求められたのは薄くて軽い“T”──開発者が語るThinkPad T400sの「メリハリ」(1/2 ページ)

» 2009年07月09日 15時00分 公開
[長浜和也,ITmedia]
レノボ・ジャパン 大和事業所 研究・開発 製品開発統括担当の磯田肇氏(左)と、レノボ・ジャパン ビジネスマネージャー ノートブック製品担当の市川学氏(右)

 ThinkPad T400sは、ThinkPad X300シリーズで培った薄型軽量技術を取り入れることで、14.1型ワイド液晶ディスプレイ搭載モデルながら本体の厚さは30ミリを切り(約21.1〜25.9ミリ)、重さは2キロを切った(約1.79キロ)。しかし、低電圧版のCPUを採用したThinkPad X300シリーズと異なり、パフォーマンスを確保するために通常タイプのCPUを採用するなど、薄型軽量化に伴なう熱設計の問題はThinkPad X300シリーズより厳しくなっている。

 また、古くからのThinkPadユーザーには、発表会当日に開発者が口にした「歴代ThinkPadで最高のキーボード」がどうなるのかも気になるだろう。

 ThinkPad T400sに導入された新機軸について、レノボ・ジャパン 大和事業所 研究・開発 製品開発統括担当で、開発に「ThinkPad 600から関わっている」という磯田肇氏と、製品企画を統括したレノボ・ジャパン ビジネスマネージャー ノートブック製品担当の市川学氏に聞いた。

性能と薄型を実現したのは「個々の改善」ではない

 磯田氏によると、薄型化を目指したThinkPad X300シリーズと同じ技術を採用しながら、ThinkPad T400sは、“T”シリーズに求められるパフォーマンスや機能を確保するため、更なるブラッシュアップが施されているという。

「ThinkPad T400シリーズでは、CPUにTDP 35ワットのモデルを採用していましたが、ThinkPad T400sでは同じ通常タイプのCPUでも、SFF(Small Form Factor)対応モデルを搭載することでCPUのTDPを25ワットに抑えています」(磯田氏)と、システムを構成するパーツの選択では、薄型軽量化の実現とパフォーマンスの確保の両方を意識している。

 このように、SFF対応CPUやチップセットの搭載はTDPの抑制に貢献しているが、それとともに、基板直付けのBGA(Ball Grid Array)であるおかげで、CPUやチップセットから発生する熱をシステムボード全体に拡散することが可能になったことも熱設計では有利に働いたと磯田氏は説明している。BGAのチップを採用してシステムボードで熱を拡散する方法はThinkPad Xシリーズでも取り入れられているが、「通常電圧タイプのT400sでも採用したことが、今回新しく導入した技術になります」(磯田氏)

 第3世代となった「ふくろうブレード」のブラッシュアップについては、今回のインタビューでも詳細は明らかにされなかったものの、レノボ・ジャパンが測定したデータでは、冷却性能が5%改善したことが示されている。これは、「温度と騒音のパラメータにおいて、うるさいほどに回していいなら冷えるのは当然ですが、発生する音の許容範囲を考えて、どこまで回転数を落としていくかが問題になります。外気吸気と本体内部のエアフローのシミュレーションも繰り返し行っています」と、磯田氏は羽根の形状だけでなく、ボディ内部のレイアウトも含めた総合的な改善で実現したことを強調している。

SFF対応のCPUとチップセットを実装したThinkPad T400sのシステムボード(写真=左)。SFF対応プラットフォームと“第2世代”HDI基板の採用で基板面積はThinkPad T400シリーズの60%程度になった。レノボ・ジャパンが製品発表会で示したボディ表面温度と発生音の測定結果。ThinkPad T400から5%程度の改善が見られたという(写真=右)

コストの問題は「メリハリ」で解決する

 ThinkPad Tシリーズには「高いパフォーマンスを発揮するウルトラスリムノート」というコンセプトが与えられている。“T”シリーズの歴史は長く、携帯性は重視したいがパフォーマンスも必要なユーザーに支持され続けている。携帯性のための薄型軽量化と、高いパフォーマンスを発揮するためのハイエンドパーツの組み合わせは、ノートPCデザインのトレードオフでもバランスを取るのが最も難しいものの1つだが、最近では、「たとえ機能を増やしても、その前のモデルより価格を抑えないとユーザーに購入してもらえません」(磯田氏)という問題にも対処していかなければならないという。

 ただ、ThinkPad T400sは、ThinkPad T400シリーズの後継でなく、新規に登場したラインアップという扱いだったので、価格を従来モデルから抑えるという要求はそれほど強くなかったらしい。

 そこで、薄型軽量ボディで堅牢性を確保するために、SSDの採用や液晶天面でのハイブリッドCFRPパネルの採用など、ThinkPad X300シリーズで導入されたが価格を押し上げる要因にもなりうる新機軸がThinkPad T400sでも採用された一方で、価格を抑制するために「ThinkPad X300シリーズで導入された新機軸でも、ThinkPad T400sで採用を見合わせたものがあります」と、コストにメリハリをつけたことを磯田氏は明らかにした。

 その1つとして紹介されたのが、ThinkPad X300シリーズで採用された厚さ7ミリの光学ドライブだ。調達費が「かなり高い」と磯田氏が述べる“特製薄型”光学ドライブをやめて、ThinkPad T400sは従来のThinkPadシリーズでも使われていたウルトラベイに対応する厚さ9.5ミリのドライブを採用している。

 ただし、この理由はコストの抑制だけでない。「Tシリーズは、DVDだけでなくBlu-ray Discなど、多くの種類のデバイスが使えなければなりません。また、出荷量が多いTシリーズに搭載するには大量に確保できる必要もあります。生産できるメーカーが限られる厚さ7ミリドライブは“T”には使えないと、かなり早い段階で判断していました」(磯田氏)

 そのほかにも、従来は本体と同じ色で塗っていた液晶ディスプレイと本体をつなぐヒンジの塗装を、「社内で議論をさんざん行った結果」(磯田氏)取りやめただけでなく、本体塗装の材料をThinkPad Xシリーズから変えている。「ヒンジ塗装をやるのなら、漆のような黒。きれいですよね。でも、値段がちょっと、いや、かなり痛い。本体塗装も革のようなしっとりとした質感を“T400よりはいいけれどX301よりちょっと抑えた”感じになるペイントを使いました」(磯田氏)

炭素繊維強化樹脂(CFRP)とガラス繊維強化樹脂(GFRP)をハイブリッドにした液晶天面パネル(写真=左)。上側両端に見える銀色の無線接続用アンテナの部分はGFRPを用い、そのほかはCFRPを使っている。ThinkPad T400sはウルトラベイに対応した厚さ9.5ミリの内蔵ドライブを採用する。厚さ30ミリを切るボディに搭載するため、ドライブベイのイジェクトレバーと機構は底面に用意された(写真=右)

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月25日 更新
  1. ワコムが有機ELペンタブレットをついに投入! 「Wacom Movink 13」は約420gの軽量モデルだ (2024年04月24日)
  2. 16.3型の折りたたみノートPC「Thinkpad X1 Fold」は“大画面タブレット”として大きな価値あり (2024年04月24日)
  3. 「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり (2024年04月24日)
  4. 「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ (2024年04月23日)
  5. わずか237gとスマホ並みに軽いモバイルディスプレイ! ユニークの10.5型「UQ-PM10FHDNT-GL」を試す (2024年04月25日)
  6. Googleが「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を発表 GIGAスクール用Chromebookの「新規採用」と「継続」を両にらみ (2024年04月23日)
  7. バッファロー開発陣に聞く「Wi-Fi 7」にいち早く対応したメリット 決め手は異なる周波数を束ねる「MLO」【前編】 (2024年04月22日)
  8. 「Surface Go」が“タフブック”みたいになる耐衝撃ケース サンワサプライから登場 (2024年04月24日)
  9. ロジクール、“プロ仕様”をうたった60%レイアウト採用ワイヤレスゲーミングキーボード (2024年04月24日)
  10. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー