「6ビット駆動+FRCは8ビット駆動より階調表現力が劣る」と述べたが、8ビット駆動ならば発色や階調性が優秀とは一概にいえない。液晶ディスプレイで階調表現力を向上させるには、「ルックアップテーブル」(以下、LUT)が重要な役割を果たす。
LUTとは、何らかの計算結果をあらかじめ格納しておく配列のことだ。あるシステムで定型的な計算処理が発生したとき、LUTの値を参照することで、計算処理を省略してシステム性能を高めることができる。
液晶ディスプレイにおけるLUTとは、PC側からの入力信号(RGB各色8ビット)を演算して、液晶ディスプレイ側に適した出力信号(RGB各色8ビット)にマッピングする機能を示す。安価な液晶ディスプレイはRGB各色8ビットのLUTだが、色再現性に注力した液晶ディスプレイはRGB各色10ビットや12ビットといった8ビット超のLUTを備えており、入力信号から出力信号へのマッピングにも10ビット以上の内部演算を採用している。
まずは8ビットを超えるLUTの効能から解説しよう。例えば、カタログに「約1677万色(10億6433万色中)」と書かれた液晶ディスプレイの場合、RGB各色10ビット(1024階調の3乗=10億6433万色)のLUTであることを意味する。具体的には、PCからのRGB各色8ビットの入力信号を、液晶ディスプレイ内部でRGB各色10ビットに多階調化したうえで、最適なRGB各色8ビットの表示色を取り出して出力する。これにより、出力におけるRGB各色のガンマカーブが整い、トーンジャンプや色相ズレが大幅に低減されるわけだ。12ビットLUTならば、約680億色の中から最適な約1677万色を取り出すため、10ビットLUT以上に色再現性と階調特性が向上する。
続いて、RGB各色8ビットの入力信号を、液晶ディスプレイ内部でRGB各色10ビット以上に多階調化する演算処理について述べよう。LUTが10ビットや12ビットでも、多階調化を14ビットや16ビットで演算することで、最終的な階調性がより高精度になる。最終的な出力が8ビットしかないのに、16ビットもの演算精度が必要なのかと疑問に思うかもしれないが、特に低階調域(シャドウ領域)を正確に描き分けるには、内部演算の精度が非常に重要だ。基本的には、内部演算のビット数が大きくなるほど、低階調域のガンマカーブが理論値曲線に近づくと考えてよい。
現在の液晶ディスプレイを見渡すと、比較的安価な価格帯でも、10ビットLUTを備えた製品がかなり増えている。ただし、LUTのビット数を超える演算ビット数を持った製品は、まだ上位クラスの製品のみだ。特に12ビットLUTと14ビット/16ビット内部演算といった最高レベルの処理を行うものは、発色性能を最重視するカラーマネジメント対応の液晶ディスプレイ用の仕様といえる。
実際に8ビットLUT+8ビット内部演算と、10ビット以上のLUT+10ビット以上の内部演算を見比べてみると、思いのほか違いが分かることがある。このクラスの製品は画像制御ICも高性能なものを搭載しているため、画質にバラツキがあるエントリークラスの製品と比べて、高いレベルでの画質差が現れやすいのだろう。黒から白へのグラデーションを表示してみると、多ビットLUT/内部演算のほうがスムーズで、暗部階調の描き分けができる傾向にある。こうした製品では、トーンジャンプや色相ズレが皆無に近く、グラデーションの明暗が自然に描かれてコントラストも安定している。色再現性を最優先する用途にはもちろんだが、少しでも高画質を求めたいという一般的なPCユーザーにも最低10ビットのLUTを搭載した製品をおすすめしたい。
一部のハイエンド液晶ディスプレイは、進化したLUTの「3D-LUT」を採用している点にも注目したい。従来のLUTはRGB各色ごとにLUTを持ち、特定の1色を表現するときにRGB各色のLUTを参照し、それぞれのLUTから取り出したRGBの3色を使って目的の1色を算出していた。
一方の3D-LUTは、RGB各色をブレンドした立体的なLUTになっている(縦/横/高さにR軸/G軸/B軸を割り当てた立方体のイメージ)。LUT上にRGBをブレンドした中間階調のポイントを持つため、中間階調のカラー表現やグレースケールの正確性が向上するのだ。
ナナオのワイド液晶ディスプレイで例を挙げると、ColorEdgeシリーズの「CG242W」が3D-LUTを搭載している。従来のLUTと比較して、中間階調における理論値と実測値の差が非常に小さくなる。
3D-LUTは、カラーマネジメント環境で色域の変換を行うときにも、威力を発揮する。ある色域に割り当てられた約1677万色を別の色域に再割り当てするとき、変換元の色域の情報ロスを最小限に抑えつつ、高い精度で別の色域に変換できるのだ。加えて、RGBのブレンド(加法混色)の色再現性が向上しているため、明度や彩度、色相などを調整するレタッチ作業においても、ユーザーが意図するパラメータ操作と画面上の発色がほぼリニアに対応できる。こうした点は、何よりも正確な発色が求められるカラーマネジメント対応の液晶ディスプレイにおいて、最も重要な性能と機能だろう。
このように液晶パネルの駆動ビット数とLUT、そして内部演算の精度によって、液晶ディスプレイの色再現性は大きく変わってくる。同じようなスペックの製品でも実際に見比べてみることで、予想外に表示傾向の違いが感じられることは少なくない。ディスプレイの画質はカタログのスペック表だけでは決して語れないため、購入前には一度実機を自分の目で確かめておくことを改めておすすめする。
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提供:株式会社ナナオ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2009年3月31日