静かな闘志を秘めた新dynabook――東芝デザイナーの心意気青山祐介のデザインなしでは語れない(1/3 ページ)

» 2008年08月08日 16時44分 公開
[青山祐介,ITmedia]

 東芝「dynabook」シリーズの2008年夏モデルは、デザインを一新し、カラーバリエーションでは従来の黒と白に加え、ピンクが加えられた。インモールドデザイン(成型同時加飾転写工法)を採用したボディは、柔らかで丸みを帯びた形になり、誰にでも受け入れられやすいスタイルになっている。

 新「dynabook」シリーズには、15.4インチワイド光沢液晶ディスプレイを搭載した「TX」と「AX」、13.3型ワイド光沢液晶ディスプレイを備えた「CX」という3つのモデルが用意されているが、2008年夏モデルではデザインがすべて統一されているのも特徴だ。こういった新しいdynabookとしてのアイデンティティを訴求する理由について、デザインセンター デジタルプロダクツデザイン 担当参事の黒川肇巳氏と、守田文雄氏に話をうかがった。

左からdynabook TX、AX、CX

2枚のソフトな板が重なっているというコンセプト

東芝 デザインセンター デジタルプロダクツデザイン担当 守田文雄氏

 2008年夏モデルのデザイン上のポイントは、インモールドデザイン(成型同時加飾転写工法)を使ったフラットかつラウンドなフォルムだ。すでに日本ヒューレット・パッカード日本エイサーなどでも同様な技術は採用されているが、光沢感のある表面には、よく見ると細い線がびっしりと並んでおり、非常に精密で高級感あふれる仕上がりとなっている。また、キーボード奥に並ぶタッチセンサ式のメディアコントロールボタンや、青色LEDランプが淡く光るタッチパッド上部とパームレスト前面のステータスインジケータなどが、さらに高級感を演出するのに一役を買っている。

守田 近ごろはPCに高いデザイン性が求められており、ハイセンスなインテリアにフィットするデザイン、生活に溶け込むデザインが好まれています。そこで、今回のdynabookでは、こうしたインテリアになじみやすいシンプルなフォルムを心がけ、そこに繊細で光沢感のあるディテールを再現できる成型同時加飾転写工法を用いることで高級感を感じてもらえるようにしました。

 パームレスト面にも採用した成型同時加飾転写工法という技術は、ケースを金型で成型する際に、フィルムを挟み込んで同時に成型するというもの。あらかじめパターンを印刷したフィルムと一体にするため、塗装では不可能だった自由なグラフィックス表現が可能だ。すでに、携帯電話や家電製品ではかなり普及している技術なのだが、PCではそのサイズやコストの問題から、これまであまり採用されていなかった。今回のdynabookでは、この成型同時加飾転写工法技術を、液晶ディスプレイ天面とパームレスト面にも採用している。

守田 今回のデザインは、液晶ディスプレイを閉じた状態でも、開けた状態でも同じような表情を表し、まるで連続した2枚の柔らかい板が重なっているというのがコンセプトになっています。PCは液晶ディスプレイを開けるとキーボードがあるため、閉じている状態と開けたときの印象には大きな違いがあって当然でした。デザイナーはそれを利用して、まるで玉手箱を開けたときのように、“開けてビックリ”というデザインワークを好んで提案してきたと思います。でも必ずしもいい意味で“開けてビックリ”とユーザーが感じてくれるとは限りません。

東芝 デザインセンター デジタルプロダクツデザイン担当 参事 黒川肇巳氏

黒川 ユーザーを対象にしたグループインタビューでも、従来のノートPCのデザインだと「液晶ディスプレイを開けたまま置いておきたくない」という意見もあったくらいです。しかし、PC以外のコンシューマー向けデジタルプロダクトのデザインを見ていくと、携帯電話などでは、すでに本体の外側と開けたときのデザインの調和を考えられたモデルが増えてきています。それは作り手の都合に関係なく、純粋にそれがベストだという組み合わせを優先した結果でしょう。それはPCのデザインでも当然やっていくべきです。せっかく外側と内側の両方に成型同時加飾転写工法が使えるならば、今回はそれを全面的に押し出した表現をアピールしたいと思ったのです。

 前述したように、成型同時加飾転写工法は従来の塗装とは違い、あらかじめプリントした柄を成型時に転写できる。そのため、塗装では再現できない大胆な表現もできたはず。しかし今回のdynabookでは、あえて地色と同系色の繊細なストライプを全体にあしらった、上品で控えめな表現としている。

黒川 確かにインモールドデザインは自由な柄を転写できるのですが、もとから柄でデザインをしたいとは考えていませんでした。成型同時加飾転写工法を使うと、光沢感のある表現ができますが、ただ光沢感があるだけだと塗装仕上げのものと代わり映えがしません。いや、むしろ塗装のほうが上質感を出せるといってもいいでしょう。

 しかし今回はそうではないものをやりたかった。「遠くから見ると単色できれいな光沢の質感を持っている。でも、近くで見ると細かな模様が入っていて質感を感じるデザイン」。こういうイメージはファッションの世界ではよく用いられています。遠くから見るとただの黒いスーツなのだけれど、近くで見るときっちり布が織り込まれていたり、細かなステッチが入っていたりしている。そういう遠目での距離感と、近くで見たときの質感を意識した微妙なトーンを最終的には選びました。

液晶ディスプレイ天面のアップ。遠くから見ると1色に見えるが、よく見ると細かいしま模様が描かれているのが分かる

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