PCの世界を制したIntelは、次なるフロンティアを探さなければならない。全世界におけるPCの普及台数が数億台の規模だと考えれば、いまや、1人1台の必須デバイスとなりつつある携帯電話の普及台数はそれをはるかに超えるはずだ。そのような、家電を含むデジタル機器に“組み込まれる”プロセッサの市場の規模が膨大なものとなるのは容易に想像できるだろう。
最近の携帯デバイスやデジタル家電では、インターネットへの接続機能や本来の目的以上の副次的メリットを得るために、高いパフォーマンスと高機能化が求められていている。ゲルシンガー氏のキーノートスピーチで示された説によれば、インターネットに接続できるデバイスの普及台数は2015年までに150億台に達するという。Intelが次なるターゲットとして選んだのは、このような“組み込みタイプのプロセッサ”を搭載するデバイスが主役となる「Embedded Internet」の市場なのだ。
Intelはすでに、このEmbedded Internetの世界に向けた布石を打っている。その代表的なものが2008年春に発表された「Atom」(ただし、組み込み利用を意識したAtomは開発コード名“Silverthorne”になる)だ。携帯電話やMID(Mobile Internet Device)など、組み込み向けとしてはやや高級品となるAtomだが、現状では、Asus EeePCに代表されるNetbookのカテゴリで注目を集めている(とはいえ、こちらは開発コード名“Diamondville”のAtomが主流だ)。
PentiumやCore Architectureで培ったx86系CPUの資産を受け継ぎ、低価格と高性能という2つの強力なメリットを訴求しながら、Intelは組み込み市場を切り開きつつある。そして、Atomに次いで登場したのが2008年7月に発表された「EP80579」(開発コード名“Tolapai”)だ。EP80579はIntel初のSoC(System on Chip)で、CPU本体のみならず、周辺のチップセットがすべて1つのダイに集約された、文字通りチップ上に1つのシステムがパッケージ化されたものとなっている。
SoCのメリットは、部品点数の削減によるコスト削減と小型化の実現で、家電製品一般の購入層に対する訴求力を高めることができる。Intelは、組み込み市場で高機能を訴求するAtomと組み込み市場の最小要件を満たすSoCのラインアップを用意することで、x86系CPUの資産を生かしつつ、Embedded Internet、そしてデジタル家電の市場を攻略していくことになる。
IDFのキーノートスピーチでは、ゲルシンガー氏が組み込みソリューションの一部を紹介している。1つは家の出入り口に設置された監視システムで、マンマシンインタフェースにAdobe Flashを導入して、音声ガイダンスと監視機能のほかに、電気の使用状況の確認など、さまざまな付加機能を用意している。また、MIDのようなインターネットデバイスの機能を持ったホームフォンなど、生活に身近な電子機器を高機能化する試みも紹介された。
また、BMWと協力して開発した車内エンターテイメントシステムが披露された。車社会の米国では、生活時間の多くが車の中で費やされることになるが、この時間をより豊かにするために車内エンターテイメントシステムが求められる。そこで、Intelのシステムでは、通常のカーナビゲーションに備わっている機能に加えて、データベースと連動した観光ガイド機能、車載ディスイプレイによる動画コンテンツの再生など、さまざまな機能が用意されている。
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