「VAIO X」の極限まで絞ったスリムボディを丸裸にする完全分解×開発秘話(3/4 ページ)

» 2009年10月08日 14時45分 公開

SSDを全面採用、システムボードは片面実装基板で薄型化

 ボトムカバーを取り外した後は、露出しているネジを順番に外すことで、システムボードとSSDが取り出せる。キーボード下のシステムボードは大きく3枚に分かれており、CPUやメモリを実装したメインボード、ワイヤレスWANモジュールと有線LAN端子を搭載したサブボード、そしてSerial ATA SSDをUltra ATAに変換してメインボードに接続する変換アダプタの小型ボードで構成されている。

 VAIO XはデータストレージにSSDのみを採用しており、64G/128G/256GバイトのSSDを選べる。1.8インチのHDDを入れても衝撃を逃がすスペースがないのは開発当初から判明しており、HDDの選択肢は考えなかったという。SSDは64GバイトのみUltra ATAタイプ、128G/256GバイトはSerial ATAタイプとなる。Intel SCH US15WチップセットはSerial ATAをサポートせず、Ultra ATA/100のIDEインタフェースしかないため、64GバイトSSDの場合のみメインボードとダイレクトに接続し、128G/256GバイトSSDではSerial ATA/Ultra ATA変換アダプタのボードを経由して接続する仕組みだ。

 Ultra ATAへの変換がボトルネックとなり、128G/256GバイトSerial ATA SSDは本来のパフォーマンスを発揮できないが、それでも64GバイトUltra ATA SSDに比べてかなり高速なので、容量だけでなく、性能においても128G/256GバイトのSerial ATA SSDは有利となる。小型化と軽量化のため、SSDは基板むき出しのモジュールを採用しており、ボトム側の厚さ自体が約9.6ミリしかないことも含め、換装はハードルが高そうだ。

分解した機材のSSDは、黒い樹脂製のフレームに固定されていた(写真=左)。左から、256Gバイト、128Gバイト、64GバイトのSSD(写真=中央/右)。256GバイトのSSD(Samsung MMDPE56GFDXP-MVB)と128GバイトのSSD(Samsung MMCRE28GFMXP-MVB)はuSATAコネクタ仕様の1.8インチドライブ(基板むき出しのスリムタイプ)で、Serial ATA/Ultra ATA変換アダプタ経由でシステムボードに接続される。64GバイトのSSD(SanDisk pSSD-P2)は小型カードでUltra ATA接続だ。いずれもMLCタイプのSSDになる

 通常VAIOのモバイルノートPCでは、CPUやコンデンサを基板の両面に実装することで小型化した両面実装基板を用いるが、VAIO Xではボディの薄さを最優先するため、あえて片面実装基板を採用してシステムボードも薄く仕上げている。メインボードは片面8層基板で、PCI Express Miniカードスロットのコネクタを配線の工夫で薄型化するなどの工夫により、コンデンサなどの部品も含め、厚さは3ミリ程度に抑えた。

 百瀬氏は「片面実装基板の開発では、コンデンサなどの部品が表面にしか配置できないので、電源のインピーダンスコントロールが不利な点と、部品の重さや基板内における銅箔(はく)の分量の偏り、実装工程における熱のかかり方のムラなどにより、基板が反り返ってしまう恐れがある点が問題となる」とし、基板の信頼性を高めるため、「電気設計、機構設計、品質評価部門が連携し、設計段階から、VAIOの開発・設計・製造を担うソニーイーエムシーエス 長野テックで顔を付き合わせ、徹底したシミュレーションを行った」という。

 VAIO Xはシステム冷却用のファンも搭載するが、林氏はその理由について「VAIO Xほどの表面積があれば、ボディで熱を拡散させてファンレス設計にすることも不可能ではないが、ファンを搭載する意味は、システムが不安定にならないこと以外に、ユーザーが不快にならないこともある。同じくAtom Z搭載のVAIO Pはファンレス設計だが、VAIO Xでは熱による不快さをなくし、薄型ボディでも熱がこもらないように、あえてファンは内蔵した」と語る。ファンはスリムボディに収まるように、約5ミリと非常に薄く作られているが、複数社に相談して話がまとまったのは1社だけだったという。

取り外したメインボードの表と裏(写真=左/中央)。片面実装なので、裏面にはなにもない。メインメモリは2GバイトのDDR2 SDRAMをオンボード実装している。Mini PCI Expressスロットには、ハーフサイズの無線LANモジュールを搭載。Bluetooth 2.1+EDRのモジュールも備える。2枚のシステムボードとSSDを取り外した状態のトップカバー(写真=右)。上部のフレキシブルケーブルが多数接続された基板にSerial ATA/Ultra ATA変換アダプタが搭載されている

冷却ファンを取り外したメインボードの表と裏(写真=左/中央)。ケーブル着脱の衝撃を抑えるため、端子のまわりには多めにネジ穴が開けられている。手前がVAIO Xの冷却ファン、奥がVAIO Tの冷却ファン(写真=右)。VAIO Xの冷却ファンは非常に薄く作られている

設計の初期段階で制作したダミーボード(写真=左)。ケーブルの先にひずみセンサーが付いており、各部にかかるストレスの具合を計算して、基板が反って破損しないよう信頼性を高めた。Mini PCI ExpressスロットにワイヤレスWANモジュールを装着し、有線LAN端子も装備したサブボードの表と裏(写真=中央/右)。こちらも片面実装基板で裏面にはなにもない。基板類の中では、Mini PCI Expressスロットに装着されているワイヤレスWANモジュールが最も厚く、この厚さを基準に基板が設計された。Mini PCI Expressスロットのコネクタも薄くなるように設計し直されている

 ボディの薄型化と実用性を両立するため、インタフェースにも工夫が見られる。「デスク上での利用や外出先でのプレゼンなどを考慮すると、有線LANとアナログRGB出力の装備は重要なので、必ず搭載したかった」と林氏。しかし、これらの端子をそのまま搭載していては、13.9ミリの薄さは実現できず、かといって小型の端子を内蔵して変換アダプタを付属すると、携帯性が損なわれたり、外出時に変換アダプタを自宅や会社に忘れてきてしまうなどの問題が生じてしまう。ビジネスシーンでの汎用性を考えると、アナログRGBの代わりにHDMIという選択肢は現実的でないと判断した。

 そこで、VAIO Xでは開閉式の有線LAN端子を採用し、アナログRGB出力端子は本体厚にギリギリ収まるように余白部分を省いた端子を特注した。有線LAN端子は開閉式にした弊害として、可動部がどうしても故障しやすくなるため、ケーブルを引っ張るなど有線LAN端子に強い負荷がかかると、開閉する部分の下側のパーツが外れ、ユーザーが手で戻しやすい構造にしている。

 アナログRGB出力については、端子自体は本体の厚さ以内に収まるが、金型の関係で周囲が出っ張っているため、通常の端子を内蔵できない。VAIO Xでは、アナログRGB出力端子の周囲を板金でのり巻きのようにかしめる構造にし、余分な突起をなくすことで、なんとか本体に内蔵した。百瀬氏は「このアナログRGB出力端子の製造も数社に交渉したが、ようやく1社作ってもらえるメーカーが見つかったおかげで実装できた」と開発時の苦労話を語る。また、基板設計の立場からは「内部の基板やコネクタを見てもらえば分かる通り、非常に凝縮された作りになっているので、手に持ってその凝縮感を味わってほしい」とのコメント。

 ちなみに、VAIO Xはキー間隔を離したアイソレーションキーボードを採用し、キーピッチは約17ミリ、キーストロークは約1.2ミリを確保する。キーボードをボディの横幅いっぱいまで広げていないのは、ボディが薄すぎるため、左右に配置されたインタフェースとキーボードユニットが干渉してしまうからだ。

有線LANの端子は未使用時に閉じられる構造にして、薄型化した(写真=左)。右に置かれた通常の有線LAN端子に比べて、かなり薄くなっている。強度の検証などで、何度も作り直して現在の形に落ち着いたという。左がVAIO X、右がVAIO TのアナログRGB出力端子(写真=右)。コネクタを囲む板金をかしめる構造とし、プレスによる端子上下の余白部分を削除した。なお、有線LANやアナログRGB出力にケーブルを接続する場合、ケーブル側の端子がVAIO Xの厚みを上回るため、底面のツメを立てる必要がある

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