実は上で紹介した「瞳の中の男」の画像を作るのは結構大変だった。Deep Zoom Composerは「複数の写真から超拡大可能な1枚の写真を合成する」という用途のソフトウェアではないようで、Hard Rock CafeのMemorabiliaのように複数の写真をタイル状に並べ、ブラウザとしても利用できる1枚のインデックス画像を作成することがメインのようだ。
そのため、Deep Zoom Composerでバストアップの写真に瞳のアップ写真を重ねてもそれをサポートする機能、例えばカラーバランスを調整するとか、透明度を指定して位置合わせをしやすくするといった機能はない。また、PhotoZoomにアップロードした時点で枠線が表示されてしまう(ように思える)うえ、実際に再生してみても後から重ねた映像が先に表示され、スムーズさに欠ける。結局、Deep Zoom Composerは使用せず、バストアップの写真を9000×6000ほどに拡大して、そこに瞳のアップ写真を合成するという手段を取っている。
複数の写真を合成する場合、色合いや明るさは調整可能だが、アングルが変わったりすると不自然でないように重ね合わせるのは不可能だ(特にモデルさんを起用した場合、キュビスムな合成写真を出すわけにもいかない)。写真は2次元であるが、それは3次元を切り取った2次元だ。2次元のアプローチであるDeep Zoomではアングルが異なるという3次元特有のブレを吸収することはできない。
ところで、前述のアニメのシーンの元になったのではないか、と言われているのがリドリー・スコット監督の名作、「ブレードランナー」に登場する情報解析機「ESPER」だ。ハリソン・フォード演じる主人公デッカードは、写真を分析し、鏡の中に写った柱の後にいるレプリカントを発見するのだが、これを見たときは「(写真に写らない)柱の陰に回り込むのは無理があるだろう」と思ったものだ。
しかし、それをすら実現する技術をマイクロソフトは開発している。それが「Photosynth」だ。もちろん、1枚の写真ソースから柱の後に回り込んだ像を分析するわけではないものの、Photosynthでは複数の写真から特徴点を抽出し、3次元の情報を自動的に読み取り、それを元にして写真を立体的に配置した3次元空間を構築することができる。ユーザーはその中をウォークスルーしながら閲覧できる仕組みだ。
これによってDeep Zoomの問題、つまりアングルが異なるとうまく合成できない、合成は手動で行わなければならない、という問題も解決された。もちろん、Photosynthの拡大/縮小にはDeep Zoomの技術が使われており、非常になめらかに遷移する。
百聞は一見にしかず。Photosynthのサイトで実際に体験してみよう。今回は某神社をSynthで構築してみた。Synthの閲覧にはPhotosynthのインストールが必要だ。これには閲覧のためのWebブラウザプラグインと作成のためのアプリケーション(こちらもPhotosynthと呼ばれる)が含まれる。なお、現在のところ対応OSはWindows XPとWindows Vistaのみだ。
画面は一見、直感的に操作できるように見えるが、実際に操作してみると違和感があるのではないだろうか。Photosynthはマウスを使って操作する場合は「3次元空間の中を自由に歩き回る」というよりはむしろ、「3次元空間に配置された写真をブラウズする」といったほうが近く、上下/左右にある矢印アイコンはそれぞれ、現在閲覧している写真の上下/左右にあるとなりの写真を表示する、というものだ。そのため、思ったような移動にならないことが多い。
感覚的な3次元移動をしたいのであればキーボードを利用したほうがいいかもしれない。FPSゲーム愛好者にはおなじみだが、A/D/W/Sキーで前後左右の移動になる。そのほか、ECで上下、「[」「;」「L」「’」で上下左右回転となっている(英語キーボードでは「;」の右隣が「’」)。
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