルを形成することになるCOMPITシリーズは、みるみるうちにPCショップを席巻していく。

 あわてた競合他社が対抗製品を投入して巻き返しを図るころには、それまでメジャーとは言えなかったアーベルは多くのPCショップと取引口座を開き、COMPIT以外の同社ブランドが店頭にたくさん並べられるようになったのだ。二番手グループから抜け出たアーベルは、全国区のPCアクセサリメーカーとして、その地位を固めていった。

アーベルブランド存続の立役者

 そのころの一般的なPCラックは、横幅がおよそ65センチで、キーボードとマウスを並べて置くのが精一杯というサイズで、ドリンクや灰皿を置くスペースはまったくといっていいほどなかった。1997年にNECのPC98-NX、そして1998年にiMacが登場してからも、こうしたスリムタイプのPCラックの売上は依然衰えることなく、COMPITシリーズも快調に販路を広げていった。

 当時、筆者があるPCショップから得ていた情報によると、COMPITシリーズが店頭で順調に数がさばけていたわけではなく、ラインアップには不動在庫になっていた製品も多かったようである。なにせ、カップホルダーで実売1000円前後、灰皿で1500円前後というのは、コストパフォーマンスからいって割高な感は否めない。PCショップの奥で専用什器がホコリをかぶっている姿は、いまだ筆者の記憶に残っている。

 とはいえ、アーベル製品の取扱店舗を爆発的に増加させたのは、このCOMPITであるのは間違いない。PC本体の流行とは関係のないところでこれだけ反響のあったサプライ製品は、過去10年ほどを振り返っても、本製品のほかではエレコムのぬいぐるみクリーナー「Groomy」くらいしか思い浮かばない。アーベルという会社自体はその後コクヨが資本参加したのちにバッファローに吸収されて社名こそ消滅してしまった。しかし、その後もアーベルブランドが存続しているのは、このCOMPITシリーズの功績が大であると言えるだろう。


ドリンクホルダー、灰皿、マウステーブル、キーボードスタンドなど「COMPIT」シリーズの中核をなした製品群。このCOMPITシリーズに関する検証は、製品単体としての切り口よりも、むしろマーケティング的な切り口で分析されるべきなのかもしれない。残念ながら当時の関係者にインタビューができなかったので、あれだけの商品群を一気に投入できたマーケティング的な判断の背景については不明なままだが、いつか、こうした視点からも、COMPIT誕生の裏事情について紹介したい

山口真弘氏のプロフィール

1971年生まれ。PC周辺機器メーカー2社で10年近く販促と広報を担当した経歴から、業界内におけるユニークな製品やサービスに明るい。現在はPC周辺機器関連のレビュー記事を執筆しつつ、Webユーザビリティのコンサルタントとしてセミナー講師を務めるなど、活動は多岐に渡る。ITmedia Biz.IDでは「3分LifeHacking」の執筆も担当している


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