中国のじいちゃんとばあちゃんがPCを学ぶ山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2009年05月18日 17時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

 最近、中国の都市部では、老年大学(発音は“らおにぇん だーしゅえ”)で自己啓発に取り組む高齢者が多いらしい。筆者が目にする典型的な「中国における屋外の風景」では、中国人の老後は「マージャン、トランプ、太極拳」で完結すると思っていたが、最近では、教養を深めたい高齢者が多いそうだ。

 そういう高齢者が教養を身につける場として存在するのが老年大学だが、最近、口コミで人気が上昇しているのが「PC入門クラス」だ。うーん、ぜんぜんイメージがわかないっ! 中国のじいちゃんばあちゃんに、どうやってPCを教えているのだろう。これは、ちょっと見てみたい。筆者は知人に老年大学に長く通っているAさんを紹介してもらい、彼とともに内陸の地方都市にある老年大学へ潜入したのであった。

中国内陸部にある老年大学。新築できれいな校舎だ。ホテルじゃありませんから

ピカピカの老年大学でピカピカのPCが

 今回潜入した老年大学は「校舎が移転したばかりで新築なんじゃ」ということで、新しく清潔感のある校舎だった。キャンパスという言葉がふさわしい敷地には、中国らしく「亭」(日本でいうところのあずまや)があり、亭の下でおじいさんとおばあさんの集団が二胡の練習をしていていたり、教科書を読んでいたりする。こういう光景は、若者が集う中国の大学でも日常的だ。世代が異なるだけで、老年大学も通常の大学も、雰囲気や集うものの学習意欲はどこか通じるものがある。

 Aさんが通う老年大学の校舎は一棟だけ。その校舎に入ると、入り口には写真や絵画、水墨画といった美術系クラスに所属する生徒の作品が展示されている。校舎の1階から4階までは、普通教室のほか、専用の設備が整ったPC教室、音楽系クラス教室、美術系クラス教室、ダンスなど運動系クラスが使う体育館と、充実している。PC教室は2教室あって、用意されているPCの数はそれぞれ20台と30台が確認できた。PCは生徒の席に1台ずつ設置されているので、生徒は1台のデスクトップPCを授業中占有できる。

生徒が集う“亭”は、中国の学び舎で普通にある建物だ(写真=左)。校舎の入り口では美術クラス生徒の作品が出迎えてくれる(写真=右)

1人1台ピアノが用意されている音楽クラスの教室(写真=左)。運動系クラスのダンス授業で使われる体育館(写真=右)

 Aさんが受講しているのはPC入門クラスだ。この老年大学では「PC入門クラス」「PCレベルアップクラス」「PC中級クラス」「PC画像処理クラス」が行われており、それぞれのクラスは、3月から7月までの44週間続けられる。授業があるのは1週間に1日だが、1コマ45分を午前から午後にかけて4コマこなす。

 気になる授業料は、授業料100元(日本円で1500円程度)に加えて、設備費に150元(約2200円)を支払うので、全部で250元(約3700円)になる。ただし、公務員を定年退職した受講生は授業料の一部が還付されるという。

 250元は日本円で約3700円であるが、経済感覚でいえば日本人の2万5000円くらいに相当する。それでも充実した設備を使って半年間しっかり勉強できるため、「PCとやらを覚えてみるかのう」という高齢者が絶えない。ちなみに私立のPC専門学校は、(カリキュラムにもよるが)だいたい年間で1万元(15万円弱)もかかる。

老年大学PC入門クラスを“誌上”参観

 授業開始の時間が近づいてくると、生徒(といってもじいちゃんとばあちゃん)が続々やってくる。中国の街中で「マージャン・トランプ・太極拳」に興じる高齢者を見ていると、例外なく大声で会話を楽しんでいるのを見ているので、これだけたくさんのじいちゃんとばあちゃんが1つの部屋に集まったら、どんなことになるのかと、半ば恐れつつ観察していたが、意外にも、生徒同士のコミュニケーションはほどんとなく、登校したすべての生徒が、自分のPCのディスプレイと授業で使う教科書を凝視して黙々と予習に励んでいる。

 Aさんは、PCの電源を入れてマウスを動かすのが何とかできるという初心者だが、クラスメートのスキルも似たようなものだと語っている。ちなみに、クラスメートのほとんどが自分の“一人っ子”にPCを買い与えているので、PCが一家に1台はあるという。経済力がないのに家庭内権力者の“一人っ子”が留守にしている時間にPCを触っているそうだ。Aさんは、今年30歳になる一人娘(Aさんは彼女を「家庭の女王」という)に、「老年大学で使うプログラムをPCにインストールしてもいいかね」と聞いたところ、「ダメ」とあっさり却下されたとぼやいていた。

 老年大学のPC教室に導入されているPCは、筆者も過去に購入したことのあるレノボのエントリー向けデスクトップPC「家悦」だ。OSはWindows Vistaでなく、中国でもPCユーザーに根強く支持されているWindows XPだった。また、ビジネスソフトは、マイクロソフトの「Office 2007」シリーズでなく、それより古い「Office 2003」シリーズ、そして、中国産P2Pダウンローダーの「迅雷」がそれぞれインストールされている。さらに、価格が高い「Ulead VideoStudio」や「Photoshop CS」までもがすべてのPCに導入されている。これらが正規版かどうかを調べる前に講師が授業を始めてしまった。

老年大学のPC教室には「国民機」ともいえるLenovoのエントリーデスクトップPC「家悦」シリーズが設置されていた。2つある教室に30台と20台が用意されている(写真=左)。あまり多くのことは語りたくない老年大学PC教室にあるPCのデクストップ画面(写真=右)

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