スティーブ・ジョブズCEOの代役を務めたフィル・シラー氏による基調講演では、Mac関連の発表が3つ、iTunes関連の発表が3つ行われた。
Mac関連の1つめの話題は、マルチメディア統合スイートの最新版「iLife '09」、2つめは「iWork '09」、そして3つめが新たにユニボディ成形を採用して生まれ変わった17インチ版のMacBook Proだ。
一方、iTunes関連は米国市場向けの発表だった。第1に、これまで1曲99セント均一だった楽曲の販売だが、2009年4月1日から1曲69セントと1曲1ドル29セントの3プライス制になるというもの。ほとんどの曲は69セントになるという。2つめは、iTunes Storeの曲が、今後徐々にDRMフリーになっていき、最終的には全曲DRMフリーになるというものだ。3つめは、これまでWi-Fi接続でしか楽曲が買えなかったiPhone 3G上の「iTunes WiFi Store」が、携帯電話の3Gネットワーク経由でも曲の購入ができる「iTunes Store」に生まれ変わる、という内容だった。
ちなみに、キーノートスピーチを聴講した来場者の中に、スティーブ・ジョブズCEOの姿はなかったようだ。
講演の冒頭、シラー氏は最近、中国やドイツ、オーストラリアなどにオープンした直営店のApple Storeを写真で紹介した。彼は「現在、世界中のApple Storeには、毎週340万人が来訪している。これはMacworld Expo100回分に相当する人数だ。今日、我々はかつて以上にさまざまな顧客との接点を持っている」として、今年がアップルにとって最後のMacworldとなることを強調した。
その最後のMacworld Expoの基調講演を始めるにあたって、シラー氏は「おそらくこれが、最もふさわしいテーマだと思う」と語り、この日の講演はMacについての話しだけにしぼるとして3つの発表を行った。
1つめの発表は「iLife '09」だ。シラー氏は、この最新版に含まれるソフトウェアの中から、新たに写真を「人々」や「撮影地」で分類・整理できるようになった「iPhoto '09」と、細かな映像編集が可能になった「iMovie '09」、そしてピアノやギターといった楽器のレッスン機能が加わった「GarageBand '09」を紹介した。
iPhoto '09では「Faces」と呼ばれる顔認識機能が用意され、登録された写真の中から同一人物の顔を見つけ出し束ねてくれる。また「Places」は、写真に埋め込まれたGPS情報を使って、写真をGoogle Map上に配置表示する。
iMovie '09は、映像や音声をかなり細かい精度で編集できるほか、手ブレ映像からブレを取り除く機能などが新たに搭載された。GarageBand '09では、標準のギター、ピアノレッスンに加えて、StingやNorah Jonesなどの有名アーティストが自らの曲の背景や演奏方法をハイビジョン映像で教えてくれるアーティストレッスンも用意されている。
2つめの発表は「iWork '09」だ。オブジェクト単位でのアニメーションが充実し、iPhoneを使った操作が可能になった「Keynote '09」に加え、フル画面編集に対応した「Pages '09」、そしてアニメーション表示機能やリンク機能が加わった「Numbers」から構成される。リンク機能とは、Numbersで作成したグラフをKeynoteやPagesに挿入した後でも、グラフを更新すれば更新結果が自動的にKeynoteやPagesにも反映される、というものだ。
iWorkに関しては、もう1つ「iWork.com」というインターネットを使ったファイルの共有/共同作業環境のβテストを開始することが発表された。iWork.comで共有された書類はWindowsマシンからでも確認することができる。なお、iLife '09とiWork '09、そしてこれらの動作に必須のMac OS X“Leopard”をセットにした「MacBoxSet」というお得版パッケージの発売もアナウンスされた。
そしてMac関連の発表の3つめは、アルミ削りだしによるユニボディデザインを採用した17インチMacBook Proだ。そのほとんどの特徴は、2008年10月に発表された15.4インチ版を引き継いでいるが、実は一番の特徴は内蔵バッテリーだ。バッテリーの着脱機構をなくした分、容量をつめ込み、駆動時間は従来よりも3時間近く長くなった。このバッテリーは1000回繰り返し充電でき、5年近い寿命を維持できる点も自慢の1つになっている。
Mac関連の3つの発表の後、シラー氏はiTunesに関しても冒頭で紹介した3つの発表を行った。ハードウェアの新製品が乏しい基調講演ではあったが、iLife '09の紹介では、1つ1つの機能を紹介するごとに会場は大きく沸き上がった。
2009年はスティーブ・ジョブズCEO不在の基調講演で、行列も例年に比べると半分ほどの長さだったが、それでも報道関係者は例年のように座席や三脚スペースを奪い合い、iPhotoの顔認識機能などが紹介される度に会場から歓声があがり、会場は端から端までが人でいっぱい。終わってみて振り返ると、「そういえば今回はジョブズじゃなかったんだ」と思うくらいにいつも通りの雰囲気だった(ただし、これはシラー氏がかなりリハーサルを積んでいたこともあるのだろう。これまで何度か見てきたシラー氏の講演の中でも今日は彼が1番のっていた様子だ)。
アップルが次に大きな講演を行うのは、はたしてSpecial Eventか、それともWorldwide Developers Conferenceかは分からないが、良い製品を出せばそれをプレゼンテーションするのがジョブズ氏でなくても、ユーザーはちゃんと反応してくれる、そんなことを実感したMacworld Expo 2009の基調講演だった。
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