2009年1月に登場したソニー初のAtom搭載ミニノートPC「VAIO type P」は、超小型軽量の洗練されたボディデザインに、入力しやすいキーボードと高解像度のワイド液晶ディスプレイを兼ね備えており、一般ユーザーをも巻き込んだヒット商品となった。その後、さまざまなタイプのNetbookや低価格スリムノートPCが発売されたが、携帯性と入力環境の絶妙なバランスはいまだに色あせておらず、独自の魅力を放ち続けている。
そんなVAIO type Pだが、発売当初からの要望として、レスポンスの向上が求められていた。Menlowの開発コード名で知られるMID(Mobile Internet Device)/UMPC向けプラットフォームであるAtom Z500番台のCPUとIntel System Controller Hub(SCH) US15Wチップセットを搭載し、OSにはWindows Vistaを採用した構成だったため、Netbook向けのAtom N200番台+Intel 945GSE ExpressチップセットとWindows XPを組み合わせた製品に比べて、OSの基本動作が遅れることが多いのだ。
特に店頭販売向けモデルは、CPUにAtom Z520(1.33GHz)、データストレージに60GバイトHDDを用いた控えめのスペックが要因で、快適さを欲する多くのユーザーが直販モデルで選択できるグレードの高いCPUやSSDを選択する結果となった。しかし、OSの選択肢がWindows Vistaに限られる点は、パフォーマンス面でやはり不利になる。
こうした現状を打破すべく、ソニーはついにVAIO type PのWindows XPプリインストールモデルを6月6日に発売する。また、Vistaモデルのユーザーに向けて、Windows XP用ドライバの提供も行う。2009年春モデルを含むVista搭載VAIO type PとWindows XPのディスク(ライセンス)を所有しているユーザーが対象で、Windows XPの導入により発生する不具合に関してはメーカーのサポート対象外となるものの、既に購入済みのVAIO type Pも公式ドライバでXP化できるのは朗報だ。
今回は発売に先駆けて、VAIO type P店頭モデルの試作機を入手したので、Vista搭載の店頭モデルとさまざまな角度から比較した。また、夏モデルでは直販でAtom Z550(2.0GHz)や256GバイトSSDといった従来よりハイスペックなパーツを選択可能になったため、これらを搭載した試作機の検証も行った。
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まずは店頭販売向けのWindows XPモデルとVistaモデルの違いから見ていこう。Windows XPモデルの「VGN-P50/W・R・G」は、OSにWindows XP Home Edition(SP3)を採用している。Windows Vista Home Basic(SP1)搭載のワイヤレスWANモデル「VGN-P80H/W」、およびワンセグモデル「VGN-P70H/W・R・G」の下位機種という位置付けで、これらのVista搭載機種は継続販売される。スペックの主な違いは下表を参照してほしい。
VAIO type P 2009年夏モデルの仕様 | |||
---|---|---|---|
製品名 | VGN-P80H/W | VGN-P70H/W・R・G | VGN-P50/W・R・G |
OS | Windows Vista Home Basic(SP1) | Windows XP Home Edition(SP3) | |
カラー | クリスタルホワイト | クリスタルホワイト、ガーネットレッド、ペリドットグリーン | |
CPU | Atom Z520(1.33GHz) | ||
メインメモリ | 2Gバイトオンボード(DDR2-533 SDRAM) | 1Gバイトオンボード(DDR2-533 SDRAM) | |
チップセット | Intel System Controller Hub(SCH) US15W | ||
グラフィックス | チップセット内蔵(Intel GMA 500) | ||
液晶ディスプレイ | 8型ワイド(1600×768ドット)、LEDバックライト・ARコート | ||
データストレージ | 60GバイトHDD(Ultra ATA、4200rpm) | 80GバイトHDD(Ultra ATA、4200rpm) | |
光学ドライブ | − | ||
ワンセグ | − | 搭載 | − |
ワイヤレスWAN+GPS | 搭載 | − | 搭載(GPS非対応) |
無線LAN | IEEE802.11b/g/n(11nはドラフト準拠) | ||
Bluetooth | Bluetooth 2.1+EDR準拠 | ||
Webカメラ | MOTION EYE(有効画素数31万画素) | − | |
インタフェース(標準) | USB 2.0×2、ヘッドフォン、専用I/Oポート | ||
インタフェース(オプション) | アナログRGB出力、1000BASE-T有線LAN(専用I/Oポート接続アダプタ装着時) | ||
カードスロット | SDHC対応SDメモリーカード/MMCスロット、メモリースティックPROスロット | ||
キーボード | 日本語配列86キー(キーピッチ約16ミリ、キーストローク約1.2ミリ) | ||
ポインティングデバイス | スティック型 | ||
バッテリー駆動時間 | 標準:約4.5時間、大容量:約9時間 | 標準:4時間、大容量:約8.5時間 | |
本体サイズ | 245(幅)×120(奥行き)×19.8(高さ)ミリ | ||
重量 | 約636グラム | 約634グラム | 約626グラム |
発売時の実売価格 | 10万円前後 | 8万5000円前後 | |
スペックが異なる項目は表中に太字で示した通りだ。店頭販売向けのWindows XPモデルは、NTTドコモのFOMA HIGH-SPEED対応ワイヤレスWANモジュール(下り最大7.2Mbps)を標準搭載し、ワンセグチューナー搭載機は用意されない。
基本仕様はVistaモデルとほとんど共通化されているが、メインメモリが1Gバイト(オンボード実装/増設不可)と少ない一方、HDDの容量は20Gバイト増の80Gバイトを確保した。また、Webカメラが省かれたことなどの理由で、重量はわずかに軽くなり、OSの違いからバッテリー駆動時間が30分ほど短くなっている(バッテリー性能の検証は後述)。本体サイズは245(幅)×120(奥行き)×19.8(高さ)ミリ、重量は約626グラムと携帯性は抜群だ。
XPモデルの実売価格は8万5000円前後の見込みで、Vistaモデルの発売時より1万5000円ほど安い。ただし、Vistaモデルは値下がりしており、2009年5月26日現在、大手家電量販店で8万円台くらいで購入できる。
ソフトウェアの違いにも注意が必要だ。VAIO type Pでは開発のリソースをWindows Vistaに集中しており、Vistaモデルで用意されていた多くのアプリケーションは動作せず、XPモデルでは省かれている。
また、ドライバのXP対応が進んでいないことから、HD動画の再生支援機能がサポートされないことに加えて、ワイヤレスWAN内蔵のGPS機能も利用できなくなっている。インテルのドライバに起因するHD動画再生支援機能の非サポートはさておき、GPSと無線LAN機能を組み合わせたVAIO Location Searchやx-Radar、プロアトラスSV4 for VAIOといった地図情報系ソフトは便利で楽しい仕掛けだったので、レスポンスが向上したXPモデルで利用できないのは少々残念だ。
とはいえ、動作を重くさせる原因となるアプリケーション群が付属しないシンプルな構成は、VAIO type Pをとにかく軽快に使いたいと考えるユーザーにとって、最適な仕様といえるだろう。
機能 | Vistaモデル | XPモデル | |
---|---|---|---|
ハードウェア | HD動画再生支援 | ○ | − |
ワイヤレスWAN内蔵GPS | ○(VGN-P80H/W) | − | |
type P独自アプリ | ウィンドウ整列ユーティリティ | ○ | − |
VAIO Location Search | ○ | − | |
x-Radar | ○ | − | |
インスタントモード | ○ | ○ | |
VAIOアプリ | VAIO Media plus | ○ | − |
VAIO MusicBox | ○ | − | |
SonicStage V | ○ | − | |
PMB(Picture Motion Browser) | ○ | − | |
他社製アプリ | プロアトラスSV4 for VAIO | ○ | − |
WinDVD for VAIO | ○ | ○ | |
Roxio Easy Media Creator | ○ | ○(XP版) | |
ACCUSYNC for VAIO | ○ | ○ | |
Skype | ○ | ○ | |
WebCam Companion | ○ | − | |
Magic-i Visual Effects | ○ | − | |
ユーティリティ | VAIO電子マニュアル | ○ | −(PDF版) |
Fnキー | ○ | ○ | |
VAIO Smart Network | ○ | −(Wireless Smart Switch Utility搭載) | |
VAIO ハードディスクプロテクション | ○ | ○ | |
VAIOナビ | ○ | − | |
Plug & Display | ○ | − | |
電源オフの状態からWindowsよりも高速に起動が可能なLinuxベースのインスタントモードは健在だ。Vistaモデルはインスタントモード時にワイヤレスWANを利用できなかったが、XPモデルではワイヤレスWANが使えるようになったため、外出先での利便性が向上している。インスタントモードでワイヤレスWANの設定をしておくと、ブラウザ起動時にプロバイダへの接続許可を求める画面が表示され、Enterキーを押すとワイヤレスWANによるWebブラウズが行える仕組みだ。
ちなみにVistaモデルでウィンドウ整列ユーティリティに割り当てられていたボタンは「マルチモニター設定」、VAIO Media plusに割り当てられていたボタンは「消音」が出荷時設定となっている。各ボタンの機能はカスタマイズが可能だ。
なお、Vista搭載モデルの不便な点や不具合を修正するVAIO Updateによるアップデータも提供される。これにより、インスタントモードでワイヤレスWANが利用可能になるほか、Vista上でワイヤレスWANと無線LANの同時利用に対応することで、WAN接続中にPlaceEngineでの位置取得が行えるようになる。また、「VAIOの設定」のDPI変換に対応し、VistaのDPI設定を144dpiまで上げても表示の不具合が発生しなくなる。
次のページでは、直販モデルの違いをチェックしていく。
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