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普通紙でもカラー印刷が美麗な複合機――「PIXUS MX7600」を試すキヤノンの新機軸(1/4 ページ)

» 2008年08月04日 17時15分 公開
[小川夏樹,ITmedia]

キヤノンが提案するインクジェット複合機の新しいニーズ

キヤノン「PIXUS MX7600」

 ビジネス向けの複合機市場では、インクジェット/モノクロレーザー/カラーレーザーと出力方式の異なる製品が存在するが、ユーザーへの訴求ポイントとしては「高速印刷」「ネットワーク対応」「両面印刷」「低コスト」「エコ」といった共通項を持つ。

 実際、ビジネス向け複合機ではこうしたポイントが重視されるので、市場には「低価格でも高速出力!」などという売り文句の製品が横一線に並んでいる印象だ。競合機種が同じ条件で戦い続け、製品が徐々に進化していくことは、ユーザーにとっても歓迎すべき点である。こうした競争で各社の新モデルでは、従来より高速出力が可能となり、なおかつ安価になるというメリットがある。

 しかし、売り文句が同じで画一的な製品ばかりになると、市場が固定化してしまう懸念もある。そこで、こうした訴求ポイントとは別のポイントがないかユーザーの反応を見る製品や、新しいニーズを掘り起こすような製品を開発して市場に投入することで、新たな波を作るといった市場への挑戦も必要だ。

 こうした市場への新たな挑戦という趣の強い製品が、今回紹介するキヤノンのインクジェット複合機「PIXUS MX7600」(以下、MX7600)である。MX7600は世のビジネス向け複合機が共通で持つ訴求ポイントとはまったく異なる特徴を強く押し出す。家庭向けインクジェットプリンタ「PIXUS」シリーズの複合機(オールインワンモデル)でありながら、唯一“7600”という4ケタの型番を持つことでも異色の存在であることが分かるだろう。

 MX7600のメインターゲットはSOHOで、それ以下の家庭におけるホーム&ビジネスユースには「PIXUS MX850」(以下、MX850)を当て、MX7600と同等かそれ以上の層にはキヤノンの誇るモノクロレーザー複合機「Satera MF」シリーズが担うことで、A4複合機市場全体を細かく網羅できるようになった。ビジネスにおけるカラー印刷のニーズには、レーザープリンタ「Satera LBP」シリーズの豊富なラインアップでフォローする。

 本来なら家庭向けとして見るべきPIXUSシリーズだが、今回はビジネスモデルの視点に立って、MX7600を見ていくことにしたい。

新開発のPgRテクノロジーが普通紙印刷の常識を変える

 MX7600の大きな特徴は、染料カラーインク+顔料ブラックインクの構成が多いPIXUSオールインワンモデルの中で1台だけ5色顔料インクを採用していること、さらに新開発のクリアインクによる普通紙印刷の高画質化技術「PgR」(Pigment Reaction)テクノロジーを搭載していることにある。

 使われる顔料インクのうち、シアン、マゼンタ、イエロー、フォトブラックの4色は、同社のプロ向けA3ノビ対応プリンタ「PIXUS Pro9500」と同じPGI-2系のインクを使用。これに、新開発のマットブラックインク(PGI-1BK)と普通紙カラー印刷の品質向上に使うクリアインク(PGI-2Clea)を加えた合計6インク構成としている。

シアン、マゼンタ、イエロー、フォトブラックの4色のインクと比較して、モノクロ文書の印刷に使うマットブラックインクは大きい(写真=左)。新開発のクリアインクのタンクは大型で、プリントヘッドとは別の場所に格納する(写真=右)

 さて、MX7600の目玉である「PgR」テクノロジーについて説明しておこう。PgRを簡単にいえば、「顔料インクで普通紙へ写真やグラフィックスをカラー印刷した際の品質を大きく向上させる技術」となる。

 これを実現するのに必要なのが、前述した新開発のクリアインクだ。インクの染み込みやすい普通紙の表面全体にこのクリアインクを塗布することで、顔料インクを用紙の表面近くで定着でき、顔料インク特有のきれいでシャープな出力を最大限引き出すことが可能になる。このため、MX7600は通常のインクジェット機構以外にPgR専用の機構を新設している。それが、クリアインクタンクとそれを用紙に塗布するローラー&ローラーキャップといった機構だ。

 PgRは、プリンタドライバやアプリケーションの印刷設定、MX7600本体の液晶ディスプレイのメニューを使った用紙設定で、印刷する用紙に「普通紙」を指定すると自動的に働く。PgRはオフにできず、普通紙では強制的にオンになるが、普通紙を除く用紙では一切使用されない。その働きは以下のようになる。

普通紙の印刷は、底面の給紙カセットからクリアインク塗布用ローラーを通過し、プリントヘッドでドットが打ち込まれるという流れだ

 普通紙は印刷の前段階でクリアインク塗布用ローラーを通過し、その際にクリアインクで用紙表面がコーティングされる。次に顔料5色インクによる印刷が行われるが、クリアインクには多価金属イオンが含まれており、クリアインクでコーティングされた用紙に顔料インクが着弾すると、多価金属イオンの力で顔料インクに化学反応が起き、水分と顔料部分に分離される。水分が乾いたり紙に染み込んでなくなることで、顔料部分が用紙のより表面に近い部分で凝集沈殿し、定着するといった流れだ。

 その結果、クリアインク非搭載の従来機と比較して、高発色でシャープ、なおかつ耐水性や耐マーカー性にも優れるといった、純正の専用紙に近い出力が普通紙でも得られるようになった。一般的に普通紙と呼ばれる用紙はそれこそ種類が多く、紙質にも違いがある。PgRテクノロジーはそうした紙質の違いまで吸収するので、普通紙として一般的に売られている紙であれば、ほぼどんな用紙でも品質が維持されるという。

 改めていうまでもないことだが、PIXUSシリーズは同社純正の光沢紙や写真用紙を使えば、これまでも満足できるカラー出力が行えた。これに加えて、安価で手に入れやすく、ビジネスシーンで常用される普通紙を使ったカラー出力でも高品質を求めるようなユーザーのニーズを満たしてくれるのがPgRテクノロジーということになる。

 「安価な普通紙でもきれいな写真出力」というコンセプトは、MX7600がホーム、ビジネスを問わず、多くのユーザー層に受け入れられる可能性を秘めていることを意味しており、要注目の製品といえるだろう。

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