ビックリなご近所事情で決まる中国静音PCの運命山谷剛史の「アジアン・アイティー」

» 2009年08月12日 16時30分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

日本で気になるPCの騒音が中国で気にならない

 相も変わらず、中国と日本を行ったり来たりの筆者だが、そのせいもあって、PC環境は中国と日本でそれぞれ用意していたりする。日本の事務所には秋葉原のジャンク屋で購入したデルの省スペースデスクトップPC「OPTIPLEX SX280」を入れている。1万円強という“ジャンク価格”のせいか、電源を入れるとその騒音が耳について気になってしまう。OptiPlex SX280は、電源に巨大なACアダプタを利用することで本体から発生する音を抑えるなど、静音性能を向上させる工夫を施しているのに、筆者には、CPUクーラーから発するファンの音がうるさく感じてしまうのだ。

 中国で使っているメインPCは、レノボのタワー型PC「家悦」シリーズで、この連載でも何度となく登場している。こちらは、マザーボードとCPUとメモリを入れ替えてケースはそのままで内部を大幅に強化しているので(そのときのいきさつは、「中国で“デュアルコア”なCeleronを探す」と「中国で“デュアルコア”なCeleronを探す……はずだった(後編)」に詳しい)、それなりに、少なくとも日本で使っているOptiPlex SX280より音は出ているはずなのだが、なぜか、中国の仕事部屋ではPCから出るファンの騒音が気にならない。なんで?

 その原因は、PCではなく部屋の外にあった。日本では、基本的に町が静かなので家に1人でいると“無音”に近い状況になる。そういう部屋の中で動いているPCの音が目立っていたらしい。一方、中国の仕事場をよくよく観察すると、猛烈な雑音に取り囲まれていたことに、今さらながら気が付いた。

 中国の仕事場は、中国奥地にある都市の、さらに市街地の外れにある。典型的な住宅地だが、それでも、趣味で演奏している楽器の音や、主婦仲間が集まって練習している合唱が決まって午後3時に聞こえてくるし、遠く離れた幹線道路からはクラクションが絶え間なく聞こえてくる。そして、隣接する集落で誰かが結婚すれば爆竹が盛大に鳴り響く。

自分の目の前でいきなりビルの解体作業が始まった。さすがに仕事はできない

 実をいうと、ここに引っ越す前は、市街地の中心部に仕事場を構えていた。当然ながら、いま以上に騒がしかったわけだが、その“無神経”加減は日本で想像できないほどにすさまじい。作業部屋の目の前で、5メートルも離れていない向かいの家が、何の予告もなく、いきなり解体されていったこともある。その轟音はもちろんのこと、窓の外が粉塵で見えなくなり、破壊される建物の破片が窓にガツカツとぶつかってきても、ひとことのおわびもなく、いたって「日常の1コマ」のように作業を進めていたりする。

 このような例は極端にしても(極端じゃない可能性も大)、騒音に囲まれて生活している中国人は、どうしても普段から声が大きくなってしまう。日本を観光で訪れた中国人が、大きな声で“歓談”しているのがやたらと目立ってしまうのも、こういう事情が少なからず影響している。実は、中国人の多くも、自分たちの声が大きいことを認識していて、改善すべき問題と認識している。しかし、自分がそれを直すのは難しいと考える中国人も少なくない。

 中国に長く滞在してから日本へ戻ると、街も家の中も電車の車内も信じがたいほどの静かで、いつも驚かされる。そういう日本だからこそ、需要の高い静音PCだが、中国の家庭やオフィスでは、静音PCを必要と感じる状況にすらなかったりする。実際、中国のPCメーカーから静音性能を重視したPCがリリースされたことがなければ、静音性能をアピールしたPCの広告もない。

 中国のIT系メディアは、日本のPC最新事情や秋葉原で注目されている製品の動向をリアルタイムで紹介している。筆者も、中国のメディアで日本の水冷PCが掲載されているのを確認しているが、それが継続的に取り上げられることはなく、中国で流行ることはなかった。日本のPC動向に詳しい自作PCユーザーが集う電脳街のPCパーツショップでも水冷キットを見ることはない。

 PCの騒音がどんなに大きくても中国では「没問題」であり、静音PCがトレンドとなることは今後もあり得ない。もし、日本のPCメーカーが中国向けに静音性能をアピールするラインアップを投入しようと考えているならば、現地の状況を1度は調べてみるべきだろう。

そんな中国でも、PCのデザインは気になるようだ

レノボが投入した「IdeaCentre A600」はタッチパネルを組み込んだ液晶一体型PCで、くの字に折れ曲がったユニークなデザインが特徴だ。2009 Internatonal CESでも展示されていた

 中国のデスクトップPCは、従来から静音性能を意識しない豪快なタワー型PCが主流だった。しかし、2009年になると、中国でもタワー型PC以外のモデルをユーザーが選択するようになってきた。2008年までは「デスクトップPCの最安値」を目指す神舟(HASEE)が中国PC市場を先導し、レノボやハイアール、方正(ファウンダー)らが追随するという流れだった。

 神舟は2009年に999元(約1万4000円)のデスクトップPCをリリースし、ついに業界では「これ以上安いPCは出せない」という考えが大勢を占めるようになった。その影響もあって、2009年のPC市場は極端な価格競争ではなく、液晶一体型PCや省スペースPCが数多く登場するようになった。2009年の中国PCメーカーは、価格ではなく、デザインを競うことで神舟との差別化をユーザーに訴えることにしたようだ(2008年の激安中国PC事情は「「神舟」が導く中国“激安”PC市場」に詳しい)。

 中国の住居は、人口が集中する大都市でもマンションで100平方メートルを超える3LDKが当たり前など、日本のマンションよりずっと広い。そういう広い家のリビングで、裕福な中国人は大画面テレビで映画を楽しむわけだが、その大画面テレビに接続するのはPCではなく、次世代DVDと中国では呼ばれている「NVD」(日本では中華レッドレイとも呼ばれる)や「HD EVD」、さらには中国家電メーカーの「ネットもできる薄型大画面テレビ」が主流となる見込みで、PCメーカーは「PCを大画面テレビに接続する」ことにはあまり積極的ではない。

 そうなると、中国の個人宅でPCの居場所になるのは、ベッドルームや書斎などに限られてしまう。現在リリースされている液晶一体型PCや省スペースPCも小部屋向けにデザインされたものが多い。

 もし、日本のPCメーカーが、2009年の中国におけるデスクトップPCの変化をチャンス到来と考えて、日本で売られているような大画面サイズの薄型液晶一体型PCを投入したとしても、それが、中国のPCユーザーに受け入れられることは、かなり難しいだろう。

激安PC路線を拡大させた神舟も2009年はデザインを重視したデスクトップPCをリリースしている。左の省スペースPCの価格は1499元、右の液晶一体型PCは1699元と、同社の激安PCよりは高めに設定されている

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