芸者は電脳フィギュアの夢を見るかアリスの限界と可能性(4/4 ページ)

» 2008年11月06日 12時30分 公開
[瓜生聖,ITmedia]
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オタク扱いされたくない?

 最後に「メイド型電脳フィギュア」という「萌え」製品に対する芸者東京の姿勢について率直な感想を述べたい。

 芸者東京エンターテインメントというユニークな社名は、世界に通じる日本の言葉、それと同時に芸を紡ぐ「クリエイター」の意味をこめた「芸者」と東京大学の「東京」からとったという。

 確かにARisには「東京大学、なるほどね」という印象がある。これは残念ながらほめ言葉ではなく、「研究者としてはすばらしいけど、世間とはズレがあるよね」という凡百なステレオタイプの意味でだ。ARisの想定客層自体、世間からズレがある人たちなのだろうが、それとも違う方向のズレを感じてしまう。ARisを試用していて感じたのは「この人たちはそれほどメイドや美少女フィギュアが好きではないんじゃないか?」ということだ。

アリスのつぶやき。こちらの記事社長のブログと重ねるとちょっと行き過ぎの感が……

 ローディング画面のアリスのイラストは、設定資料では「没イラスト」とある。これを見ると「こんな大事なものを没イラストから拾ってきたのか」と思ってしまうし、魔女っ子服が没になった理由が「イメージがメイド服とダブるからとのことで…。社長!メイドと魔女っ子は別物です!」とある。これはつまり「社長は萌えが分かっていません」とほぼ同義だ。百歩譲っても「社長はメイド萌えが分かっていません」であろうし、それはメイド型電脳フィギュアの販売元として致命的と言えなくもない。

 ベンチャー企業の場合、世間の認識は「社長≒会社」だ。デザイナーの桂氏のために補足しておくと、これはデザイナーの問題ではなく、それを通してしまうチェック体制、「それじゃ“メイド愛”が薄いと思われるじゃないか」という危機感の欠如の問題だ。

 一度そういう印象を持ってしまうと「今回、デザインからモデル作成まで一貫して担当させていただきました」という文も、フィギュアのデザインを外注デザイナーにまかせきりにしているように感じてしまうし、アリスのプロフィールの「父:主税(ちから 東大教授)」も「大学教授と書けば十分だろうに、ずいぶん東大を強調する人たちだな」と思わなくもない。何よりひたすらしゃべり続けるアリスの台詞を聞いていると「おたくってこういうのが好きなんでしょ」と言われているようなあざとさを感じるのだ(個人的な被害妄想だと言う人もいるだろうが)。


 果たして芸者東京エンターテインメントのスタッフのデスクには、(本物の)フィギュアはどれくらい置かれているのだろうか。「技術がすごい」と思われたいのであればともかく、「萌え」でビジネスを展開するのであれば東大という言葉を封印し、「これが男性陣のいやしとなって社会貢献できれば」などという距離を置いた理由ではなく「フィギュアが大好きなので作っちゃいました」と公言してアリスの痛車を乗り回すくらいの気概がほしいと、個人的には思う。

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