2009年5月から7月にかけて放送されたTBSのドラマ「MR.BRAIN」は、その大掛かりなセットと、脳科学を軸として展開される科学捜査のリアルな設定、そして、レギュラー陣や各エピソードで登場する大物ゲストの豪華なキャスティングなど、多彩な話題を提供して視聴者を楽しませてくれた。
その大掛かりなセットの中核となったのがIPS(Institute of Police Science)の研究所内部だ。そこには、解析分野ごとに設けられたラボや、研究員全員が顔をそろえる吹き抜けのミーティングエリアに、大画面ディスプレイや膨大な数のコンソールが設置され、そこに表示される解析結果のCGアニメーションやテレビ会議映像などが、重要な「視覚効果」として番組を演出した。この記事では、東宝スタジオに組まれたIPSの巨大なセットで主役の九十九龍介が実際に触って操作した“テーブルPC”のインタフェースなどの、MR.BRAINで利用されたIT設定を紹介しよう。
通常、放送でディスプレイに表示されるPC画面には、前もって用意しておいたムービーが演じているときに再生されるか、演技中には何も表示されず、後工程の編集段階ではめ込むことがほとんどだという。しかし、MR.BRAINでは、コンソールで表示される画面はすべて収録時に表示されているだけでなく、俳優の操作によって実際に操作ができるようになっていた。
MR.BRAINのIT技術の監修と実際のシステム構築、演技で使われるインタフェースの設定と開発を行ったPDトウキョウ代表取締役社長の谷川高義氏によると、これまでのはめ込み方式では、演技者にその場面のシチュエーションと画面の動きを説明しておき、それにあわせて操作をする“ふり“や画面を見る“ふり”をしてきたという。しかし、MR.BRAINでは、その場で実際に画面が表示されPCの操作が行えたことで、演技の質がぜんぜん違うものになったと谷川氏は説明する。
MR.BRAINでは、研究所の全員がそろってミーティングを行う場面で、すべての演技者が大画面スクリーンを見て演技を行い、そのときの表情を撮影することが多かった。この場合、後からはめ込む方式で演技をすると、それぞれの顔の向きや視線の動きなどに、どうしても微妙なズレが出てしまうが、MR.BRAINでは、実際に表示されるプレゼンテーションスライドを見ながら演技を行っているので、顔の向きや視線の動きだけでなく、表情が変化するタイミングまでぴたりと合ったそうだ。
ちなみに、セットに用意されたすべてのディスプレイにPCを接続しているわけではない。MR.BRAINという大掛かりなドラマでも、コスト削減は重要な課題となっている。とはいえ、化学分析に使う試験管から画像解析に使われたコンソールまで、実際に研究室で使われる機材は本当に使われている製品を“調達”している。しかし、情報機器システムの調達では、コンソールそれぞれにPCを用意したのではなく、シンクライアントを導入することで調達経費を抑制した。
MR.BRAINのセットに導入されたシンクライアント製品は、エルザジャパンの「VIXEL V200」が採用された。このモデルは、一般的なシンクライアントと異なり、ホストPC側でレンダリングした3DグラフィックスデータのIP配信に対応しており、MR.BRAINの中で使われた画像解析(版権の問題でここで掲載できないが、年少のときに消息を絶った重要参考人の成人化した人物画像を3D CGでシミュレートする場面などで使われている)のシーンなど、3D CGが使われることが予定されていたため、VIXEL V200が選ばれたという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.